第五十五話 地獄の狂乱
――次の日。
「タケシ様、おはようございます」
目を開けると、そこにはミルとゼキナ、水魅五姉妹、ガルド、バルド、ギガルドたちが立っていた。
「お前ら、揃ってるな」
俺は軽く頭を振りながら起き上がる。
昨日は、新しく受け入れた種族たちの祝いで少し騒ぎすぎた。
ガロウ族。
ゴブリン族。
猫族。
ダークエルフ。
全員を正式にこの国の民として受け入れ、名前と役目を与えた。
そのせいか、昨日の夜はかなり盛り上がった。
気づいたら、何人かはその場で寝ていたくらいだ。
「ご主人様、今日は何をされるのですか?」
ゼキナが首をかしげながら聞いてくる。
「建築だ!」
俺は大きな声で言った。
「建築?」
みんなが少し戸惑った顔をする。
「ああ。国を作るなら、まず住む場所を整えないといけない」
俺はギガルドを見る。
「ギガルド」
「はい、魔王様」
「お前に、今から大事な仕事を与える」
「はい。喜んでお受けいたします」
ギガルドはすぐに頭を下げた。
「お前たちオーク族には、各種族の家を作ってもらう」
「家なら、すでに作り始めておりますが……」
ギガルドが少し戸惑いながら言う。
「ただ家を作るだけじゃない」
「と、言いますと?」
「それぞれの種族が暮らしやすい家を作れ」
俺ははっきりと言った。
「この国には、これからたくさんの魔物が住む。だが、魔物と言っても種族ごとに暮らし方が違う」
俺は指を折りながら続ける。
「ガロウ族には、鍛冶場に近い頑丈な家が必要だ。火や金属を扱うからな」
「はい」
「ゴブリン族には、服や小道具を作るための作業場と、細かい道具を置ける場所が必要だ」
「なるほど」
「猫族には、生活支援をしやすいように、城や居住区へ動きやすい場所がいい」
「はい」
「ダークエルフには、森や暗い場所に近い家が合うはずだ。戦闘訓練もしやすいようにしておけ」
ギガルドの目が光った。
「つまり、種族ごとの文化や特徴に合わせて、住居を作るということですね」
「ああ。それがお前たちオーク族の役目だ」
ギガルドは震えるように拳を握った。
「魔王様……!」
その目に、うっすら涙が浮かんでいる。
「このような大役を、我らオーク族に任せてくださるのですか」
「当然だ。お前たちは建築ができる。だったら、この国の土台を作るのはお前たちだ」
「はっ!」
ギガルドは深く頭を下げた。
「この役目、命に代えても守り抜きます!」
「いい心がけだ」
俺は笑いながら言った。
「バルドもギガルドを支えてやれ」
「もちろんでございます、魔王様」
バルドも力強く頷く。
「まずは五十一階層のオーク族居住区と、猫族の一時居住区を整えろ。その後、五十三階層のゴブリン区、五十四階層のガロウ区、五十七階層のダークエルフ区を順番に作る」
「承知しました」
「それと、六十階層の魔王城についても少しずつ考えておけ」
「魔王城……!」
ギガルドの顔がさらに真剣になる。
「必ず、魔王様にふさわしい城を作ってみせます」
「期待してるぞ」
俺は頷いた。
「次に、各種族の仕事を正式に動かす」
俺は玉座の間に集まっている代表たちを見た。
「ガルフ」
「はい!」
ガロウ族長ガルフが前に出る。
「ガロウ族は武器作りを始めろ。まずはオーク族やダークエルフが使える武器からだ」
「承知しました!」
「ロギ」
「はい、魔王様!」
ゴブリン族長ロギが前に出る。
「ゴブリン族は服作りを始めろ。作業服、普段着、寝具、袋。生活に必要なものを優先する」
「はい! すぐに取りかかります!」
「ミーナ」
「はい!」
猫族長ミーナが前に出る。
「猫族は生活支援だ。食事、掃除、世話、居住区の管理。できるところから始めろ」
「はい! 猫族一同、必ずお役に立ちます!」
「ゼルド」
「はっ」
ダークエルフ族長ゼルドが静かに前に出る。
「ダークエルフは、冒険者への対策を始めろ」
「冒険者対策、ですか」
「ああ。侵入者を発見した時の動き、奇襲、弓での援護、闇魔法を使った足止め。そういう戦い方を整えておけ」
「承知しました」
「今後、強い冒険者が来る可能性がある。お前たちは精鋭部隊として動けるようにしておけ」
「我らダークエルフ、必ず魔王様の刃となりましょう」
ゼルドは静かに頭を下げた。
「よし」
俺は全員を見渡した。
「それぞれの役目は決まった。今日から本格的に動け」
「はい!」
全員が一斉に答える。
「始めろ!」
俺がそう言うと、バルド、ギガルド、ガルフ、ロギ、ミーナ、ゼルドたちは、それぞれの配下を連れて玉座の間を出ていった。
これで国づくりが一気に動き出す。
だが、俺にはもう一つ、今日やらなければならないことがあった。
「ミル、ゼキナ、水魅五姉妹、ガルドは残れ」
「はい」
ミルたちがその場に残る。
玉座の間から他の魔物たちがいなくなると、空気が少し静かになった。
俺は真剣な顔で口を開く。
「これから、前に来たSランク冒険者の件について話す」
その言葉で、全員の表情が変わった。
「Sランク冒険者……」
ゼキナが小さくつぶやく。
「あいつは、一か月後にまた来ると言っていた」
「はい」
ミルが頷く。
「正直に言う。あいつはとてつもなく強い」
俺は拳を握った。
前に戦った時の感覚を、今でも覚えている。
圧倒的な実力。
余裕のある動き。
こちらの攻撃を見切る力。
今のままでは、次に来た時に勝てる保証はない。
「だから、俺自身のステータスを上げる」
「タケシ様自身の、ですか?」
ミルが聞いてくる。
「ああ」
俺は頷いた。
「魔物を増やすのも大事だ。階層を強くするのも大事だ。だが、最後にあいつと戦うのは俺になる可能性が高い」
「ご主人様……」
ゼキナが心配そうに俺を見る。
「みんなを巻き込まないためにも、俺自身が強くなる必要がある」
俺は全員に向かって言った。
「だから、強いスキルが欲しい」
ミルは少し考え込んだ。
そして、少し不安そうな顔で口を開いた。
「タケシ様。一つ、とても強いスキルがあります」
「どんなスキルだ?」
「地獄の狂乱です」
「地獄の狂乱?」
俺は聞き返した。
「はい」
ミルは真剣な顔で説明を始める。
「十分間だけ、魔力が二倍、体力が二倍、さらにスキルの攻撃力も二倍になります」
「二倍……」
俺は思わず声を漏らした。
魔力二倍。
体力二倍。
スキル攻撃力二倍。
それはかなり強い。
十分快だけとはいえ、戦闘中なら十分すぎるほどの時間だ。
「ただし、代償があります」
「代償?」
「効果が切れた後、一時間意識を失います」
玉座の間が静まり返った。
「一時間、意識を失うのか」
「はい」
ミルは不安そうに頷いた。
「その間は完全に無防備になります。もし敵が残っていれば、命に関わります」
「なるほどな」
確かに強い。
だが、使いどころを間違えれば死ぬ。
十分間で勝ち切れなければ終わり。
倒し切れなければ、その後の一時間で殺される。
かなり危険なスキルだ。
だが。
「いいな」
「タケシ様?」
ミルが驚いた顔をする。
「そのスキル、買う」
「本当によろしいのですか?」
「ああ」
俺は迷わず答えた。
「あいつに勝てる方法が必要だ。危険でも、切り札がないよりはいい」
「ですが、発動後に意識を失うのですよ?」
「なら、使うタイミングを間違えなければいい」
俺は笑った。
「魔王が切り札の一つも持ってない方がおかしいだろ」
ゼキナが小さくため息をつく。
「ご主人様らしいですね」
「無茶はしない。だが、必要な力は手に入れる」
俺はモニターを開いた。
「スキルショップ、オープン」
目の前にスキルショップの画面が表示される。
俺は検索欄に入力した。
地獄の狂乱。
すぐにスキルが表示される。
『地獄の狂乱』
『効果:十分間、魔力二倍、体力二倍、スキル攻撃力二倍』
『代償:効果終了後、一時間意識喪失』
『価格:300000ポイント』
「三十万ポイントか」
高い。
だが、買えない金額ではない。
昨日の時点でポイントは三十一万三千百六十。
そして今日は、地脈ポイントが入っている。
今なら買える。
「購入する」
「タケシ様……」
ミルが不安そうに俺を見る。
「大丈夫だ」
俺はそう言って、購入ボタンを押した。
『地獄の狂乱を購入しました』
『300000ポイント消費』
『スキル、地獄の狂乱を獲得しました』
その瞬間、俺の体の奥に黒い炎のようなものが流れ込んできた。
「ぐっ……!」
「タケシ様!」
ミルが駆け寄ろうとする。
「来るな」
俺は手で制した。
体の奥が熱い。
魔力が暴れそうになる。
まるで地獄の炎を体の中に押し込まれたような感覚だった。
だが、不思議と嫌な感じではない。
これは、力だ。
俺がSランク冒険者に届くための力。
「はぁ……はぁ……」
しばらくして、体の熱が少しずつ落ち着いていく。
『地獄の狂乱を使用可能になりました』
モニターにそう表示された。
「手に入れたぞ」
俺は息を整えながら言った。
「これが、俺の切り札だ」
ミルはまだ不安そうだった。
「タケシ様、絶対に使うタイミングを間違えないでください」
「ああ。分かってる」
「発動後は、一時間意識を失います。その間は、必ず誰かが守らなければなりません」
「なら、そのための作戦も考える」
俺はゼキナ、水魅五姉妹、ガルドを見た。
「俺が地獄の狂乱を使う時は、勝負を決める時だ。その後の一時間は、お前たちに任せることになる」
「任せてください、ご主人様」
ゼキナが前に出る。
「タケシ様は、私たちが守ります」
メリが言う。
「水の結界で包めば、時間は稼げます」
ビビも頷く。
「敵が近づけば、足止めします」
セリ、サリ、エリも真剣な顔で頷いた。
ガルドは静かに膝をつく。
「我が王が意識を失われるなら、その一時間、我が命を盾にいたします」
「頼もしいな」
俺は笑った。
「だが、まだ一か月ある」
俺は玉座の前に立つ。
「この一か月で、国を作る。戦力を整える。俺自身も強くなる」
みんなが俺を見る。
「次にあいつが来た時、ただ追い返すだけじゃない」
俺は拳を握った。
「今度は、俺たちの力を見せつける」
Sランク冒険者。
確かに強い。
だが、俺もただ待っているだけではない。
魔物の国を作り、仲間を増やし、スキルを手に入れた。
一か月後。
その時、俺は今の俺ではない。
「世界の魔王になるなら、Sランク冒険者くらい乗り越えてみせる」
俺はそう言って、モニターに表示された新スキルを見た。
地獄の狂乱。
危険な力だ。
だが、俺にとっては必要な力だ。
新帝ダンジョンは、国として動き始めた。
そして俺自身も、次の戦いに向けて動き始める。
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第五十五話終了時点
タケシ:魔王Dランク Lv0
階層数:60階層
残りポイント:43160pt
新決定:
・各種族の家を、種族ごとの文化や特徴に合わせて建築する方針決定
・ギガルドとバルドが建築責任者として動く
・ガロウ族は武器作り開始
・ゴブリン族は服作り、小道具作り開始
・猫族は生活支援開始
・ダークエルフは冒険者対策と戦闘訓練開始
・Sランク冒険者との再戦に向けて、タケシ自身の強化を開始
新スキル:
・地獄の狂乱
効果:十分間、魔力二倍、体力二倍、スキル攻撃力二倍
代償:効果終了後、一時間意識を失う
価格:300000pt
Sランク冒険者との戦いに向けた切り札
ポイント計算
第五十四話終了時点:313160pt
翌朝の地脈ポイント:
60階層 × 500pt = +30000pt
第五十五話開始時点:
313160pt + 30000pt = 343160pt
地獄の狂乱購入:
343160pt - 300000pt = 43160pt
第五十五話終了時点:43160pt
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