表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
62/105

第60話:お礼のキス(一ノ瀬保奈美)

 ――夜空が光で咲いた。

 轟音と共に、青や赤、金色の火花が一斉に弾け散る。

 それはまるで、夢の国で過ごした一日の全てを祝福するように。


「わぁぁ……!」

 思わず声が漏れた。胸の奥まで震えるような美しさ。

 音楽と花火と歓声が一体となって、夜空が魔法に包まれていく。


 私はもう夢中で見上げていた。

 手を振って、拍手して、まるで子どもみたいに。

 でもいいんだ。

 だって今は本当に子どもみたいに幸せなんだから。


 直也さんと一緒に、亜紀さんと玲奈さんと一緒に――。

 今日一日、笑って、叫んで、写真を撮って。

 ずっと夢みたいな時間を過ごしてきた。

 その全部が胸の宝石箱みたいにきらめいている。


(……ありがとう。直也さん)


 でも――ひとつだけ、まだしていないことがある。

 直也さんに、この幸せのお礼を伝えること。


※※※


 フィナーレの連発が夜空を染める。

 観客たちの拍手と歓声が波のように広がっていく。

 その喧騒の中、私は横に立つ直也さんを振り返った。


「直也さん」

 声が震えていたかもしれない。

 彼が「ん?」と優しく目を向けてくれる。

 胸がぎゅっと熱くなる。


「……本当にありがとう」

 潤んだ瞳のまま、やっと言葉にできた。


 直也さんは少し驚いたように瞬きをして、けれど「楽しめたならよかった」と微笑んだ。

 その笑顔を見た瞬間――胸が決壊しそうになった。


 だから、勇気を振り絞った。

「直也さんにだけ、ちょっと相談があるの」

 そう囁いた瞬間、直也さんが耳を寄せてきて――。


 私は、その頬に。

 そっと、キスをした。


「……っ!?」

 直也さんが目を見開いた。

 亜紀さんと玲奈さんの声が同時に重なる。


「ちょっ、これは――!」

「そ、それはダメー!!」


 二人の反応が耳に入ったけど、もう止まれなかった。

 胸の奥に隠してきた想いが、花火のように溢れ出してしまった。


「ふふっ……直也さん、大好き!」


 ――言ってしまった。

 頬が熱い。

 足が震えている。

 でも、不思議と後悔はなかった。


 だって、やっと少しだけ伝えられたから。

 私の気持ちを。私の「ありがとう」と「大好き」を。


 直也さんはまだ呆然としていた。

 亜紀さんは顔を真っ赤にして「ちょ、直也くん、これはどうなの?」と詰め寄り、玲奈さんは「いや、これは完全にアウトの事案ですから!」と叫んでいる。


 でも私は――幸せだった。

 夜空に咲き誇る花火の下で、大切な人に想いを届けられた。


 ――夢の国の一日を締めくくる、最高の瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ