第59話:一ノ瀬直也
――夕暮れと共に、メインストリートがざわめきに満ちていった。
人々が路肩に敷物を広げ、子どもたちは手に光るスティックを握りしめている。
やがて辺りの照明が落ち、ざわめきが一層強まった。
「ここ、正面からフロート全部見えるよ」
玲奈が冷静に確認して、亜紀さんが「さすがね」と満足そうにうなずいた。
こういう時の二人の機動力は本当に頼もしい。
気づけば、オレたちはベストポジションをしっかり確保していた。
※※※
ドラムロールが鳴り響き、先頭のフロートが光を放ちながら現れた。
眩しい照明と共に、ミッキーとミニーがにこやかに手を振っている。
「わぁぁっ!」
保奈美が一気に身を乗り出し、大きく手を振った。
まるで幼い子どもそのもの。耳に響く彼女の声が澄み切っていて、自然と笑ってしまう。
その隣で、亜紀さんは「……やっぱりテンション上がるね」と肩を揺らして笑い、
玲奈も「そう。何度見ても特別」と、クールな顔に柔らかい笑みを浮かべていた。
※※※
続いて登場したのは、プリンセスたちのフロート。
シンデレラが煌めくドレスで微笑み、アリエルが波間から顔をのぞかせる。
「すごい……! 本物みたい!」
保奈美は拍手しながら目を輝かせている。
彼女の横顔は、光に照らされて一層愛らしく見えた。
「ドレスの演出、あれ凝ってるわね」
亜紀さんは分析するように言いながらも、頬は緩んでいる。
玲奈は「衣装デザイナー泣かせだよね、あれは」と小さく笑っていた。
……三人三様の反応。だけど、みんな楽しそうで。オレの心が温かくなる。
※※※
ピクサーの仲間たちが次々に通り過ぎていく。
『トイ・ストーリー』のウッディやバズが観客に向かって大きく手を振ると――。
「バズだーっ!」
保奈美が両手をブンブン振り回して叫んだ。
その勢いに、前列の子どもが振り返って笑い、つられてオレたちも笑った。
「……完全に子どもと同じテンション」
亜紀さんが呆れ顔をしつつも笑いをこらえられず、
玲奈も「まぁ、あそこまで無邪気だと逆に清々しい」と肩をすくめる。
やがてパレードはクライマックスへ。
光の海に包まれた大行進。音楽が高まり、色鮮やかな電飾のフロートが次々に連なって現れる。
「すごい……! 本当に街が魔法に包まれてるみたい……!」
保奈美が涙ぐむほど感激している。
亜紀さんは「やっぱり来てよかったなぁ」としみじみつぶやき、
玲奈も「大人になっても、こういうのは胸に響くんだね」と珍しく素直な声を漏らしていた。
――その三人の表情を見た瞬間、胸の奥から力が抜けるような感覚が広がった。
(……来てよかった)
ただその思いだけで十分だった。
仕事で押し潰されそうな日々から解放されて、こうして笑い合える時間がある。
それがどれほど尊いものか、改めて痛感する。
亜紀さんがいてくれたからオレはここまで走ってこれた。
玲奈はオレが苦しい時でも、いつもすぐそばにいて支えてくれた。
――そして保奈美。
保奈美を守るためならオレは何でもする覚悟だが、同時に保奈美のおかげで本当に幸せな時間を過ごせている。
オレにとってこの三人はかけがえのない大切な存在なんだ。
音楽と光が夜空を染め上げる中、オレはただ三人を見守っていた。
彼女たちが楽しそうにしているだけで、心が満たされていく。
――ああ、本当に来てよかった。




