第43話 山が眠らせたもの
夕暮れのベルフォード領。
1日の収穫を終えた薬草畑は、黄金色の陽光に照らされていた。
村人たちが帰路につく中、リアだけは畑の端でしゃがみ込んでいた。
「……やっぱり」
リアは地面へそっと手を伸ばす。
乾いた土を一握り取り上げ、指先でゆっくりと崩した。
「この辺だけ……」
土の色が少し違う。
黒く、しっとりとしていて、細かな粒が混じっている。
昨日まで見てきた場所とは、明らかに質が違っていた。
「リア様?」
後ろからアルが声を掛ける。
アルの後ろにはレオンとロイドもいた。
「何か見つかりましたか?」
リアは掌の土を見せた。
「見て。この辺だけ土の色が違うの」
レオンはしゃがみ込み、土を眺める。
「……本当ですね」
しばらく考え込んでいたロイドは、ふと思い出したように口を開いた。
「そういえば……」
「昔、その辺りだけ岩の色も違ってたな」
「岩?」
「ああ」
ロイドは遠くの山を見つめる。
「子どもの頃、祖父に聞いたことがある。『あの辺りの岩は昔から色が違う』って。だから近付くな、とも言われたな」
リアの瞳がわずかに揺れた。
土の色。岩の色。品質の良い薬草。廃鉱山。
点だったものが、少しずつ一本の線になっていく。
「……調べてみる価値はあるわね」
リアがそう呟くと、ロイドは静かに、だが力強い瞳でリアを見つめた。
「もし本当に調べるなら」
リアはロイドを見上げる。
「俺も連れて行ってくれ」
リアは驚いて顔を上げた。
「ロイド?」
「……あの山には」
ロイドは夕日に染まる山を見つめた。
「俺の人生が埋まっている気がするだ」
その言葉には、どこか懐かしさと寂しさが滲んでいた。
リアは何も聞かなかった。
きっとロイドにも、あの山に対する特別な思い出があるのだろう。
「ええ」
リアは微笑んだ。
「その時は、一緒に行きましょう」
ロイドも静かに笑みを返した。
◇◇◇
帰り道、夕日に染まる薬草畑を歩きながら、セレスがぽつりと呟いた。
「不思議ね」
「何が?」
「最初は、誰も薬草なんて見向きもしなかったのに」
セレスは周囲を見渡した。
今では村人たちが笑顔で働き、薬草はベルフォード領を支える産業になっている。
リアは小さく笑った。
「価値は、最初からそこにあるとは限らないもの。見つけて、育てて、初めて価値になる。」
セレスはくすりと笑う。
「リア様、最初からそう言っていたわね」
「そうだったかしら」
「ええ」
二人は顔を見合わせ、笑い合った。
リアは足を止める。
そして、夕日に照らされた山を静かに見上げた。
「でも……」
その瞳には、確かな期待が宿っていた。
「あの山には、まだ何かある」
山は何も答えない。 けれど、リアは不思議とどこか確信があった。
あの山には、まだ誰も知らないベルフォード領の未来が眠っている。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
現在、第4章を執筆中です!
これからもリアたちの活躍を楽しんでいただけるよう、頑張ります。
また投稿再開しましたらよろしくお願いします!




