第七話「情報」
――次の日。
「タケシ様、朝ですよ」
「マスター、起きてください」
聞き慣れてきた二つの声で、俺はゆっくり目を開けた。
「……ん」
視界に入ったのは、いつものように浮かんでいるミルと、その隣に立つゼキナだった。
「おはようございます、タケシ様!」
「おはようございます、マスター」
「ああ、おはよう」
俺は体を起こしながら軽く伸びをする。
最近はこの異世界生活にも慣れてきた気がする。
「マスター、今日は何をされるんですか?」
「そうだな……」
俺は少し考える。
今やるべきことは決まっていた。
「今日は冒険者を倒して、三階層を作る」
「おぉ!」
ミルが嬉しそうに羽をぱたぱたさせた。
「ちなみに今のポイントは3500です!」
「3500か」
「このくらいあれば三階層は購入できますよ!」
「なら、先に買っちまうか」
どうせ後で必要になる。
だったら今作ってしまった方がいい。
「では早速やりましょう!」
俺は管理画面を開く。
「階層追加」
半透明の画面が浮かび上がった。
━━━━━━━━━━━━━━━
【新階層追加】
必要ポイント:3500pt
━━━━━━━━━━━━━━━
「承認」
『三階層を購入しました』
『3500ポイント消費』
ゴゴゴゴゴ……!!
ダンジョン全体が大きく揺れる。
「おぉ……」
また新しい階層ができたらしい。
「これでポイントは0ですね」
「綺麗になくなったな……」
毎回思うけど、ポイント消費激しすぎる。
「ミル、今日はまだ冒険者は来てないのか?」
「はい! 今のところ侵入者反応はありません!」
「そうか」
なら今のうちにやることをやっておこう。
「まずは、昨日捕まえた魔法使いから情報を聞く」
「そうですね」
ミルも頷く。
「昨日は空き部屋に閉じ込めただけですからね!」
「ゼキナ」
「はい、マスター」
「もし情報を話さなかったら頼む」
「承知しました」
ゼキナが静かに微笑む。
その笑顔を見た瞬間、なぜか少しだけ寒気がした。
◇◇◇
俺たちは、昨日ヒアを閉じ込めた部屋へ向かった。
「じゃあ、開けるぞ」
俺は扉を開く。
部屋の中には、縄で縛られたまま壁にもたれかかっているヒアの姿があった。
昨日のまま放置されていたらしく、かなり疲れた顔をしている。
俺は近づき、軽く肩を揺すった。
「おい」
「……ん」
ヒアがゆっくり目を開ける。
そして俺を見るなり、顔を強張らせた。
「……あなたは」
「新帝ダンジョンの魔王、タケシだ」
俺が名乗ると、ヒアは少し記憶を辿るように目を細めた。
そして昨日の戦いを思い出したのか、顔色が青くなる。
「……なんで」
「ん?」
「なんで私を生かしてるの?」
震えた声だった。
「魔王なら、普通は冒険者を殺すでしょ……」
「まあ、そうかもな」
俺はあっさり頷く。
「でも少し外の情報が欲しかった」
「外の情報……?」
「そうだ」
するとヒアは警戒するように俺を睨んだ。
「なんで私がそんなこと教えなきゃいけないのよ」
「別に無理にとは言わない」
俺は肩をすくめる。
「ただ、全部教えてくれるなら解放する」
「……っ!」
その瞬間。
ヒアの目に希望の光が宿った。
「それって……生かして帰すってこと?」
「ああ」
「約束する。情報をくれるなら見逃す」
しばらく沈黙。
やがてヒアはゆっくり頷いた。
「……分かった」
「聞きたいことを聞いて」
「よし」
俺は早速質問を始める。
「まず、このダンジョンはどこにある?」
「魔の森の入り口付近よ」
「魔の森?」
「この大陸の中央付近にある危険地帯」
ヒアは淡々と説明する。
「四つの国に囲まれていて、凶暴な魔物が大量に生息してるわ」
「四つの国?」
「エルフの国“エンテリア王国”」
「獣人の国“ビスタザニア王国”」
「人間の国“サイゲル帝国”」
「そしてドワーフの国“アングリラ王国”」
エルフ。
獣人。
ドワーフ。
……一気に異世界感が増したな。
「獣人ってどんな奴らなんだ?」
「色々いるわ」
ヒアは答える。
「獅子の獣人もいれば、鳥の獣人もいる」
「獣の種類だけ存在すると言われてるくらいよ」
「へぇ……」
かなり種族が多いらしい。
「じゃあこのダンジョンはどこの国に近い?」
「サイゲル帝国」
「人間の国か」
「そうよ」
「今、このダンジョンの存在を知ってる奴は?」
「辺境都市ノイドの冒険者ギルドくらいだと思う」
「ノイド……」
「そこからここまでは?」
「歩いて二日くらいね」
なるほど。
意外と街から離れている。
「冒険者ってのは、どういう存在なんだ?」
「簡単に言えば何でも屋よ」
「魔物討伐、護衛、採集、依頼なら何でもやる」
「ランク制度は?」
「Fから始まってSまである」
「依頼を達成するほどランクが上がる仕組みよ」
「なるほどな……」
俺は次々質問を重ねていく。
魔法。
国。
貨幣。
冒険者。
貴族。
教会。
この世界の常識。
気づけば二時間以上経っていた。
「……よし」
聞きたいことは大体聞けた。
「ありがとう。助かった」
「じゃあ……」
ヒアが不安そうに俺を見る。
「約束通り、解放する」
俺はそう言って縄を解いた。
「……本当に?」
「ああ」
「ただし妙な真似はするなよ」
俺は静かに魔剣へ手を置く。
「殺したくはないからな」
ヒアは少し怯えながらも頷いた。
「……分かった」
「このまま二階層へ送る。来た道を戻れ」
そして俺は管理画面を開く。
「迷宮内転移」
次の瞬間。
俺とミル、ゼキナの体が光に包まれた。
そして再び、玉座の間へ戻る。
「……さて」
俺は玉座へ腰掛ける。
「これで少しは、この世界のことが分かってきたな」




