第五十一話 オークの建築士
「お前たちが、オークの建築士か」
俺は目の前に並ぶオークたちを見ながら言った。
ミルが外から連れてきたオークたちは、どいつも大きな体をしていた。
普通に見れば、戦士にしか見えない。
太い腕。
厚い胸板。
鋭い目つき。
だが、腰には剣ではなく、木槌やノミ、測量用の縄のような道具を下げている。
戦うための魔物というより、何かを作るための魔物。
そんな雰囲気があった。
その一番前に立っているのは、昨日ミルが連れてきたオーク族の男、バルドだった。
大きな体。
落ち着いた目。
戦士のような迫力を持ちながら、職人のような静かな雰囲気もある。
「はい」
バルドは深く頭を下げた。
「我らが、誇り高きオーク族の建築士です。魔王様」
「バルド、お前がこのオークたちの代表なんだよな?」
「はい」
バルドは頷いた。
「私はオーク族の族長であり、建築士たちをまとめる者でもあります」
「族長か」
「はい。ですので、私は名を持っています。バルドという名は、先代の族長より受け継いだものです」
「なるほどな」
族長だから名前を持っている。
他の魔物たちとは少し違うということか。
「お前たちは、このダンジョンに住みたいんだよな?」
「はい」
バルドは迷いなく答えた。
「我らは、魔の森で暮らしてきました。しかし、最近は冒険者の数が増え、弱い魔物や子どもたちが安心して暮らすことが難しくなっています」
「なるほど」
「もし魔王様が許してくださるなら、我らはこの新帝ダンジョンに住みたいのです」
バルドの目は真剣だった。
ただ助けてほしいという目ではない。
自分たちも何かを差し出す覚悟を持った目だった。
「だったら、役に立て」
俺はそう言った。
バルドの後ろにいたオークたちが、少しだけ顔を上げる。
「もちろんです」
バルドは力強く答えた。
「我らオーク族は、力だけの種族ではありません。木を切り、石を積み、道を作り、家を建てることができます」
「いい答えだ」
俺は少し笑った。
「それなら、お前たちに重要な役目をやろう」
「よろこんでお受けします」
バルドは深く頭を下げた。
「お前たちには、俺の国の建築士になってほしい」
「建築士に、ですか?」
「ああ」
俺は玉座から立ち上がった。
「俺は、魔物の国を作る」
玉座の間にいたミル、ゼキナ、水魅五姉妹、ガルド、そしてオークたちが静かに俺を見る。
「ここを、ただ冒険者を倒すだけのダンジョンにはしない。魔物たちが安心して暮らせる場所にする」
俺はバルドたちを見た。
「そのためには、家がいる。道がいる。広場がいる。水場も倉庫も必要だ」
「……」
「オークのお前たちには技術がある。その技術を生かして、俺のために働け」
俺がそう言うと、バルドは目を大きく開いた。
「魔王様……我らに、居場所だけでなく役目まで与えてくださるのですか」
「ああ」
バルドの目に、わずかに涙が浮かんだ。
その後ろにいたオークたちも、息をのむように俺を見ている。
「ありがたき幸せ……!」
バルドは深く頭を下げた。
その後ろにいたオークたちも、一斉に頭を下げる。
「我らオーク族、この命と技をもって、魔王様の国づくりに尽くします!」
低い声が玉座の間に響いた。
「頼りにしてるぞ」
俺は頷いた。
その時、ふと思い出した。
「ところで、バルド以外のオークたちには名前はあるのか?」
「いいえ」
バルドが首を横に振る。
「私のように族長となった者や、特別な役目を受け継いだ者以外は、名を持ちません」
「そうか」
そういえば、この世界の魔物は基本的に名前を持たない。
ゼキナも、セリたち水魅五姉妹も、俺が名前をつけた時にかなり驚いていた。
名前を与えることは、ただの魔物ではなく、個として認めること。
これから国を作っていくなら、名前くらい与えた方がいい。
「だったら、名前を持たないオークたちに名前を与えよう」
「い、いいのですか?」
バルドが驚いた顔で俺を見る。
「ああ」
「魔王様が、我らの同胞に名を……」
オークたちがざわめく。
やはり、名前を与えるというのは魔物にとって特別なことらしい。
「ミル」
「はい、タケシ様」
「外にいるオークたちも連れてきてくれるか?」
「分かりました!」
ミルはすぐに外へ向かった。
◇◇◇
しばらくして、ミルがさらに多くのオークたちを連れて戻ってきた。
玉座の間の前には、オークたちがずらりと並んでいる。
百人近くはいるだろう。
さすがに全員大きいので、かなりの迫力だ。
「よし、一人ずつ並んでくれ」
「はい!」
オークたちが一列に並ぶ。
一番前に立ったのは、バルドの右腕らしき若いオークだった。
他のオークより少し若いが、目つきは鋭く、腰にはたくさんの建築道具を下げている。
「バルド、このオークは?」
「私の補佐です」
バルドが答える。
「若いですが、設計と現場指揮に優れています」
「なるほど」
俺はその若いオークを見る。
「お前は、これからバルドを支えて国づくりを進めるんだな?」
「はい、魔王様」
若いオークは力強く答えた。
「この身、この技、すべて魔王様と族長バルド様のために使います」
「そうか」
俺は少し考えた。
バルドは族長として最初から名を持っている。
なら、最初に名を与えるなら、この若い補佐役がいい。
「お前の名前は、ギガルドだ」
「ギガルド……」
若いオークはその名を噛みしめるように呟いた。
「ありがたき幸せ」
ギガルドは片膝をついた。
「この名に恥じぬよう、必ずバルド様を支え、魔王様の国を作り上げてみせます」
「頼むぞ、ギガルド」
「はっ!」
その後も、俺は一人ずつオークたちに名前を与えていった。
ゴルド。
バルガ。
ドムル。
ガンザ。
ロック。
グラド。
名前を与えるたびに、オークたちは目を潤ませ、深く頭を下げた。
正直、百人近くに名付けをするのはかなり大変だった。
途中から少し頭が痛くなってきたが、それでもやめなかった。
これから国を作るなら、彼らはただの作業員ではない。
俺の国を支える最初の職人たちだ。
だから、一人ずつ名前を与えた。
「よし……これで全員だな」
俺は少し疲れながら息を吐いた。
「魔王様、本当にありがとうございます」
バルドが代表して頭を下げた。
その後ろで、名を与えられたオークたちも一斉に膝をつく。
「我ら、魔王様より名を賜りしオーク族。必ずや、この新帝ダンジョンに立派な国を築いてみせます」
「ああ」
俺は玉座から立ち上がった。
「お前たち、建築を始めるぞ」
「はい!」
オークたちの声が玉座の間に響いた。
「まずは居住用の階層を作る。七百人が住める街だ。今後もっと増えることも考えて、大きめに作る」
「承知しました」
バルドが力強く頷く。
「住居、道、広場、倉庫、水場、防壁。必要なものをこちらで設計します」
「ギガルド、お前はバルドを補佐して現場をまとめてくれ」
「はっ!」
ギガルドが力強く頭を下げる。
「資材はどうなされますか?」
「必要な分はポイントで用意する。足りないものがあれば言ってくれ」
「分かりました」
バルドの目に、職人としての光が宿る。
「必ずや、魔王様の名にふさわしい街を作ります」
「ああ。期待してる」
こうして、魔物の国づくりは本格的に動き始めた。
冒険者を倒すためのダンジョン。
魔王として力をつけるための場所。
それだけだった新帝ダンジョンは、これから変わっていく。
魔物たちが暮らす場所。
仲間が増え、家が建ち、道が作られ、国になる場所。
その中心には、族長バルドと、彼を支えるギガルドたちオークの建築士がいる。
俺はその始まりを見ていた。
新帝ダンジョンは、また一歩進化していた。
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第五十一話終了時点
タケシ:魔王Dランク Lv0
階層数:49階層
残りポイント:288160pt
新情報:
・バルドはオーク族の族長兼建築士代表
・バルドは族長なので最初から名前を持っている
・タケシがオーク族を「国の建築士」に任命
・バルドの右腕の若いオークに「ギガルド」と名付け
・約百人のオークたちに名前を与える
・魔物の国づくりが本格的に始動
・オークたちは住居、道、広場、倉庫、水場、防壁などを作れる
ポイント計算
第五十話終了時点:288160pt
同日中のため、地脈ポイント追加なし
購入・討伐なし
第五十一話終了時点:288160pt
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