第五十四話 新たな名
――次の日。
「タケシ様、昨日の魔物たちはどうされるのですか?」
ミルが俺の隣で尋ねてきた。
「それは今から決める」
俺はそう言って、玉座の前へ進んだ。
玉座の間には、昨日呼び出した各種族の代表たちが並んでいる。
ガロウ族のガルフ。
ゴブリン族の長老。
猫族の村長。
ダークエルフの代表。
その後ろには、それぞれの種族の魔物たちが控えていた。
不安そうな者。
期待している者。
震えている者。
俺をまっすぐ見ている者。
いろいろな顔がある。
「全員、揃っているようだな」
「はい、魔王様。全員揃っております」
ギガルドが答える。
「そうか」
俺は玉座に座らず、そのまま全員の前に立った。
「昨日、お前たちには自分たちに何ができるのかを聞いた」
魔物たちが静かになる。
「今日は、それを踏まえて決める。お前たちをこの新帝ダンジョンに住まわせるかどうか。そして、どんな役目を与えるかをな」
「はい!」
代表たちが一斉に頭を下げた。
「一人ずつ前へ来い。まずは、ガロウ族のガルフ」
「はい」
ガルフが前に出る。
犬や狼に近い姿をした魔物。
だが、ただの獣ではない。
目には知性があり、背筋も伸びている。
「ガルフ。お前たちガロウ族は、武器を作れると言ったな」
「はい。ドワーフほどではありませんが、魔物の中では高い技術を持っていると自負しております」
「武器は、これから必ず必要になる」
俺ははっきりと言った。
「この国を守るためにも、外の敵と戦うためにも、兵たちに持たせる武器がいる。剣、槍、斧、弓、鎧。作れるものは多い方がいい」
「はい」
「だから、お前たちガロウ族には、武器作りを任せる」
ガルフの目が大きく開かれた。
「本当ですか?」
「ああ。ガロウ族はこのダンジョンに住むことを許す」
「ぐっ……」
ガルフが声を詰まらせた。
後ろにいたガロウ族たちも、涙を浮かべている。
「ありがとうございます……!」
ガルフは深く頭を下げた。
「役に立てよ」
「はい! 必ず、魔王様の軍にふさわしい武器を作ってみせます!」
ガルフは自信満々に答えた。
「いい返事だ」
俺は頷く。
「次、ゴブリン族の長老」
「はい」
ゴブリン族の長老が前に出る。
小柄で、戦えばすぐに負けそうな姿をしている。
だが、昨日聞いた話では、手先が器用で服や小道具を作れるらしい。
「お前たちゴブリン族は、戦いでは強くない」
「はい。その通りです」
「だが、国に必要なのは戦う者だけじゃない」
俺は玉座の間にいる全員に聞こえるように言った。
「服を作る者。道具を作る者。生活を支える者。そういう者がいなければ、国は国として成り立たない」
ゴブリン族の長老が、驚いたように俺を見る。
「お前たちには、服作りや小道具作りを任せる」
「私たちに、そんな大事な役目を……?」
「ああ」
俺は頷いた。
「五十三階層を中心に、ゴブリン族の居住区と作業場を作る。布、服、袋、寝具、小さな道具。必要なものを作れ」
「ありがたき幸せ!」
ゴブリン族の長老が深く頭を下げる。
後ろのゴブリンたちから、小さなどよめきが起きた。
「ゴブリン族も、このダンジョンに住むことを許す」
「ありがとうございます、魔王様!」
拍手が鳴り響いた。
最弱に近いと言われた種族でも、役目がある。
そう示せたのは大きい。
「次、猫族の村長」
「は、はい」
猫族の村長が前に出る。
小柄な体。
猫のような耳と尻尾。
昨日よりは少し落ち着いているが、それでもまだ不安そうだ。
「猫族は、戦える者が少ないと言っていたな」
「はい……」
「村を守るために、多くが死んだとも言っていた」
「はい」
猫族の村長は唇を噛んだ。
「戦えないことを恥じる必要はない」
「え……?」
「国には、戦えない者も必要だ」
俺ははっきりと言った。
「掃除、料理、世話、身の回りの管理、子どもの面倒、怪我人の看病。そういう仕事ができる者がいなければ、兵も職人も安心して働けない」
猫族の村長の目が揺れる。
「猫族には、生活支援の役目を与える」
「生活支援……」
「ああ。城や居住区の管理、食事、掃除、世話。そういう仕事を任せる」
「私たちでも、お役に立てるのですか?」
「当然だ」
俺は即答した。
「この国では、戦える者だけが偉いわけじゃない。必要な仕事をする者は、全員この国に必要な存在だ」
「ありがとうございます……!」
猫族の村長は涙を浮かべながら頭を下げた。
後ろにいる猫族たちも、安心したように泣いている。
「猫族も、このダンジョンに住むことを許す」
「ありがとうございます、魔王様!」
「ただし、無理にメイドだけをやらせるつもりはない。料理が得意な者は料理。掃除が得意な者は掃除。子どもの世話が得意な者はそちらに回す」
「はい!」
「お前たちは、この国の生活を支えろ」
「必ず支えます!」
猫族の村長は力強く答えた。
「次、ダークエルフの代表」
「はい」
最後に、長い耳を持つ青年が前に出た。
昨日と同じく、表情はほとんど変わらない。
だが、その目には強い意志がある。
「お前たちダークエルフは、戦闘に優れていると言ったな」
「はい」
「エルフの能力と闇の能力を持っているとも言った」
「その通りです」
「そして、百人ほどで三千人のエルフ軍の半数を削った」
「はい」
玉座の間にいる魔物たちがざわついた。
昨日聞いていなかった者たちは、その数字に驚いている。
「お前たちは、かなり強い」
俺は言った。
「だが、ただ強いだけでは困る」
「と、言いますと?」
「俺の国で戦うなら、勝手に動くな。俺の命令で動け。守るべき者を守り、倒すべき敵を倒せ」
「承知しております」
ダークエルフの代表は静かに頭を下げた。
「私たちは、居場所を失いました。エルフからは同族と認められず、人間からは魔物として狩られる。ならば、我らを受け入れてくださる魔王様に剣を捧げます」
「剣だけか?」
「いえ」
ダークエルフの代表は、初めて少しだけ笑った。
「弓も、魔法も、闇も、すべて捧げます」
「いいな」
俺も笑った。
「ダークエルフには、戦闘部隊を任せる。将来的には、精鋭部隊として動いてもらう」
「光栄です」
「ダークエルフも、このダンジョンに住むことを許す」
「ありがとうございます、魔王様」
ダークエルフの代表は、静かに深く頭を下げた。
後ろにいたダークエルフたちも、一斉に膝をつく。
これで、昨日呼んだ四つの種族はすべて受け入れた。
ガロウ族。
ゴブリン族。
猫族。
ダークエルフ。
それぞれに役目がある。
武器。
服。
生活支援。
戦闘。
国に必要なものが、少しずつ揃ってきた。
「お前たち全員、このダンジョンに住むことを許す!」
俺がそう宣言すると、玉座の間が大きく揺れるほどの歓声が上がった。
「うおおおおおおお!」
「ありがとうございます!」
「魔王様!」
「我らが王!」
魔物たちの声が響く。
俺は片手を上げて、全員を静かにさせた。
「ただし、住む場所は決める」
全員が一斉に俺を見る。
「五十一階層はオーク族。これはすでに決めている」
バルドが深く頭を下げた。
「五十三階層はゴブリン族。服作りと小道具作りの作業場も作る」
「はい!」
「五十四階層はガロウ族を中心にする。広い場所を使い、鍛冶場と訓練場を作れ」
「承知しました!」
「猫族は、今は五十一階層の一部に居住区を作る。生活支援が必要な場所にすぐ動けるようにする」
「はい!」
「ダークエルフは、五十七階層を使う」
ミルが少し驚いた顔をした。
「タケシ様、五十七階層は未定だった場所ですね」
「ああ。未定だったからこそ、ちょうどいい」
俺はダークエルフたちを見る。
「五十七階層は、森と闇を混ぜた戦闘訓練用の階層にする。お前たちに合うはずだ」
「ありがたき幸せ」
ダークエルフの代表が頭を下げた。
「五十五階層はスライム系。五十六階層はアンデッド族。五十二階層、五十八階層、五十九階層は今後のために空けておく」
「はい、タケシ様」
ミルが頷く。
「そして六十階層」
俺は少し間を空けた。
「六十階層は、魔王城にする」
その言葉に、玉座の間がまたざわついた。
「魔王城……」
「ついに……」
「国の中心だ……」
魔物たちが興奮している。
「まだすぐに完成するわけじゃない。だが、六十階層には俺の城を作る。そこをこの国の中心にする」
「素晴らしいです、タケシ様!」
ミルが嬉しそうに言う。
「バルド、ギガルド」
「はい」
「六十階層の設計も少しずつ考えておけ。まずは五十一階層の居住区を優先しろ。そのあと、各種族の階層を整えていく」
「承知しました」
バルドとギガルドが力強く頷いた。
「それと、もう一つ決めることがある」
俺がそう言うと、代表たちが顔を上げた。
「お前たちには、名前を与える」
その瞬間、玉座の間の空気が変わった。
「名前……?」
「魔王様が、私たちに……?」
「本当ですか?」
魔物たちがざわつく。
やはり、この世界では名前は特別らしい。
「ああ。名前があった方が呼びやすいからな」
俺は軽く言ったが、魔物たちにとってはそれだけではないようだ。
名を与えられる。
それは、存在を認められること。
配下として認められること。
この国の一員になること。
そういう意味があるのだろう。
「まず、ガロウ族」
「はい!」
ガルフが前に出る。
「お前はすでにガルフと名乗っている。その名を正式に認める」
「正式に……」
「ああ。今日からお前は、ガロウ族長ガルフだ。ガロウ族をまとめ、武器作りを進めろ」
「はっ! この命に代えても!」
ガルフは膝をついた。
「次、ゴブリン族の長老」
「はい!」
「お前には、ロギという名を与える」
「ロギ……」
「今日からお前は、ゴブリン族長ロギだ。服作りと道具作りをまとめろ」
「ありがとうございます! ロギ、この名に恥じぬ働きをいたします!」
「次、猫族の村長」
「は、はい!」
「お前には、ミーナという名を与える」
「ミーナ……」
「今日からお前は、猫族長ミーナだ。猫族をまとめ、この国の生活を支えろ」
「はい……! ありがとうございます、魔王様!」
ミーナは涙を流しながら頭を下げた。
「次、ダークエルフの代表」
「はい」
「お前には、ゼルドという名を与える」
「ゼルド……」
「今日からお前は、ダークエルフ族長ゼルドだ。戦闘部隊をまとめろ」
「承知しました。我が名ゼルドに誓い、魔王様の敵を討ちます」
ゼルドは静かに膝をついた。
四人の代表が、それぞれ正式な名と役目を持った。
ガロウ族長ガルフ。
ゴブリン族長ロギ。
猫族長ミーナ。
ダークエルフ族長ゼルド。
「お前たちは今日から、俺の国の民だ」
俺は全員に向かって言った。
「このダンジョンは、ただ敵を倒すためだけの場所じゃない。お前たちが生きる場所だ。守るべき国だ」
魔物たちが静かに俺を見ている。
「だが、俺は甘いだけの王になるつもりはない」
俺は魔力を少しだけ放つ。
「裏切れば許さない。怠ければ叱る。敵が来れば戦わせる」
空気が重くなる。
「だが、俺の民でいる限り、俺はお前たちを守る」
その言葉に、魔物たちの目が変わった。
「住む場所を与える。仕事を与える。名を与える。そして、未来を与える」
俺は玉座の前で宣言した。
「ここを、魔物たちの国にする」
一瞬の静寂。
そして次の瞬間、玉座の間に大歓声が響いた。
「魔王様!」
「タケシ様!」
「我らが王!」
「新帝ダンジョン万歳!」
声が重なる。
俺はその光景を見ながら、少しだけ笑った。
国づくりは、まだ始まったばかりだ。
だが、確かに形になり始めている。
俺はもう、ただダンジョンを守るだけの存在ではない。
魔物たちを率いる王。
世界の魔王になるための一歩を、また踏み出したのだ。
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第五十四話終了時点
タケシ:魔王Dランク Lv0
階層数:60階層
残りポイント:313160pt
新決定:
・ガロウ族、ゴブリン族、猫族、ダークエルフを正式に受け入れ
・各種族に役目を与える
・六十階層を魔王城、国の中心にする方針決定
・五十七階層をダークエルフ用の階層にする
階層割り当て:
・五十一階層:オーク族、猫族の一時居住区
・五十二階層:未定
・五十三階層:ゴブリン族
・五十四階層:ガロウ族
・五十五階層:スライム系
・五十六階層:アンデッド族
・五十七階層:ダークエルフ
・五十八階層:未定
・五十九階層:未定
・六十階層:魔王城予定地
新しい名前:
・ガロウ族長:ガルフ
・ゴブリン族長:ロギ
・猫族長:ミーナ
・ダークエルフ族長:ゼルド
役目:
・ガロウ族:武器作り、鍛冶、装備作成
・ゴブリン族:服作り、小道具作り
・猫族:生活支援、料理、掃除、世話、管理
・ダークエルフ:戦闘部隊、精鋭部隊候補
ポイント計算
第五十三話終了時点:283160pt
翌朝の地脈ポイント:
60階層 × 500pt = +30000pt
第五十四話開始時点:
283160pt + 30000pt = 313160pt
購入・討伐なし
第五十四話終了時点:313160pt
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