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91 冒険者のお仕事 ハードモード その4

「ふむふむ……」


 アイテムボックスの上に座って、ゆらりゆらりと湖の表面を漂いながら、俺は二つの水しぶきが漁師たちの船に近づいていくのをのんびりと観察している。一応、彼らを守る依頼を受けた身なので少し罪悪感はあるが、泳げない上に戦えもしない俺にはどうすることもできない。


 どうせならハリウッド映画みたいな、迫力満点の惨殺シーンを披露しながら散ってくれるように頑張ってもらいたいところだ。せめてもの救いに、彼らが勇敢に沼竜(マッドドレイク)に立ち向かう姿を、俺が武勇伝として後世に語り継ぐことを約束する。


「おっ?」


 船に近づいていた水しぶきのうちの一つが突然に消えた。

 どうやらあっちの魔物は水の中に潜ったみたいだ。

 反対側から沼竜(マッドドレイク)が泳いできているのに気づいて、逃げてしまったのだろうか。

 それとも船底を食いちぎって下から登場するつもりなのだろうか。

 漁師たちには気の毒だけど、見栄え的には後者の方が嬉しいかな。


 ――と、そんな不謹慎なことを考えていると、今度はもう一つの水しぶきもパッと手品のように消え失せた。


 様子がおかしい。

 何がなんだかわからなくなってきたが、数分後に沼竜(マッドドレイク)の死体らしきものが水面に浮かび上がってくると、事態の真相についてだいたい察しはついた。


 一人の女が水の中から現れて沼竜(マッドドレイク)の死体の上に飛び乗った。

 うん、やっぱそうだよな。

 もう一つの水しぶきの正体は魔物ではなく、セタニアだったのだ。

 リアルジョーズが見れなかったのは残念だが、まあ、漁師たちが無事でよかった。

 ここで死んでいたら、明らかに俺の責任だったしな。


「おーい、助けてくれ〜」


 両腕を頭上で振りながらセタニアを呼ぶ。

 水はもう胸まで届いているので、そろそろ助けてくれないとまずい状態だ。

 幸い彼女はあっという間にここまで泳いできてくれた。

 

「わすぷたおしてきたヨ、モーラノイ」


「よくやった、セタニア。あとは俺とミンに任せておいてくれ。お前はここで漁師たちの護衛を続けていればいい」


「おっけー、わかったヨ」


 セタニアに泳いでもらって岸まで辿り着き、ミンと合流すると、俺は愛ロバのスケトンに飛び乗って再び森へ向かって出発した。



***



 明らかに森の中の雰囲気が変わっているのを肌で感じ取れる。

 敵の気配が全く感じられない上に、右にも左にも、ドロップアイテムであるワスプの毒針がゴロゴロと落ちている。

 ここで非道な大虐殺があったことは間違いない。


「ミン、毒針を拾うのを手伝ってくれ。アイテムボックスはここにあるから」


「……了解」


 毒がついている先っぽに触れないように気をつけながら地面から拾い上げ、俺は手当たり次第に毒針をソファイリのアイテムボックスに突っ込んだ。

 もし今俺がしていることがソファイリにバレたら、間違いなく酷い目に合うな。

 ファイアーボール二、三発どころではないお仕置きが俺を襲うだろう。

 返す前にしっかりと中身を確認して、完全な証拠隠滅を心がけたいところだ。


 ワスプの残骸を拾いながら、いつものごとく適当に道を決めて奥へ向かって進んでいくと、俺たちは洞窟の前に到着した。

 根拠は勘以外にないが、ここが四つ目の依頼に書いてあったアダマンタイトとやらが採掘できる洞窟なのだろう。

 簡単に見つかってよかった。


 まあ、簡単に見つかったところまではよかったのだが……。

 

「……」


「……」


 お互い、何も言わずに洞窟の前に何分か佇んでいると、ついにミンが口を開いた。


「……入らないの?」


「ん? あ、ああ。入るぞ。これから。今すぐに」


 咄嗟にそんなセリフが出てくるが、俺の足は竦んでいてうんともすんとも動かない。

 絶対に攻撃が当たらないという確信があるので、目に見える魔物の前に自分の身を投げ出せるほどには、俺の豆腐メンタルは強化されつつあるが……未知の恐怖は流石にまだハードルが高い。

 真っ暗だし、お化け出そうだし、正直に言って全然入りたくない。

 帰ろっかな……。


「……怖い?」


「そ、そんなわけないだろ! 全然、まったくもって、これっぽっちも怖くないぞ」


「……外で待ってて。取ってくる」


「いや、それじゃダメなんだよ。俺が行かないと、アダマンタイトが確実に採掘できない」


 困ったものだ。

 洞窟ごと爆破すれば上手いことアダマンタイトだけ出てきてくれるだろうか。

 少々手荒い手段だが、他に解決策が思いつかない。

 いや、でもぶっ壊れ腕力チートのセタニアなくして、洞窟を破壊するなんて無理か。


「もう少し明るくなってくれれば、入りやすくなるんだけどな」


「……洞窟は明るくならない。でも――」


 ミンは弓を構えた。


「――炎の矢(ファイヤーショット)」


 放たれた矢は空中で着火し、洞窟の天井にぐさりと突き刺さってもそのまま轟々と勢いよく燃え続けている。


「……明るくするのは可能」


「ナイスだ、ミン!」


「……役に立った?」


「ん? ああ、今日のお前は物凄く役に立ってるぞ」


 便利だな、こいつの弓スキル。ソファイリの魔法並みに万能だ。

 俺にも、もう少し使い勝手がいい汎用スキルがあれば、できることの幅が広がるんだけどな……。

 タライを落としたり、るてるて坊主で周囲に雨を降らしたりと、所有スキルは飲み会での一発芸にしかならないやつばかりだ。


「炎の矢(ファイヤーショット)。炎の矢(ファイヤーショット)。炎の矢(ファイヤーショット)」


 立て続けに矢を天井に射り、どんどん洞窟の奥を照らしていく。

 狭い洞窟の中であんなに豪快に炎を燃やして、酸素的に大丈夫なのかと心配になるが、まあ、F○でもドラ○エでも洞窟の中で炎魔法は使えるし、特に問題はないのだろうと納得しておくことにしよう。

 現実のルールより、ゲームのルールの方が当てはまるもの多いしな、この世界。


「ミン、そろそろ採掘してみるか。俺の勘によるとここら辺からアダマンタイトが出てくるような気がする」


「……わかった」


 あ、ちょっと待てよ。

 ものすごーく根本的な疑問なんだが……どうやって採掘するんだ?

 俺が知っている参考になりそうなゲームと言ったら、ハンマーを使っていた牧場○語と、スコップを使っていた動○の森があるが、そんな都合がいい道具の持ち合わせはないぞ。

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