その後、それから
「母さん、重くない?」
「我は山よ、これしき何ともないわ」
威厳に満ちた声で白狼が笑います。
洞窟の中、丸くなった白狼の上にはたくさんの毛玉。
まるで雪綿のような猫が、背や、頭の上で丸くなっていました。
なめらからな狼の毛皮の上で、猫がふっくらとした体を寄せあいます。
それを優しい目で見つめ、白狼は少年の方に顔を向けました。
「すっかり、寒さも平気になったねえ」
「うん。母さんの子だからね」
あの日、戦場から戻った後、少年は初めて狼に化けました。
狼と人の姿を取れる少年。
彼はその時から、人と神の仲立ちになったのです。
成長は人よりずっと遅くなり、おかげで、今でも少年のまま。
そして、猫の絨毯と化した白狼はすっかり動く事を諦め、代わりに少年が山の見回りをするようになっていました。
「セツ! かつおぶし!」
少年の声に反応して、ころころと白狼からセツが転がり落ちます。
その尾は二つに分かれ、もう寿命の心配もなくなっていましたが、たくさんの孫はまだまだ食べ盛り。
「そのうち、ここに入りきらなくなるね。セツの家族…」
「ふふ。その時は、またその時よ…」
岩場に座る我が子に、顔を近づけて白狼が笑います。
その鼻面を撫で返す少年の後ろで、かつおぶしを取り合う子猫達が、元気一杯にはしゃいでいました。
外では吹雪が吠えています――
けれど、ここはもう寒くありませんでした。