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第36話:自分への驚き(一ノ瀬保奈美)

 ――鏡に映った自分を見て、思わず息を呑んだ。


 エドワードさんに導かれるまま椅子から立ち上がった時、髪の艶、肌の透明感、メイクの仕上がり……全部が、自分じゃないみたいに輝いていた。

 でも、不思議と違和感はない。

 これは「変わった私」じゃなくて、「もともとあった私」を引き出してくれた。 

 ――そんな気がした。


 けれど、本当に知りたいのは、自分の気持ちじゃない。

 直也さんがどう思うか、それだけ。


 ドアが開いて、待っていた人たちの前に歩き出す。

 足取りは自然なのに、心臓はドキドキして止まらない。

 視線が、直也さんに吸い寄せられる。

 亜紀さんも玲奈さんもいる。

 けれど、私の目には直也さんしか映らなかった。


 彼の目が大きく見開かれるのを見た瞬間、胸が熱くなる。

 ――あ、驚いてる。

 それだけで、もう嬉しくてたまらない。


「直也さん……どう? 似合ってますか?」


 声は自然に出た。

 ただ、本当に直也さんの感想を聞きたかった。

 心臓の鼓動に負けないように、精一杯の笑顔を添えて。


 その一瞬、時間が止まった気がした。

 直也さんが、何も言えずに私を見つめている。

 視線が絡んだまま外れない。


 ――どうしよう。こんなに見つめられたら、私まで倒れちゃいそう。


「……正直、本当に驚いたよ。本当にカワイイとした言いようがない」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわり熱くなった。

 ああ、良かった……。

 ちゃんと届いたんだ。

 ちゃんと、見てくれたんだ。


「……ほんと? 嬉しいな」

 思わず声が弾む。自然と口元が緩んでしまう。


 世界の全部なんていらない。

 直也さんが「カワイイ」と言ってくれた――その事実だけで、もう胸いっぱい。

 気づけば、頬が熱くなっていた。


 ――やっぱり、私、直也さんが大好き。

 その想いが、また一段と大きく膨らんでしまった。


 だけど、横から小さな気配が伝わってくる。

「ぐぬぬぬ……」

 聞こえたわけじゃない。

 けれど、亜紀さんと玲奈さんの表情を見て、そう思った。


 ――私のせい、かな。

 驚かせちゃったのかもしれない。

 だって、私なんかが、こんなふうにきれいにしてもらって……。


 胸の奥に、ちょっとだけ不安がよぎる。

 けれど、すぐに打ち消した。


 違う。

 亜紀さんも玲奈さんも、ずっと直也さんを支えてきた人たち。

 私なんかより、ずっとずっとすごい人たち。

 だから、比べたり、敵わないって思ったりしても仕方がない。


 私は――ただ素直に、今を喜ぼう。


 直也さんが、私を見てくれた。

 それだけで十分。


 亜紀さんと玲奈さんの視線の強さを感じながらも、私は心の中でそっと呟いた。


 ――私は、直也さんが笑っていてくれれば、それでいいんだ。

 今、この瞬間を大切にできるなら、それだけで幸せだから。


 頬に残る熱をそのままに、私は小さく息を吸い込んだ。

 ほんの少し勇気を出して、もう一度だけ微笑んでみせた。

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