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第4話 怖いものは怖い



「忘れろ」


「無理です」


「忘れろ」


「命令が物理的に怖い!」


「お前が朝からおかしいせいで、こちらまで調子が狂う」


 ゼルフィアはそう吐き捨てるように言って、わざとらしく顔を背けた。黒髪の隙間から覗いた耳の先が、ほんのり赤い。普段の彼女なら弱みなんて鎧の内側へ何重にも隠して、こちらが覗こうとした時点で蜘蛛脚の先端を喉元へ突きつけてきそうなのに、今だけは昨夜の記憶と地続きの柔らかさがわずかに残っているように見えた。


 その横顔を見て、俺はまた妙な気分になった。怖い。正直、めちゃくちゃ怖い。背中から黒曜石みたいな蜘蛛脚が生えていて、たぶん糸一本で俺の両手両足をまとめて縛れて、戦闘になれば俺が「えっ」と言い終わる前に首筋へ刃物か毒針かよくわからない危険物を添えてきそうな恐ろしい相手である。なのに彼女は、グレン・イーフリートという男に対して間違いなく特別な感情を持っている。


 そして今の俺は、その男の身体に入っている。いや、身体だけならまだ逃げ道があった。中身は完全に風上瞬太です、すみません、返却方法を探しています、と心の中で土下座する余地もあった。けれど実際には、昨夜の記憶も戦い方の断片も、ゼルフィアの名前を呼ぶ時に胸の奥で勝手に動く熱も、少しずつ俺の中へ混ざり始めている。


 風上瞬太としての俺は、昨夜の出来事を思い出すだけで鼻血を出す顔面偏差値50前後の情けない男だ。一方でグレンとしての俺は、ゼルフィアの横顔を見ただけで、彼女が不機嫌そうに見えて実は照れていることも、こちらから距離を詰めすぎると蜘蛛脚より先に視線で刺してくることも当然のように知っている。この二つの感覚が頭の中で肩を組まずに殴り合っているせいで、俺の精神はさっきからずっと謝罪会見の壇上に立たされている気分だった。


「なあ、ゼルフィア」


「何だ」


「俺が本当に変になってたら、君はどうする?」


 問いかけると、ゼルフィアはすぐには答えなかった。石造りの回廊に靴音だけが響き、黒い外套の裾が静かに揺れる。背中の蜘蛛脚は攻撃の気配を消すように畳まれていて、その沈黙がかえって彼女の本気を伝えてきた。


「程度による」


「もし、昨日までのグレンと違うままだったら?」


「見極める」


「見極める?」


「お前が壊れたのか、何かに侵されたのか、それとも別の形で変わっただけなのか。私が近くで見て、声を聞いて、戦わせて、必要なら縛ってでも確かめる」


「途中から検査方法が物騒なんだけど」


「危険なら拘束する。暴れるなら毒も使う」


「判断が早すぎる!」


「殺しはしない」


「そこだけ聞くと優しいんだけどなあ!」


 ゼルフィアはようやくこちらを見た。赤い瞳は冷たく澄んでいるのに、その奥には昨夜とは違う種類の熱があった。


「お前を殺す権利を、他の誰かに渡すつもりはない」


「優しさの方向性が魔族!」


 思わず叫ぶと、ゼルフィアはわずかに眉を寄せた。怒ったというより、「なぜそこで驚く」と本気で理解できていない顔だった。こちらは“殺さない”を最低限の人道として受け取っているのに、向こうは“お前を殺す役目を他人へ譲らない”をかなり温情寄りの宣言として出してくる。会話しているはずなのに、文化人類学のフィールドワークを命綱なしでやらされている気分になってきた。


「グレン」


「はい」


「その妙な怯え方はやめろ」


「妙って言われても、これから命懸けの決闘に行く人間としてはかなり自然な反応だと思うんだけど」


「お前がそれを言うから妙なんだ。昨日までのお前なら、相手の名を聞いた時点で笑っていた」


「だいぶ治安が悪いな」


「治安ではなく誇りの話だ。炎爵家の嫡男が、闘場へ入る前から目を泳がせてどうする」


「目くらい泳がせてくれ。心はもう溺れてる」


「ふざける余裕があるなら背筋を伸ばせ。血刻戦儀は、ただ相手を倒せば済む場ではない。観客、家臣、貴族、対戦相手、そしてイシュレド様に、お前がまだ牙を持っていると示す場だ」


「要求されているものが入学初日の自己紹介より重い」


「当然だ。血を刻むとは、自分が何者かを他者の記憶に焼きつけることだ」


 血を刻む。


 その言葉が耳に入った途端、頭の奥で古い扉が軋むように開いた。幼いグレンが訓練場に立っている。両手で握った剣は身体に合わないほど重く、刃には赤い炎がまとわりつき、向かいに立つ父らしき男の声が、熱い鉄を打つ槌みたいに低く響いていた。


 ――イーフリートの炎は、ただ燃やすためのものではない。


 ――退くな。炎は前に進む。


 ――敵だけを焼くな。己の臆病も、停滞も、迷いも燃やせ。


 胃が痛い。


 前世の父親は「無理するなよ」と言ってくれるタイプだったのに、こっちの父親は教育方針が最初から最後まで炎上している。いや、炎爵家だから比喩としては正しいのかもしれないけれど、子育てにまで属性を持ち込まないでほしい。


「……ちなみに、今日のフィオナさんって、どのくらい強いの?」


「まともに絡め取られれば終わる」


「絡め取られる?」


「フィオナは水妖魔族だ。周囲の水分と魔力を操り、相手の動きを封じることに長けている。派手に切り裂く相手ではない。燃やし尽くす相手でもない。相手を傷つけず、息と力と戦意だけを奪って膝をつかせる」


「説明だけ聞くと平和的な制圧術っぽいのに、背筋に嫌な汗が出てきた」


「彼女は気に入った相手を水牢に閉じ込める。溺れさせるためではなく、酸素と魔力を薄く削り、抵抗だけを奪い、逃げる気力を溶かしていく。本人はそれを“保護”と呼ぶ」


「保護の概念が水責め寄りすぎる」


「お前は炎を扱う。水との相性は悪い。まして今みたいに目が泳いでいる状態では、炎を練る前に水圧で口まで塞がれるぞ」


「口を塞がれる前提の試合、もう欠場理由として十分じゃない?」


「逃げれば、炎爵家の嫡男が水妖の女に怯えたと広まるぞ?」


 ゼルフィアは呆れたように息を吐き、こちらへ歩み寄った。赤い瞳がまっすぐ俺を射抜く。昨夜の熱を帯びた目とは違う。今の彼女は、獲物を値踏みする捕食者というより、鈍った刃を見つけた戦士の顔をしていた。


「勝ち筋は単純だ。ようは近づかせなければいい。ヤツの水を散らし、術式の芯を見つけろ。拘束される前に焼き切るんだ」


「単純って言葉の意味、俺と君で共有できてない気がする」


「お前ならできるさ」


「信頼が重いって」


「できなければ、私があとで縛って矯正するがな」


「信頼じゃなくて脅迫だった!」


 叫びながらも、俺は思わず自分の右手を見下ろしていた。黒みを帯びた爪の根元から、肌の下を細く走る赤い紋様が脈打つように淡く光っている。意識を向けると、胸の奥にある炎核がじわりと熱を持ち、心臓とは別の場所で火種が息を吹き返すような感覚があった。人間として二十一年そこそこ生きてきた身からすれば、体内に熱源がある時点で病院案件なのに、この身体はそれを異常ではなく当然として受け入れている。


 まったく使えないわけではないのだと、嫌でもわかった。頭で理解してるわけじゃない。授業で習った覚えもないし、スマホの攻略wikiにも載っていない。けれど身体は、魔力を血管の奥へどう巡らせるか、炎を指先でどう起こすか、拳に熱を乗せるにはどこへ力を集めればいいのかを知っている。足裏から石床へ魔力を流し、踏み込みを重く鋭くする感覚まで、まるで前から使っていた道具のように馴染んでいた。


 いや、自転車と炎魔法を同じ棚に置くのは、さすがに自転車へ失礼だ。自転車は失敗しても膝を擦りむくか、最悪ちょっと恥ずかしい転び方をして通行人に見られるくらいで済む。この身体は加減を間違えたら、俺だけでなく廊下と壁と使用人と屋敷の歴史ある調度品までまとめて炎上案件になりかねない。炎爵家嫡男、初日のやらかしで自宅を焼く。見出しとしては勢いがあるが、人生のニュースに載せたい内容ではない。


 そんなことを考えているうちに、回廊の先が開けた。重い扉を抜けると外気が頬を撫で、俺は思わず足を止めた。空は薄暗い赤紫色に染まり、太陽らしいものは雲とも煙ともつかない黒い霞の向こうに滲んでいる。遠くには刃物の背みたいに鋭い黒山脈が連なり、その麓には朽ちた巨塔、白骨のような橋、空中に浮かんだまま崩れかけている都市の残骸が、現実感のない絵画みたいに広がっていた。


 魔大陸ネクロヴァルディア。滅びの土地。忘れられた大陸。今朝、バルガスから聞かされた説明が頭の中でよみがえる。世界から見れば、ここは死んだ場所らしい。勇者と魔王の戦いの果てに焼かれ、見捨てられ、地図の端へ押し込められた墓場みたいな大陸。説明だけなら、もっと陰気で、静かで、骨と灰しか残っていない場所を想像していた。


 けれど俺の目の前には、確かに生活があった。鍛冶場から赤い火花が噴き上がり、角の生えた職人が巨大な槌を振るい、獣人の子供たちが兵士の足元をすり抜けるように走っていく。荷車を引く商人は山羊のような角を揺らしながら値段交渉で声を張り、翼を持つ兵士たちは城壁の上を影のように飛び交い、遠くの訓練場からは武器と武器がぶつかる硬い音が何度も響いていた。


 俺の知っている朝の町並みとは何もかも違う。コンビニも駅前のパン屋も自転車で爆走する高校生もいない。代わりにいるのは、牙と角と翼を持った人々で、空には見たことのない獣が飛び、街の外れには骨で組まれた見張り塔が立っている。それでもここは廃墟ではなかった。滅びた後に残った死体ではなく、傷だらけのまま息をしている土地だった。


 この大陸は、まだ生きている。


 そんな感想が自分の中から自然に浮かんだことに、俺自身が少し驚いた。


「どうした」


 ゼルフィアが横から問いかけてきた。


「いや、なんか……思ってたより、ちゃんと街なんだなって」


「当然だ。ここには生きている者がいる」


「そっか」


「人類側の記録では、魔大陸は死の荒野として扱われているらしいがな。実際、廃墟はある。飢えもある。争いもある。力のない集落が朝を迎えられず、地図から消えることも珍しくない。それでも、ここは私たちの土地だ」


 ゼルフィアの声には、はっきりと誇りがあった。怒りでも虚勢でもなく、傷だらけの場所を自分のものとして引き受けている者の声だった。俺はその横顔を見て、少しだけ言葉を失う。彼女は怖い。魔族の価値観もだいぶおかしい。血刻戦儀なんて制度は、現代日本の感覚からすればアウト判定どころか、倫理委員会が全力疾走で会議室へ駆け込んでくる案件である。それでも、ここに住む彼女たちにとっては、この荒れた大地と争いの掟こそが生きる場所なのだ。俺が勝手に放り込まれて、勝手に怯えて、勝手に野蛮だと切り捨てていいものではないのかもしれない。


 そんな少し真面目な考えが胸の奥へ落ちかけた直後、前方から腹の底を殴るような歓声が轟いた。俺の中に芽生えかけていた異文化理解の精神は、一秒で靴底に踏まれた豆苗くらいしおれた。


 無理。


 やっぱり怖いものは怖い。


 前方には、巨大な円形闘場がそびえていた。黒い石で積み上げられた外壁は城塞みたいに分厚く、表面を走る赤い紋様が生き物の血管のように脈打っている。外周には牙を思わせる門柱が並び、門の奥からは熱気、歓声、獣の唸り声、金属が打ち合うような音が混ざって流れてきた。大学の講義棟へ向かう朝とは情報量が違いすぎる。俺の通学路にこんな施設があったら、単位どころか命の履修登録を迫られている。


 門の上には、赤黒い文字が刻まれていた。見たこともない文字だ。けれどグレンの記憶が意味だけを勝手に翻訳してくる。


 ――血を刻め。


 ――名を示せ。


 ――弱き停滞を焼き捨てよ。


「スローガンが怖い!」


「何を急に」


「入口に書いてあるやつ!」


「良い言葉だろう」


「どこがだよ」


 闘場の前には、多種多様な魔族が群がっていた。狼耳をぴんと立てた女戦士、蜂の翅を背中で震わせる金髪美女、石像がそのまま歩いてきたみたいな巨漢、顔色だけなら三日徹夜明けの俺といい勝負をしそうな吸血鬼風の貴婦人、身体の向こう側に屋台の看板が透けて見える半透明の少年、尻尾の先に毒針をぶら下げた狩猟系美女。情報量が多すぎる。美男美女を見ればいいのか、追加パーツを警戒すればいいのか、社会科見学みたいに観察すればいいのか、今から命懸けの試合へ放り込まれる当事者として震えればいいのか、脳内の処理窓口が完全に混雑していた。


 しかも、全員が俺を見ている。数え切れないほどの視線が刺さる。比喩ではなく、魔族の視線には本当に刺突属性があるのではないかと疑いたくなる圧があった。


「あれがグレン・イーフリートか」


「今朝、屋敷で王核反応が出たという噂は本当か」


「炎爵家の嫡男にしては顔色が悪いな」


「ゼルフィア様に連行されているぞ」


「昨夜やりすぎたんじゃないか?」


「イーフリート家の炎は朝まで燃えるらしいからな」


 やめろ。聞こえている。魔族の噂話はなぜこうも声量調整が終わっているのか。こっちはまだ精神的には大学の教室で後ろの席から聞こえる「風上って彼女できたことなさそうだよな」程度の陰口にも傷つく庶民なのに、異世界初日から観衆規模で昨夜の事情を推測されるのは負荷が高すぎる。


 ゼルフィアの糸が、俺の手首をきゅっと締めた。痛みはない。細く冷たい感触が肌に沈み、逃げるな、と言葉よりもはっきり伝えてくる。


「顔を上げろ、グレン」


「無理。社会的にも生命的にも怖い」


「また妙な言い回しを。朝からずっと調子が狂っているな」


「調子が狂ってるのは事実だけど、今この状況で平然としていられるほうがおかしくない?」


「お前が平然としていないことのほうが珍しい。昨日までなら、あの程度の視線は鼻で笑っていただろう」


「メンタルが鋼すぎない?」


「鋼ではなく、炎だ。燃やして進むのがイーフリートだろう」


「家訓みたいに言われても困る」


 ゼルフィアは呆れたように息を吐き、俺の横顔を鋭く見た。


「いいか。血刻戦儀では、戦う前から勝負が始まっている。怯えを見せれば相手はそこを抉る。余裕を見せれば相手は裏を探る。怒りを見せれば相手は誘う。何を考えていようと、決して外へ出すな」


「要求レベルが面接対策どころじゃない」


「面接とは何だ」


「人生を左右する場で、知らない相手に品定めされる儀式」


「なら血刻戦儀と似たようなものだな」


「似てない。少なくとも俺の知ってる面接は負けても水牢なんかには沈められない」


「つまらない儀式だな」


「安全をつまらないって言うな」


 ゼルフィアはわずかに目を細めた。笑ったのか呆れたのか、判別しにくい顔だった。


「本当に今日は臆病だな。昨夜の威勢はどこへ消えた」


「昨夜の話をここで出すのは反則だろ!」


「反則も何も、事実だ。あれほど私のことを好き勝手しておいて、今さら観衆の視線ごときで震えるな」


「言い方! 周りに聞こえたら俺の社会的生命が終わるだろ!」


「炎爵家の嫡男に、そんな柔らかい生命があるものか」


「あるんだよ! 少なくとも俺の心にはある!」


「なら焼け。柔らかい部分ごと燃やして立て」


「励ましが完全に魔族式!」


 ゼルフィアは俺の手首に絡めた糸を軽く引いた。無理に引っ張ろうとする強引さはなかったが、立ち止まることだけは許さないという意思があった。


「仮にもお前は私が認めた男なんだぞ」


「その言い方、ずるいんだけど」


「ずるくて結構だ。お前には闘場の中で証明してもらう。今朝の妙な態度がただの悪ふざけなのか、頭でも打ったのか、それとも本当に牙が鈍ったのか」


「悪ふざけでここまで怯えてたら逆に才能だろ」


「お前ならやりかねない」


「信用のされ方が悲しい!」


「震えるなら内側だけにしろ。顔は上げろ。背筋を伸ばせ。お前はグレン・イーフリートだ」


 その言い方は卑怯だった。怖いものは怖い。帰りたい気持ちも、六畳のアパートと半額弁当への未練も、胸の中でまだ元気に手を振っている。それでもゼルフィアがそんなふうに言うなら、少しくらい顔を上げないといけない気がした。俺は奥歯を噛み、背筋を伸ばす。胸の奥の炎核がゆっくり熱を帯び、観客たちの視線が肌の上をざらざらと擦っていく。


 息を吸う。吐く。


 俺はグレン・イーフリート。炎爵家の嫡男。蒼牙戦域の戦闘貴族。なお中身については以下同文。自己紹介欄に書いたら担当者が赤ペンを投げそうな複雑さだった。


 門をくぐると、闘場内部の熱気が壁のように押し寄せてきた。客席はすり鉢状に高く広がり、数百どころか数千に見える魔族たちが牙を剥き、翼を鳴らし、拳を突き上げながら耳を劈くような歓声を上げている。中央の舞台は黒石で作られ、表面には赤い血管めいた術式線が走り、踏み込む者の血と魔力を待っているみたいに鈍く脈打っていた。


 血刻戦儀――それは単なる決闘ではない。力比べですらない。魔族社会において、自分という存在がどれほど価値を持つのかを、血と勝敗で周囲へ刻みつけるための儀式だ。グレンの記憶が、その重さを嫌というほど知っている。ここで勝てば名が上がる。発言力が増す。家臣は忠誠を深め、他家は無視できなくなり、婚姻候補たちは値踏みする目を変える。逆に負ければ奪われる。領地、権利、名誉、発言権、家臣からの信頼、炎爵家という看板が持つ威光、そのすべてが黒石の舞台の上へ並べられ、敗北と同時に切り取られていく。


 つまりこの世界における戦いは、スポーツでも競技でもなかった。もっと生々しく、もっと露骨だ。人生そのものを賭け札にして、「お前は生き残る価値があるのか」と観衆全員から査定される公開処刑台に近い。


 大学のプレゼン発表ですら前日は腹を壊していた男に、「負けたら家の格が落ちます」とかいう重責を背負わせるな。荷重設定がおかしい。異世界転生には初心者保護期間とか存在しないのか。


 冷静に考えなくても状況が終わっていた。


 俺は乾いた喉を鳴らした。


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