第60話:お礼のキス(一ノ瀬保奈美)
――夜空が光で咲いた。
轟音と共に、青や赤、金色の火花が一斉に弾け散る。
それはまるで、夢の国で過ごした一日の全てを祝福するように。
「わぁぁ……!」
思わず声が漏れた。胸の奥まで震えるような美しさ。
音楽と花火と歓声が一体となって、夜空が魔法に包まれていく。
私はもう夢中で見上げていた。
手を振って、拍手して、まるで子どもみたいに。
でもいいんだ。
だって今は本当に子どもみたいに幸せなんだから。
直也さんと一緒に、亜紀さんと玲奈さんと一緒に――。
今日一日、笑って、叫んで、写真を撮って。
ずっと夢みたいな時間を過ごしてきた。
その全部が胸の宝石箱みたいにきらめいている。
(……ありがとう。直也さん)
でも――ひとつだけ、まだしていないことがある。
直也さんに、この幸せのお礼を伝えること。
※※※
フィナーレの連発が夜空を染める。
観客たちの拍手と歓声が波のように広がっていく。
その喧騒の中、私は横に立つ直也さんを振り返った。
「直也さん」
声が震えていたかもしれない。
彼が「ん?」と優しく目を向けてくれる。
胸がぎゅっと熱くなる。
「……本当にありがとう」
潤んだ瞳のまま、やっと言葉にできた。
直也さんは少し驚いたように瞬きをして、けれど「楽しめたならよかった」と微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間――胸が決壊しそうになった。
だから、勇気を振り絞った。
「直也さんにだけ、ちょっと相談があるの」
そう囁いた瞬間、直也さんが耳を寄せてきて――。
私は、その頬に。
そっと、キスをした。
「……っ!?」
直也さんが目を見開いた。
亜紀さんと玲奈さんの声が同時に重なる。
「ちょっ、これは――!」
「そ、それはダメー!!」
二人の反応が耳に入ったけど、もう止まれなかった。
胸の奥に隠してきた想いが、花火のように溢れ出してしまった。
「ふふっ……直也さん、大好き!」
――言ってしまった。
頬が熱い。
足が震えている。
でも、不思議と後悔はなかった。
だって、やっと少しだけ伝えられたから。
私の気持ちを。私の「ありがとう」と「大好き」を。
直也さんはまだ呆然としていた。
亜紀さんは顔を真っ赤にして「ちょ、直也くん、これはどうなの?」と詰め寄り、玲奈さんは「いや、これは完全にアウトの事案ですから!」と叫んでいる。
でも私は――幸せだった。
夜空に咲き誇る花火の下で、大切な人に想いを届けられた。
――夢の国の一日を締めくくる、最高の瞬間だった。




