表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/5

第三話:偽りの誕生日

どうやら俺は、桜ヶ丘北高校三年B組の「岡戸拓也」という人物らしい。

チャイムの鳴る1分前に教室に入る。


「おはよ、今日もギリギリだね」


アキが呆れたように言う。


「ギリギリじゃない、狙ってんの」


俺は岡戸君になりきって、コンビニで買ったおにぎりを頬張りながら机についた。

 自転車を全力で漕いできたにもかかわらず、息切れ一つもしない若い身体は素晴らしい。


 普通の人間ならこの状況に参ってしまうだろう。しかし俺は違う。幼少期からの転校生活、8回の転職。そんな経験が育んだ『新しい環境への適応能力』は伊達じゃない。加えて岡戸君の記憶のインストール。何も恐れることはない。渋谷拓也と岡戸拓也、二人の拓也の青春は、ここからはじまる。


 授業についていけるか不安だったが、岡戸くんの記憶と俺の昔の記憶が合わさり、授業も理解することができた。昔は勉強が嫌いだったが、こうして学び直すのも悪くないと思った。


 休み時間になり、アキの席に宮下さんが占いの本を持ってやってきた。


「私は10月10日生まれのさそり座!今月の恋愛運は……!『絶好調!好きな彼と急接近!』だって〜!!」


ポニーテールを揺らして喜ぶ姿を、つい目で追ってしまう。女子がキャッキャしている様子は、どこか微笑ましい。


「アキは誕生日いつだっけ?」

「……3月27日だよ」


一瞬の間があった。


「じゃあ牡羊座か!牡羊座の恋愛運は……」


嘘だ。アキの誕生日は6月11日だ。

 岡戸君の記憶によれば、アキは昔から誕生日を聞かれると「3月27日」と答えるらしい。


「なんで誕生日、嘘つくの?」


 小学生の岡戸君はアキに尋ねる。

 アキはか細い声で答えた。


「……祝われたり、プレゼント貰うのがいやだから……学校がお休みの春休みに設定してるの」

「えっ?おめでとうって祝われるの嬉しくない?」


言ってる意味が分からなくてキョトンとしていると、アキは焦ったように言葉を継いだ。


「私は、歳をとりたくないの!永遠のレディー?だから、乙女心?がわからない男ね!」


 乙女心はよく分からないが、適当にはぐらかされた気がする。だが、アキの本当の誕生日を知っているのが俺だけという事実に、岡戸君の記憶は優越感に浸っていた。


 

 それから毎年6月11日は特別な日になった。岡戸君は登校前、朝一番にプレゼントを渡しながら「誕生日おめでとう」と伝えるそうだ。


 まさに、俺の憧れる幼馴染の理想郷がここにはある。

 ……ちなみに、プレゼントを受け取ってもらったことは一度もないらしい。ドンマイ岡戸君!


 しかし、岡戸君は記憶だけ残して、どこに行ってしまったのだろうか…。

 ……答えの出ない問題を考えるのは時間の無駄だと、オッサンは社会で学んだ。だから、深くは考えないことにする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ