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93 冒険者のお仕事 ハードモード その6

 ――あとはあいつとの一本勝負だな。


 確か、そんな無駄に格好つけたセリフで、前回のエピソードを終えた俺だったが、冷静に考えたら近づかれたら死ぬようなヤバイ敵とまともに戦えるわけがないので、ただいま絶賛全力疾走中である。

 チートすぎるでしょ、こっちから攻撃しただけでもジ・エンドじゃないか。

 絶対回避があっても全く安心できない。

 果たしてこんなのものを勝負と呼べるのか。

 良くて鬼ごっこ、悪くて草むしりだ。

 もちろん俺が草ね。


「はぁ……はぁ……」


 まずいな、息切れしてきた。

 そろそろ許してもらいたいところだが、不死怨霊(スパイトガイスト)にそんな慈悲深い側面はないらしく、奴は悠々と浮遊しながら一直線に俺へ向かってくる。

 肉体や精神を持たないアンデッドは疲弊しないのか、全然速度を落とす気配がない。

 馬鹿正直に追いかけっこを続けていたら、間違いなく俺が先にくたばるだろう。


 ミンがソファイリを連れて戻ってくるまで逃げ切る方法は、何かないものか……ん?

 あれはどうだ?


 俺の背丈ほどある雑草がボウボウに生い茂っている場所が少し離れたところにある。

 あの中に潜めば不死怨霊(スパイトガイスト)から隠れて、時間を稼げるかもしれない。


 俺は残っている力を振り絞って全力でその中に駆け込み、すぐに地面に横になって息を止めた。

 いくら執念深いあいつでも、これを全部掻き分けて俺を探し出そうだなんて思うわけが――


「ギヒョアィイイイイー!!!」


 ――ない、と言いたいところだったが、あいつが近づいてきただけで雑草が灰になっていくじゃないか!

 慌てすぎていて、あいつのタチが悪い性質をすっかり忘れていた。

 

「ゼーハー! ちょ、ちょっと、タンマ! もう、無理! ギブギブ!」


「ギョイシニャアァーーーーィイイ!!!」


 無理だ。どうにもならん。

 恐怖と疲労が混ざり合いまくって、苦しくて気絶しそうだ。


 な、何かこの危機を乗り越えるために使える、都合が良いアイテムはないのか!?

 俺は悔し紛れに両手をソファイリのアイテムボックスの中に突っ込んだ。


「ひっ!」


 つ、冷たい? というか濡れてる? スケトンの涎か?

 この中は一体どうなってるんだ?


 ……って、それどころじゃないな。

 何かないのか!? 何かないのか!?

 と焦っている某猫型ロボットのようにアイテムボックスの中を漁る。


「これだ!」


 ――と叫びながら俺が自信満々に取り出したのは、白いブラジャーだった。


 こんなもの入れるなよ! お前の部屋にタンスあるだろ!


 ……いや、待てよ。

 俺の記憶が正しければ、確かソファイリは諸々のご事情のせいで必要がないせいか、普段ブラジャーをつけていないはずだ。

 となると、この中にこれを入れていたというか封印していた理由は、万が一いつか必要になった時の為……って、だからそれどころじゃないから!


「ああ、もうどうにでもなれ! えいやーっ!!!」


 俺はブラジャーを投げつけてやろうと腕を振りかぶった……つもりだったのだが、うっかりアイテムボックスの方を投げつけてしまった。

 アイテムボックスは空気を貫きながら、不死怨霊(スパイトガイスト)の頭上までたどり着き、パカっと蓋を開いた。


 ――ドッザァァァァァァァァァァッ!!!


 滝だった。


 アイテムボックスから出てきたものは滝だった。

 おそらく湖の中に沈めていた間に溜まったのだろう。


「ギョタシュュケェェェーーーッ!!!」


 不死怨霊(スパイトガイスト)は凄まじい水圧に、なすすべも無く押しつぶされ、けたたましい断末魔をあげながら消え去った。


 た、助かった……。


「ド……ドボゴヒ……。ペッ……」


「スケトン! お前も無事だったのか!」


 運よく助かったずぶ濡れの愛ロバに、俺は一寸の迷いもなく抱きついた。

 空気もまだ幾分か入っていたおかげで助かったのだろうが、俺はこいつをプールみたいになっていたアイテムボックスに閉じ込めていたってことだよな。

 最悪な飼い主だ……。


「フーン! 大丈夫なの!?」


「……連れてきた」


 どうやら一足遅れて助けがやってきたみたいだ。

 もっと早くこいよと文句を言いたいところだが……俺が茂みの中に隠れるなんてバカなことをせずに、一直線にバリーを目指していたら、多分、ミンは間に合っていただろう。

 なので、これは自業自得だ。


「ああ、大丈夫だ。俺が不死怨霊(スパイトガイスト)を難なく仕留めたからな」


 グッとサムズアップを披露する。


「良かった……って、あんたその手に何を握ってるのよ!」


「何って、お前のブラジ……あっ」



***



 その後、俺たちはアダマンタイトとワスプの毒針を依頼主たちに送り届け、依頼達成を報告しにギルドの事務所へ戻った。

 達成できなかった畑整備の依頼は、他の依頼から得た報酬でキャンセル料金を払うつもりだったのだが、なぜかちょっと前に依頼主がここへきて達成報告を入れていったらしい。

 しかも、受付嬢によるとかなり嬉しそうだったとのことだ。

 理由はわからないが、儲かるに越したことはないので、ありがたく報酬を受け取っておこう。


「ミン、セタニア、今日は街でご馳走を食べようぜ!」


「やったー! すぐ、いこうヨ!」


「……賛成」

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