世界一迷惑な遺言
お読みいただきありがとうございました。
『勇者パーティーの荷物持ち』、いよいよ最終回となります。
番人を越え、ついに『終焉の祭壇』へとたどり着いた一行。
彼らの長い旅の結末を、どうぞ最後まで見届けてください。
神の番人を泣かせて道を開けさせ、私たちはついに山頂の『終焉の祭壇』へと到達した。
そこにあったのは、神秘的な白い光を放つ古びた石碑。その周囲には、数百年間誰も解き明かせなかった神聖文字が刻まれていた。
「おい、レイ! お前の万能な頭脳で、早くこの文字を読んでくれ! どうすれば俺たちは死ねるんだ!?」
ジークが私の肩を激しく揺さぶる。
「落ち着いてください、ジーク様。今、解読しますから」
私は革鞄から古代言語の辞書を取り出し、石碑の文字を慎重に読み解いていく。
そこには、かつて世界を救った不老不死の英雄たちへ贈られた、神の「お片付けシステム」の仕様が記されていた。
『神の加護たる不老不死の呪いは、世界の理であるため消滅させることはできない。しかし、その身に宿る加護、およびこれまでの旅で蓄得した全ての財産と全スキルは、承認された別の生きた人間へ――一括で譲渡(相続)することが可能である』
――え?
私は文字を二度見した。心臓がドクンと嫌な音を立てる。
『譲渡が承認されたとき、元の不老不死者は全ての加護と縛りから解放され、速やかに消滅(成仏)する。そして、新たな相続人がその【二代目】となり、全ての呪いと遺産を引き継ぐものとする』
頭の芯が真っ白になった。
つまり、どういうことだ。ジークたちが無事に死んで(消滅して)願いを叶えた瞬間、私がずっと楽しみにしていた「最強の装備」や「国家予算並みの全財産」と一緒に――彼らが数百年間苦しみ、今も死にたがっている**『絶対に死ねない不老不死の呪い』までもが、私に強制的に一括相続(転送)されてしまう**という、最悪のバグ(仕様)ではないか!
「おい、レイ! なんて書いてあるんだ!? 早く教えてくれ!」
ジークが目を輝かせて身を乗り出してくる。
「あ、あの、ジーク様……。大変言いにくいのですが、これ、皆さんが消滅すると、私が次の不老不死に――」
「なんだって!? じゃあ、俺たちの『荷物』を引き継いでくれるお前がいれば、俺たちは本当に死ねるんだな!?」
「話を聞いてください! 私が死ねなくなるんです!」
「ありがとう、レイ。本当にあなたを荷物持ちにして良かったわ」
ミレイが、数百年ぶりに心からの美しい笑顔を浮かべ、石碑に手を触れた。
「おいレイ! 俺の『竜鱗の盾』、今度からは本当にただの鉄板として使っていいからな! 達者でな!」
バルトが親指を立てる。
「……じゃあな、レイ。俺の存在を、これから永遠に覚えていてくれ」
虚空から姿を現したニクスが、静かに微笑んだ。
「待ってください! 死なないでください! 遺産なんか要りません! 私に相続させないでください! 私は普通に年をとって死にたいんです!」
これまでとは完全に立場が逆転し、私が涙目で彼らを引き留める。
しかし、システムは無情にも作動した。
『――相続の条件をクリア。遺産の譲渡を開始します――』
石碑から凄まじい光が溢れ出し、4人の身体を包み込む。
「あはは! 身体が軽い! 消えていくぞ! 終わるんだ!」
ジークが、今度こそ点滅ではなく、本物の光の粒子となって消滅していく。4人は満足げな、救われたような最高の笑顔を浮かべて、一瞬で光の彼方へと消え去っていった。
「ジーーークーーー様ーーーー!!」
私の絶叫が山頂に響き渡る。
やがて光が収まり、静寂が戻った。
無人の祭壇に残されたのは、地面に転がる『聖剣エクスカリバー』『賢者の杖』『竜鱗の盾』『影喰らい』。そして、数百年分の国家予算が詰まった革鞄。
私は世界一の富豪になり、世界最強の力を手に入れた。
試しに、自分の手の甲をナイフで少し傷つけてみる。
次の瞬間、傷口は淡い光とともに、一瞬で、完璧に再生して消えた。病気も、老いも、死も、もう私には訪れない。
「……嘘だろ」
私は最強の装備と莫大な財産、そして世界で一番いらない『不老不死の呪い』を背負い、頭を抱えてその場にへたり込んだ。
死にたがる最強の英雄たちに、最後の最後で世界一迷惑な遺産を押し付けられた、ただの荷物持ち。
――こうして、二代目となった「絶対に死ねない荷物持ち」レイの、長すぎる本当の旅が幕を開けるのだった。
(完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
「早く死んで遺産をよこせ」と言っていたちゃっかり者の荷物持ちレイが、最後の最後で『絶対に死ねない呪い』まで一括強制相続させられてしまうという、最悪のバグ(仕様)の結末でした。
死にたがっていたジークたちは大喜びで成仏していきましたが、残された二代目不老不死・レイの長すぎる苦労はここから始まります。
死にたがる最強の英雄たちと、普通の人間でありながら万能すぎた荷物持ち。彼らの奇妙な「終活」の物語を、これまで一緒に旅するように楽しんでいただけたなら幸いです。
また別の作品でお会いしましょう。




