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第37話:一ノ瀬直也

――昨夜は最終便でLAに移動する事になった。

LAに着いた時点で、オレも亜紀さんも玲奈も、もう限界だった。

麻里との再会、新スキームの策定、連日のリモート会議。

頭を酷使しすぎて、心も体も擦り減っていた。

ホテルに入ってベッドに身を投げた瞬間、意識が闇に沈んだ。


だから今朝、空港で保奈美と再会できたとき、正直ほっとした。

――やっと、会えた。

心の奥に溜まっていた澱が、一気に流れていくような安堵だった。


けれど、その安堵はエドワード・トリウミの美容室で別の衝撃に変わった。

仕上がりを隠したまま連れ出され、目の前に現れた保奈美を見た瞬間――息が止まった。


……まるでバラが咲いたようだった。


真っ直ぐに伸びた髪は光を纏い、ほんのり色づいた頬は瑞々しい。

ナチュラルなメイクなのに、彼女の可憐さと透明感を何倍にも引き出していた。

その姿は、普段の高校一年生である義妹の面影を残しながらも、同時に眩しいほどの“女性”の輝きを放っていた。


オレは目を奪われた。

視線を逸らそうとしても、逸らせなかった。


――違う。違うだろ、一ノ瀬直也。

この子はオレの義妹だ。

守るべき存在であって、それ以上の感情を抱くなんて許されない。

心の中で必死に線を引こうとした。


けれど、その線は、彼女がふっと笑うたびに揺らいでしまう。

「どう?似合ってますか?」

無邪気に問いかける声に、心臓を直撃されたように鼓動が跳ねた。


なんとか言葉を選び、必死で平静を装って口にした。

「……正直、本当に驚いたよ。本当にカワイイとした言いようがない」


あの子の瞳が嬉しそうに輝いた。

その輝きが、ずっと疲れ果てていたオレの心を一瞬で解きほぐした。


ここ最近のことが頭をよぎる。

麻里の登場、冷徹な指摘。

SPVスキームをゼロから組み直し、全ステークスホルダーに説明して承認を得るという途方もない作業。

その過程で積み重なっていた緊張と疲弊感は、想像以上だった。


でも今、目の前の保奈美を見ていると――。

そのすべてが、消し飛んでいく。

心の奥に、柔らかな風が吹き抜けていく。


……オレは、危ういほどに揺さぶられていた。


「義妹」に対する「義兄」という立場。

その線を絶対に越えてはいけないと、何度も心の中で繰り返しながら。


けれど、どうしても目を離せなかった。

保奈美の可憐な笑顔が、オレを救ってくれていた。


――ありがとう、保奈美。

心の中でそう呟いた時、オレは初めて深く息を吐くことができた。


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