92話 予想外のアルテア
皆様、いつもありがとうございます。
暫く食べていると果物だけでお腹いっぱいになり、もう無理と口にする私にお父様は「そろそろ帰るか」と提案した。私は頷き、シャーリーはお母様に伝えてくると去っていく、お母様も領地に戻り、魔法研究を続けるらしい、離れ離れにならない事を嬉しく思う。
それにしても式典の後に帰還するのは些か計画性がないように感じる。何とかならないかなと考えたが、頭に浮かんだ転移魔法は身体を魔力の粒子に変える必要があるので、難しく思えた。
一人なら飛行魔法である程度は問題なく、二人までなら速くはないが浮遊で引っ張れる。速度と複数人が合わさるならエアロシュートを使った人間砲台となるのだが、頑丈なローランでさえトラウマを植え付けるほど距離が離れると恐ろしく怖いようだ。
一応、転移魔法や人間砲台以外の長距離移動方として思いついたやり方があるが、安全テストを行わなければ危険なことに変わりなく、色々な出来事が起きてしまった事で試せていない。人が入れる異空間、簡易テント内に人がいる状態で、私が回収し新たに設置した場合どうなるのか、以前私はシャーリーに聞かれた際できないと答えたが、実際はどうだろう。マリーは生きてない判定なのか可能だった。しかし、万が一ゲームと同じ処理が行われるなら、人はあの空間から排除されてしまうので、すぐに試す訳にはいかないのだった。
リディアに話をしたかったが、まだワイワイと楽しそうに話をしている事から終わるのに時間がかかると思い、先ほど伝える前にヨロヨロと去っていった魔法教会長宛の伝言を騎士にお願いした。
リディアの事は魔法教会に任せるとして、私は近くにいるはずのアルテアに別れの挨拶をしようと思い、お父様に居場所を聞いてみると、どうやら応接室にいるらしく、会ってくると告げた所、今回の件でお礼を伝えてないからとお父様も同行する事となった。
研究棟に近い建物、どうやら管理棟と呼ばれる場所で、応接室や会議を行う部屋などがあるようだ。お父様も詳しく知らない事が多いようで、魔法道具に興味がある為、テンション高く楽しそうなお父様と話しながら歩いていく、部屋の数が多い為、警備を行っている者にお父様は聞きながら、教えてもらった部屋を目指した。
管理棟も空間拡張が施されてるようで、入る前と中の大きさが合っていない、後で確認するために扉の数を数えながら進んでいたが、五十を超えた辺りから疲れて、沢山あると言う事実だけ納得することにした。
管理棟という名前の通り、魔法教会全体の管理運用を話し合ったり行う部屋が多いと聞いたが、一般の人もかなりいるようで巡回を行っているが問題は起きないのかとお父様と私は気になったのだ。
「ふむ、悪い人を判別する仕掛けがあるのかな?お母様に聞いたら教えてもらえないかな?」
「難しいと思うぞ、私もこれまでに聞いてきたが、大抵の事は守秘義務とやらで突き通される。私も王城の事や特務の話を聞かれても答えないので、同じではあるがな」
お父様とお母様はお互いに秘密を持っている。
お父様は王国側、お母様は元々王国貴族だけど、今は魔法教会に在籍する兼ね合いで扱いは教会人員になる。通常は生まれた国のまま扱われるけど、属性長は秘密を多く知る事から皆が教会人員になると知った。ある程度、お父様が領地を離れた時に代理で指示できるようにお母様へ話を伝えているようだけど、全ては教えてないと言う。お母様も全て知りたいとは思わないらしく、夫婦の絆って不思議に思うのだ。
そんな事を考えながら歩いている為、床に敷かれたカーペットに躓き倒れかけた。
「お、お父様助かりました…」
「気をつけるんだぞ、アニエスが怪我するのは私もアンナも望んでいないし、そんな姿は見たくないからな」
時々揶揄われるけど、大抵助けてくれるお父様は私の中で高評価だ。頷きながら、歩いていると「変な事考えているな…」と言われてしまった。
話を聞いて辿り着いた管理棟三階、三階全て応接室として使われるようで、誰がきても良いように通路も綺麗な装飾が施されていた。
「ここですよね?何と言うか未だに信じれませんね」
「私も同意見だな、扉が並ぶ事は普通有り得んからな」
一階や二階も多かったが、三階は更に大量の扉が隙間なく並ぶように配置されている。まず通常では考えれない、見た目通りの中なら大人が横並びになるのも難しい狭さだろう。応接室として使われる事から来た者に魔法教会の技術を見せる目的を兼ねていると思うのだが、全てに空間拡張となれば、技術だけではなく、何か裏技を使っているような気がした。
この中で何処にアルテアがいるのか、探すのも一苦労に思えた。しかしわかりやすく扉の上に使用中の時は明かりを灯す魔法道具が付いていたので迷わずに扉まで辿り着けた。
扉をノックして名前を名乗り、中に入って良いかと聞くとアルテアの元気で明るい声が「いいよ!」と返事が来た為、扉を開けた。
アルテアは扉の近くに立ち、ツノがない姿でワンピースの服を着た姿はドキッとしてしまうほど似合っていた。この姿で笑顔を作れば、大抵の事を許してしまうだろう。
「ほうほう…アニエスちゃん動かないでね」
部屋の中のアルテアは私を見るや否や目の鋭さが増して、左右の目を光らせながらそう言った。
「ボクにバレないとでも思ったのかな?」
アルテアはそう言いながら近寄り、私は戸惑いながら後退りしてしまう。お父様も動きずらい事から魔力を利用した空間拘束だろうか、私も動きにくい事は間違いなく、近寄るアルテアが伸ばしたてを見ると「ヒィッ!」と反射的に声が出てしまい、目を閉じた。
「あ、あれ…何も起きてない?」
何かされると思っていたが、何もされてない事から目を開けると目の前にはムッとした表情のアルテアが立ち、片手に蜘蛛を掴んでいた。蜘蛛といっても掌サイズで赤く光る目が九つあり、普通の蜘蛛ではない事が一目見ればわかった。
「アニエスちゃん酷いよね、ボクがアニエスちゃんを攻撃するはずないでしょ?これ捕まえるために逃げ道を無くしたんだよ」
一度視界に入れていた蜘蛛をアルテアは見せてくれるのだが、ワサワサと動く様は気持ち後悪く感じてしまう。引き攣った表情を察したのか、アルテアは「蜘蛛苦手だった?ごめんね」と言って大きい瓶に無理やり詰めると収納したのだ。
「えっと今のは?」
「見た目は普通の蜘蛛だけど、人に取り憑いて情報を集める厄介な蜘蛛だね」
「全く気がつきませんでした。一体いつの間に…というか何処に…」
「使役蟲は魔力を吸い取るんだけど、怠さとかいつもと違う事なかったのかな?」
怠さはあまり感じなかったが、いつもと違う事と言われればいつも以上に飲食をしたような気がしたと伝えた所、アルテアは「アニエスちゃんらしいね」と微笑んだが、私らしいとは一体なんだろうか…
アルテアは先程の大きさを普通の蜘蛛という事から異界に居るのだろう。それよりも私はあの様な蜘蛛を知らなかった…と言うより、何処に居たのかさえ感知できなかった事を悔やんでしまう。すると、アルテアは「異界の蜘蛛だし、そもそも闇と同化してるからボク達側じゃないと見えにくいからね。ボクも潜んでる辺りがボヤける程度しか見えないからね」と慰めてくれた。
情報を集める蜘蛛、使役蟲に対してお父様も興味を示していた。私の感覚でさえ気が付かない状態だった事もあり、もしかすると他にも潜んでいる可能性も考えられるのだ。
アルテアは簡単な判別法があると言って、姿を捉えるのは魔族でも難しいが、水を嫌う事から霧吹きをかけるだけで嫌がり逃げていくと教えてくれた。
知る事はできてもお父様は霧吹きを知らないようで、私も確かに今まで見た事は無く、どうやら王国内に存在しないようだ。
アルテアは腕を組み両目を閉じて、うーっと声を漏らしながらハッと目を開けた。そして、魔王城に霧吹きは沢山あるらしく、次に帰る時あれば持ってくると約束してくれたのだ。
「蜘蛛と霧吹きの話は一旦置いておいて、改めてアニエスちゃん!!よく来たね!お父さんも一緒って事はそう言う事かな?」
私は首を傾げて「何の事です?」と言葉にした。
「結婚だよ!家族紹介じゃなかったの!!」
「違いますって、既に何回も私のお父様と話してますよね…」
ため息まじりに私がそう言うと、アルテアは「がーん!」と自ら声に出した。
「はい!一度仕切り直します!!」
この場を仕切り直して、礼儀は必要なので、軽く挨拶を行う。お父様も礼儀正しく挨拶と今回の行為、今の出来事の感謝を伝えた。
「アニエスちゃんのお父さんだから気楽で構わないのに、それと今回はボクにとっても収穫だったから、むしろ感謝してるほどだよ!」
更に先程収穫した蜘蛛、あれも貴重らしく、ラキアが検体を欲しがっていたと言う。使役するのは今の魔族で難しいらしく、危険な魔物や悪魔の一部が使える貴重な蜘蛛らしい、それを聞いてますます何処で私に付いたのか、気になった。ラキアが何か調べるのなら、後々聞くことにして魔法教会長が話したアルテアの見つけた文字を聞いてみた。
「変な文字を見つけたと聞きましたけど、何か知ってるのですか?」
「変な文字ってのは、古代ルーン文字で、前から探してたんだよね♪」
ここでその名前を聞くとは、古代ルーン文字、私が知るものと同じなら原初の魔女が作り上げた魔法を文字に置き換えた物だ。
つまり、私が設定上作った事になっている文字だ。
「えっと、こんな感じの文字です?」
次元収納から魔法ペンを取り出すと空中に文字を浮かべる。すると合っていたようで、アルテアは何で知ってるのと驚いていた。
説明は話が難しくなる事もあり、前世で研究をしていたと伝えた。
驚くアルテアはもっと早く話をすればよかったと後悔していた。
ふと、思った事だが、原初の魔女として私の設定があり、古代ルーン文字を作ったのだが、この世界には神様が言うに私やマリエルは存在しないと言っていた。それなら何故、古代ルーン文字が存在するのだろうか、それよりもかなりの矛盾が発生している気がする。あり得た事があり得ない事なのに何故、現象として残っているのだろうか、何か重要なことが抜けている気がした。
それとも単純に私やマリエルが居ない世界でも強制力が働き、別の人が作った事になっているのだろうか、それを調べる術は殆ど残っていない、神様に聞くのが一番なのだが、必ず会えるわけでもなく、会う時は忘れてしまう事が多い、次に会う時にしっかり聞こうと思った。
アルテアに頼まれ、断る理由もない為、羊皮紙を取り出すと古代ルーン文字を書き写し渡した。魔法核に刻まれた古代ルーン文字は一部のみだったこともあり、とても喜ばれた。お父様からは利用できないものかと聞かれたが、私の知る限り発動しない、というより既に一度試した後なので、使えないと断言できるのだ。
魔法は奇跡の贈り物、魔術は探求心を具現化させた物、魔法を扱えない者が魔力の代わりに別の代償を支払い使うのが魔術、私が作ったとされる古代ルーン文字は魔術的な要素が多く、魔法を上手く扱えない者も便利に暮らせるようにと文字に力を込めたのだ。
私が知るのは設定上の話なので、古代ルーン文字がどのように効力を発揮していたのか仕組みは分からない、一通り試して発動しなかった事で、この世界では力を失い発揮できない残物と思っていたのだ。
あれ、おかしい…なら何故、魔法核に刻まれた文字は光り魔力が漏れていたのだろう。そもそも魔王のアルテアも探していたほど珍しい文字なのに誰が施したのか、元から刻まれていた可能性もあるが、少ないと思う。考えるにしても情報が少なすぎる為、探していたアルテアに使い道を聞いてみる事にした。
「アルテア様は何に利用するのです?」
「秘密♪うまくできたら、ラキアが喜びながら報告しに行くと思うよ!アニエスちゃんへの借りが返せないまま、増えていくから、どうしたものかな、魔族領の爵位は断られてるし、広大な土地あるけど、魔力枯渇してるんだよね。ラキアに何か考えさせておくから少し時間ちょうだいね」
アルテアはそう私のお返しを考えると言うのだが、そこまでアルテアに借りを作った気もないし、なんなら騒動の時も今回の時も助かったと思う。むしろ、ラキアの報告の方が気になるので、報告しに来た時に情報をもらう程度でわたしは良いのだ。
アルテアの言葉にお父様は「その話は聞いていないのだが…」と悩ませていた。
私はお父様の呟きに対して「伝え忘れですね」と声に出して答えたが、横目で私を捉えた事から、後で小言を言われるのは確定のようだ。
アルテアに領地へ帰ることを伝えると「えー!アニエスちゃんと離れるのは寂しいよ!」と言われたが、こればかりは仕方がない、お父様は何故か謝っていたが、ずっと王都で暮らす訳にはいかないのだ。
アルテアは急に目を閉じると腕を組み考え始めた。
「何かいい手はないものだろうか…アニエスちゃんに着いて行くとか」
アルテアの急な思いつきから発せられた言葉、それを聞いたお父様は普段見せないような焦りから「王都と違い何もない所ですので…」等、遠回しにお断りをしたい様だが、アルテアは「大丈夫!ボクはアニエスちゃんの大親友で、お姉ちゃんだから!」と何が大丈夫なのか理解しにくい言葉を並べて押し切ろうとしていた。
「むむむ、もしかしてボクは嫌われているのかな?」
アルテアは少し悲しげな表情でそう言うと、お父様も根負けした様で「何もない領地ですが…」と受け入れた。
アルテアは先程までの悲しげな表情が一変してニコニコ笑顔で「お世話になるね!」と軽く言うのだ。
私は一連の流れに口出しすると両者から後で何を言われるか分からなかったので、決着を見守り、アルテアの泣き落としに近い戦術は恐ろしいと思っていた。アルテア本人も私の友人という扱いで、公的な身分は気にせずにと言っていたが、お父様は対応が難しいのだろう。結果として許可された以上私が口を出す事ではないが、一つ気になる事を聞く事にした。
「お父様が良ければ私は構わないですが、アルテア様は勝手に決めていいのですか?ラキア様が怒らないか心配です。後で責任押し付けないですよね?」
「うーん、多分?頼まれてた直しは殆ど終わってるし、ボクいなくてもラキアの配下が居るから大丈夫かな?」
ラキアの配下、私は何度か会ったが、ラキアと同じく、黒いスーツを来た身長の高い男性、白髪に赤い両目が目立つ人だった。
別れを告げるはずが何故か同行する事になるアルテアだったが、私の家を見てみたいのが本音らしい、更に何か考えがあるように笑みを浮かべ怖さすら感じてしまうのだ。
「アルテア様は何が目的ですか?何か隠してますよね?」
「純粋に親友の家に行きたいだけだよ?それと、ラキアももれなく付いてくるから領地開発や製造にこっそり人を回せるからお得だよ、更に今なら霧吹きも付いてくるよ」
ラキアが可哀想に感じるが、確かにアルテアが話した事は利点と思う。仮に無条件で力を借りれるなら魔族領の技術力を考えるととても良い話だ。しかし、こんな勝手ができるのだろうか、個人的な意味ならアルテアやラキアも協力的と思うが、他の人を動かせば話も変わる。それは個人的な行動ではなくなり、一国の領地に対しての干渉となるからだ。それはお父様も考えているようで、顔を見るとやはり悩んでいた。
考えが纏まったのかお父様は「アニエス、任せたからな」と私に小声で話した。私はアルテアが居るなら楽しそうだし、本人も迷惑かけないと言う事も含めて頷きながら「任せて下さい」とお父様に伝えた。
「それではアルテア様、準備しててくださいね」
アルテアは元気よく返事をして、私は移動の準備という意味だったが何故か転移魔法を使い異界に戻って行ったのだ。
私達はアルテアが居なくなった部屋から出ていくと、時間がそれなりに経過した事で、シャーリーが用事を終えて合流した。
シャーリーが来た事で、お父様は急なアルテア訪問に向けて対策を練るらしく、私をシャーリーに預けて一人で用事を済ませると言い離れた。おそらく、アルテアが領地に滞在する事を国王陛下に伝えたりするのだろうと思い、手を振り「頑張ってください!」と応援の声をかける。それにお父様は後ろ姿で手を上げて応じたのだ。
「シャーリー、普通こんな時って振り向くよね?」
お父様が後姿で手を振るのはカッコよくて見えるのだけど、振り向いてもいいんじゃないかなと思ってしまい言葉に出した。
「私が知る限りこの様な出来事は想像できませんので、お答え致しかねます」
「私に対して冷たい二人は嫌い!」
私はむっと両頬を膨らませてシャーリーに向かいそう言う。
「アニエスお嬢様、頬を膨らませていると他の方に笑われてしまいます。これで機嫌を直して、リディア様の元へ向かいますよ」
怒ってないが、怒るふりをしている私に対してシャーリーはゴソゴソとアイテムポーチから丸い物を取り出し、私の手に乗せた。
「これは?」
「先程手に入れた飴玉ですよ」
シャーリーが答えた飴玉、勿論知っているが、この世界で存在するとは思わなかった。よくよく考えるとアルテアから貰ったお菓子や王都の食文化を考えるとゲームに近づいてきたのだろうか、考えても意味のない事を頭の片隅に追いやると包みを開いて中の飴玉を取り出し「綺麗だね」と指で掴み言葉を言う。シャーリーは「アニエスお嬢様が一番ですよ」と軽く細笑み返したのだ。
「もう!揶揄わないで!シャーリー、ありがとね!」
私は照れ隠しも含めて、そう言うと飴玉を口の中へ入れた。
「なにこれー甘い!むしろ甘すぎる!でも考えてる時にはいいかも♪」
飴玉ってこんな味なんだと思いつつ、口の中に広がる甘さを楽しむ私にシャーリーは「アニエスお嬢様、そろそろ向かいましょうか」と言う。私は頷きながら「うん、行こっか」と返した。私達は予定通り、リディアを待たせている部屋へ向かう事にしたのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
元々は2000文字ぐらいのはずが、増えてた結果です。
そして、アルテアは別れず着いてくるという結果に…




