勇者の肩凝り
お読みいただきありがとうございます。
目的地である『終焉の祭壇』はもう目の前。神の番人との激しい戦いが繰り広げられます。
常識が一切通用しない英雄たちの、規格外すぎるバトルの結末をどうぞ。
荒れ狂う海を越え、私たちはついに目的の黒い孤島へと上陸した。
島の中央にそびえ立つ、不気味な黒岩の山。その頂に、神の加護すら消滅させるという『終焉の祭壇』が存在する。
「ついに……ついにここまで来たぞ! 俺たちの終わりの地だ!」
ジークが少年のような笑顔で拳を突き上げる。他の面々も、数百年ぶりに瞳に生き生きとした輝きを取り戻していた。私はといえば、相変わらず巨大な革鞄を背負い、彼らの後に続いて険しい山道を登っていた。
山頂の開けた場所にたどり着いた、その時だった。
空間がグニャリと歪み、目の前に禍々しい瘴気を纏った巨大な怪獣が姿を現した。
漆黒の毛並みに、獅子の頭、背中には大蛇の尾。それ以上に異様だったのは、その獣が周囲の空気を腐らせるほどの『即死の呪い(デス・オーラ)』を常時放射していることだった。神が祭壇の悪用を防ぐために配置した、最強の番人――「冥界の処刑獣」である。
『愚かな不老不死者どもよ。ここから先は神聖なる領域。触れるものすべてに等しく終わりを与える、冥府の顎であ――』
「おい、聞いたかみんな!? あいつ今、等しく終わりを与えるって言ったぞ!」
番人の言葉を遮り、ジークが大はしゃぎで叫んだ。
「マジか! 本物の即死持ちじゃねえか! うおおお, 大アタリだ!」
バルトがガッツポーズを決め、ミレイは感極まって涙ぐんでいる。ニクスですら『影喰らい』の柄を握る手が歓喜で震えていた。
『な……っ、何をふざけて――死ねぃ!』
侮辱されたと感じた処刑獣が激昂し、口から濃黒の即死光線を放った。真っ先に突撃したジークの胸へ、その光線が直撃する。
ドゴォォォン!!
「ジーク様!?」
普通の人間である私は思わず悲鳴を上げた。いかに不死身とはいえ、神の即死の呪いだ。ついに、旅の目的が達成されてしまったのか。
しかし、煙の向こうから現れたジークの姿は、あまりにも奇妙なことになっていた。
「お、おお……? これは、なんだ……? 身体が……」
ジークの肉体が、凄まじい速度で「一瞬で消滅(死亡)して、一瞬で光とともに再生(蘇生)する」を繰り返していた。
彼が神から与えられていた加護――いかなる絶技を喰らおうとも瞬時に肉体を完全な状態へと巻き戻す『神速再生』。その最強のチート能力が、この土壇場で完全に悪さをしていた。
番人の即死の呪いと、ジークの『神速再生』が完全に拮抗した結果、ジークの身体が毎秒100回以上の超高速で点滅し始めたのだ。チカチカと激しく輝くジークは、まるで壊れかけの魔法灯火のようだった。
「ジーク、大丈夫!?」
ミレイが駆け寄る。
「いや、大丈夫かって言われると……死んだ感覚はあるんだけど、次の瞬間には生き返ってるから、結果的になんか凄まじく肩が凝るというか……ちょっと身体が痒い(・・・・・)くらいだな!」
「チッ、毎秒死んでるのにノーカウント扱いかよ! 神様のシステム、マジで融通が利かねえな!」
バルトが本気で悔しそうに地団駄を踏んだ。
『な、何が起きてる……!? 我が『即死』を喰らって、なぜ点滅しているだけでピンピンしているのだ……!?
処刑獣が、見たこともない現象に目玉をひん剥いて狼狽している。
「うるさいわね、バケモノ。ジークをこんなにチカチカさせて、目がチカチカするじゃないの。早くそこをどきなさい!」
ミレイが不機嫌そうに杖を振るうと、異次元の質量を持つ重力球が処刑獣の巨体を押し潰した。
「おい、もっと気合い入れて殴ってこいよ!」
高速点滅したままのジークが、肉眼で捉えられない速度で処刑獣の顎に強烈な裏拳を叩き込む。さらにニクスが影からその四肢の腱を正確に切断した。
『ヒ、ヒィッ……なんなのだお前たちは……! 不老不死を解きに来たんじゃないのか……!? なぜ我が一方的に蹂躙されている……!?』
即死攻撃すら「肩凝り」で済ませる規格外のバケモノ4人を前に、最強の番人は完全に心を折られ、涙目でガタガタと震え出した。
「はぁ、またダメだったか……。やっぱり祭壇の本体に行くしかないみたいですね」
私は大きなため息をつきながら、背中の革鞄の位置を直した。
「……おい。もう、通っていいぞ。頼むからこれ以上殴らないでくれ」
処刑獣は自ら進んで道を開け、山の岩陰に体育座りをして縮こまってしまった。
「よし、気を取り直して祭壇へ行こう! 次こそ本番だ!」
ジークは高速点滅からようやく元の姿に戻り、爽やかに笑いながら歩き出す。
私は彼らの背中を追いかけながら、いよいよ近づく「遺産相続」の瞬間に向けて、革鞄のベルトを強く握りしめるのだった。
第5話をお読みいただきありがとうございました。
最強の番人を前にした、勇者たちの常識外れな強さはいかがでしたでしょうか。
次回の第6話は、いよいよこの物語の最終回となります。
番人を越え、ついに『終焉の祭壇』の前に立った一行。そこでレイが石碑の文字を解読したとき、この世界のシステムに隠された真実が明らかになります。
それでは、最終回でお会いしましょう。




