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88 冒険者のお仕事 ハードモード その1

 あのフォレストドラゴンの一件以来、俺の中では異常性癖が芽生えつつあった。

 この違和感に塗れた新感覚は、うずうずと体が震えるほど俺を興奮させ、衝動的に行動したくなるほど内側の活気を煮えたぎらせた。


 実に不思議だ。

 なぜか冒険者ギルドで仕事を受けることが、いつの間にか楽しみになっていたのだ。


 お金が必要なければ、仕事など絶対にするわけがない。

 そんな確たる信念の元に自分の人格を形成していた俺だったが、最近は毎日軽快な足取りで、セタニアと一緒に冒険者ギルドへ出向いている。


 自分の変化の原因については思い当たる節がいくつかある。


 例えば、冒険者の依頼はゲームみたいな面白さがあるところだ。

 一般的に仕事といえば、苦痛な単純作業、非常識な客の対処、体罰のような肉体労働。

 そんなろくでもない業務内容と、サービス残業、パワハラ、セクハラ、過労死、その他諸々といった敬遠するには十分すぎる要素が合わさって、マイナスイメージばかりが付き纏う。

 だが、俺とセタニアが受けている依頼はそれらと途方もなく乖離していた。


 依頼の内容はモンスター討伐みたいな心踊るものばかりだし、束縛された時間がお金になるのではなく達成報酬だし、とてもやりがいを感じられる。

 しかも危険と隣り合わせだからハラハラするけど、俺のラックとセタニアの強さに身の安全は保証されているので、まるでテーマパークのジェットコースターでも楽しんでいるかのような面白さもある。


 つまるところ冒険者としての活動は、遊んでいるようなのに、なぜかお金が入ってくるという、誰もが夢見る理想のキャリアだったのだ。


「おい、みんな! ドラゴンスレイヤーの二人が来たぞ!」


「よう、フーン、セタニア! この間はありがとな。おかげで俺のお袋が助かった。今度、飯でも奢らせてくれ」


「フーンさん、セタニアさん! サインをもらえませんか? 私、あなたたちに憧れて冒険者になったんです!」


 日課のようにSランク依頼を受けていると、俺とセタニアは知らぬ間にバリーの英雄みたいな存在になりつつあった。

 遊んで、金もらって、しかもちやほやされるとか、もうこれ楽園じゃね?

 こんなことなら、もっと早くセタニアと冒険者パーティーを組んでおくべきだった。


「……人、多い」


 俺とセタニアの体を盾にしながら、ミンは周囲の人々の視線から隠れようとしている。

 今日、俺たちが冒険者ギルドを訪れたのは、依頼を受ける他にもう一つの目的があった。


 その名もミンのコミュ障改善大作戦だ。


 ベルディーの口車に乗せられて、自分を変えようと決心したミンだったが、あれ以来、時折家の住人の前に姿を現すだけで、大した進展が見られなかった。

 なので、少しスパルタ訓練をしてみようかということになり、無理やりここへ連れてこられたのである。

 人とすれ違うたびに全裸パージしようとするので大変だったが、どうにか彼女を着衣姿のまま冒険者事務所まで連れてくることができた。


「そうだ、セタニア。今回は人手が多いから、依頼も少し多めに受けてみるか? Sランク依頼を複数同時に受けるのって、歯ごたえがあって面白そうだし」


「うん、いいヨ」


 よし、そうと決まれば、後はこの掲示板から適当なのを二枚剥ぎ取るだけだ。

 俺は当てずっぽうに腕を前へ出し、毎度のことながら、指定ランク以外の内容を特に確認せず、二つの貼り紙を選んだ。


「じゃあ、受付に知らせてくるぞ」


「わかったヨ」


 セタニアとミンを掲示板の前に待機させて、俺は受付へ向かう。

 そこで二つの依頼書を手渡すと、お馴染みの美人受付嬢はパーッと笑顔を浮かべた。


「はい、了解しました。お忙しい中、いつもありがとうございます、フーンさん」


「いえいえ、気にしないでください。好きでやってるだけですから」


 そんな柄でもない台詞を吐いて、俺はくるりと踵を返した。

 すると、掲示板の前で待っているはずのセタニアが俺の脇を通り抜けていき――って、あいつ、何やってんだ?


「これ、おねがいするヨ」


「はい、了解しました」


 なぜか彼女は、さらにもう二枚の依頼書を受付嬢に手渡していた。


「おい、セタニア。一体、どういうつもり――」


「ヒュー、さすがだぜ。Sランク依頼を四つも同時に受けるのかよ!」


「ほほう、素晴らしい。あなたたちは我々冒険者の鑑です」


「きゃー! フーン様、セタニア様、かっこいい!」


 彼女を問い詰めようとした俺の言葉は、周りがざわつき始めたせいでかき消されてしまった。


 これは今更、やっぱり取り消すぞなんて言えない雰囲気だな……。

 ま、まあ、セタニアも何か考えがあってもう二つの依頼を受けたのだろう。

 多分。



***



 俺たちは大歓声に包まれながら、冒険者ギルドの事務所を後にした。

 注目されるのが苦手なミンは今にも吐きそうな顔色をしている。

 かわいそうに。


「おい、セタニア。どうして依頼を更に二つも受けたんだ?」


「モーラノイ、たくさんのほうがおもしろいっていったヨ」


 なるほど。よくわかった。

 つまり何も考えずに、俺の猿真似をしたってことだな。


 まあ、でも受けてしまったものは仕方がない。

 三人で頑張ればどうにかなるだろう。

 まずは詳細を確認するために、俺は依頼書に一つずつ目を通すことにした。


 内容を要約するとこんな感じだ。



 一つ目。


 南の森で大量発生したヴェノムワスプの駆除。おそらくクイーンワスプの巣が近くにある。ドロップアイテムの毒針は全て回収してください。買い取ります。期限は今日まで。


 単純な魔物退治の依頼か。期限が厳しいが、なんとかなりそうだ。



 二つ目。


 長年使われずに放置されている畑から雑草を綺麗に抜き取ってもらいたい。ついでに水をやって地面を湿らせておいてくれ。後から種まきするから。ちなみに、かなり広いので魔法を使わないと多分無理。今日中にオナシャス。場所は南門から街を出てすぐ。


 おい、誰だよこんなふざけた雑用をSランク冒険者に頼んだバカは! 俺も、セタニアも、ミンも魔法を使えないので、これはちょっとどうにもならないかもしれん。ソファイリの得意分野っぽいし、彼女に泣きついたら、助けてくれるだろうか?



 三つ目。


 南の森の離れにある洞窟から、アダマンタイトを取ってくる。珍しい鉱石なので、一日中採掘して一個がやっと。報酬は弾みますので、今日中にもってきてください。


 これは余裕だな。一つ目を兼ねながらできるし、俺のラックをもってすれば鉱石の珍しさなんて、障害ですらない。



 四つ目。


 漁船の護衛。今の時季、バリーの西にあるフェイル湖では高く売れるブラウントラウトがよく取れるが、沼竜(マッドドレイク)がたまに出現する。出たら戦闘で追い払わなければならない。


 依頼自体は普通だが、フェイル湖は他の依頼の目的地から離れているし、漁猟が終わるまで長時間縛られてしまうのが痛いな。



 さてと、これらを全部今日中に達成するのは……不可能とまでは言わんが、かなり厳しそうだな。

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