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婚約破棄された元社畜令嬢は、終わったはずの領地で宝物を見つける  作者: 植早 凛
第3章 追放された元社畜令嬢、眠れる薬草で未来を拓く

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第37話 新たな産業の種

「この薬、実は――」


セレスは周囲に聞こえないように声を落とした。


「傷だけじゃなくて、肌荒れにも効くかもしれないの」


セレスの言葉に、リアは目を見開いた。


「……肌荒れ?」


リアは、思わず聞き返した。


「そうよ。そもそも、この薬の原料となった薬草は、煎じて肌に塗ると、荒れた肌が落ち着くって昔、薬草師の人から聞いたことがあるの」


セレスはリアにだけ聞こえるように言葉を続ける。


「それで今回、薬を作るときに煎じたものに触れたりしたでしょう?そしたら、見て」


セレスはリアに手を見せる。


「肌の状態が良いわ」


作業中に触れた手の部分が明らかに綺麗になっている。


「そうなのよ!」


「……」


リアは、俯きしばらく黙り込んだ。


「リア様?」


突然、俯いたリアにセレスが心配そうに声をかける。

リアはパッと顔を上げるなりセレスの肩を掴む。


「セレス、よく気付いてくれたわ!これは……」


リアは興奮気味に話す。


「化粧品にできるかもしれないわ!」


「化粧品?それって、お貴族様が使うようなあの化粧品のこと?」


「ええ。正確にいうと、お肌の調子を整えるために使う化粧品よ」


リアは、薬草工房の方へ視線を向けた。


前世では、さまざまな化粧品が販売されていた。

化粧水、クリーム、乳液、美容液に日焼け止め。


けれど、この世界ではどうだろう。


メイク道具はあっても、肌を整えるための化粧水やクリームといったものは存在しない。

肌荒れを隠すために、さらに厚い化粧をするため、肌荒れも悪化する。


だからこそ、リアは心のどこかでずっと求めていた。


「でも……」


リアは、ふと考えた。

化粧品を作り続けるには、売れる商品でなければならない。

あの傷薬のように…。


そもそも、傷薬が売れたのは、それを必要とする人がいたからだ。


それなら、やることは1つだけだ。


実際に必要としている人がいるのか。

どのような悩みを抱えているのか。

それを確認する。


「セレス」


「なに?」


「少し、女性たちに話を聞いてみたいの」


「女性たち?」


「ええ。肌のことで、何か困っていることがないか」


セレスは一瞬きょとんとしたが、すぐに笑顔になった。


「分かったわ」


◇◇◇


翌日、リアとセレスは、領地で暮らす女性たちを集めていた。

突然集められた女性たちは、少し緊張した様子でリアを見ている。


「今日は、皆さんに聞きたいことがあるの」


リアは、集まった女性たちを見渡した。


「肌のことで何か困っていることはないかしら?」


「肌ですか?」


「ええ」


リアが頷く。


「例えば、肌が乾燥するとか。荒れやすいとか」


すると、1人の女性がおずおずと手を挙げた。


「……冬になると、手が荒れてしまいます」


「手荒れ?」


「はい。水仕事が多いので」


別の女性も続いた。


「私は畑仕事をしていると肌が乾燥します」


「私は夏になると、顔や腕が赤くなってしまって……」


「日焼けも困りますよね」


「ええ。毎年、夏になると肌が痛くなります」


次々と上がる声に、リアは驚いた。


乾燥肌、手荒れ、日焼け。

前世では、当たり前のように対策商品が販売されていた悩み。


しかし、この世界では――。


「皆さんは、そういうときどうしているの?」


リアが尋ねると、女性たちは顔を見合わせた。


「我慢するしかありませんね」


「油を塗ることはありますけど……」


「でも、匂いが気になりますし」


リアは、黙って女性たちの話を聞いていた。

そして、セレスと顔を見合わせる。


「リア様?」


セレスが声をかけた。

リアは、ゆっくりと頷いた。


「需要はありそうね」


「ええ」


セレスも頷く。

リアは、もう一度女性たちを見渡した。


「では、もしも――」


リアは、女性たちに話しかける。


「ベルフォード領で肌荒れや乾燥を防ぐための商品が作れるとしたら?」


女性たちは、一斉に顔を上げた。


「本当ですか?」


「この領で?」


「ええ」


リアは頷いた。


「まだ、本当に商品になるかは分からないわ」


リアは、慎重に言葉を選んだ。


「でも、やっぱりどうしてもお肌の状態は何とかしたくてね。試してみる価値はあると思うの」


「ぜひ、試してみたいです!」


「私も!」


「肌荒れが良くなるなら、ぜひ使ってみたいです」


女性たちの反応を見ながら、リアは目を輝かせた。


薬草を使った傷薬。

それは、ベルフォード領に大きな利益をもたらした。


そして今、同じ薬草から別の商品を作る可能性が生まれようとしている。


「決めたわ」


リアは、力強く言った。


「薬草を使った、新しい商品を作りましょう」


リアは、楽しそうに笑った。


「今度は、私達女性たちのための商品よ」


その言葉に、女性たちから歓声が上がった。


「楽しみですね!」


「どんなものになるんでしょう?」


「肌がきれいになるのかしら?」


リアは、女性たちの笑顔を見つめた。


前世の知識。この世界の薬草。

そして、実際に困っている人々の声。

それらを組み合わせれば、きっと新しいものを作れる。


「まずは、薬草の成分をもう一度確認しないといけないわね」


リアが呟く。


「アルに帳簿と原価計算をしてもらって……」


「もう商売のことを考えているの?」


セレスが呆れたように言った。


「当然でしょう?」


リアは不思議そうに首を傾げた。


「どんなに良い商品でも利益が出なければ続けられないもの」


「そういうところよね……」


セレスは、苦笑した。

そのときだった。


1人の女性がクスクス笑いながら、リアに話しかける。


「やっぱり、リア様も年頃の女の子なのですね」


「えっ?どういう…?」


「だって、肌荒れを気にされるなんて……。意中の男性がいたりされるのでは?」


リアは首を大きく横に振る。


「そんな人、いないわよ」


別の女性がふと思い出したように口を開いた。


「アルさんって、独身なんですよね?」


リアは、きょとんとした。


「ええ。そうだったと思うけど……」


「騎士団長も独身よね?」


別の女性が続ける。


「そうね」


リアは、素直に頷いた。


「え?」


リアが、女性たちを見る。


「ちょっと待って。どうして突然、あの2人の話になったの?」


女性たちは、互いに顔を見合わせた。


「だって……」


1人の女性が、リアを見た。


「リア様は、どちらがお好みなのかなって」


「……どちら?」


リアは首を傾げた。


「アルさんと、騎士団長さん。どちらがリア様にお似合いなのかなって」


「え?」


リアは、ますます困惑した。


「どちらって何?」


その瞬間、セレスは深々とため息をついた。


「……鈍感ねぇ」


「え?」


「なんでもないわ」


セレスは、女性たちを見渡した。


「でも、確かに気になるわね」


「セレスまで?」


リアは、さらに困惑する。

セレスは、そんなリアを見ながら、にやりと笑った。


「本当に、本人だけが分かっていないのね」


「何が?」


「なんでもないってば」


リアは、首を傾げた。

しかし、すぐに薬草のことへ意識を戻す。


「まずは、薬草を使った試作品を作らないと」


リアの頭の中は、すでに新しい商品のことでいっぱいだった。


乾燥肌。手荒れ。日焼け。

女性たちが抱えていた悩みを解決するための、新しい商品。


そして、それは同時に、ベルフォード領にとって、次なる産業になる可能性を秘めていた。


リアは、突然立ち上がった。


「行くわよ!」


「どこに?」


セレスが尋ねる。


「薬草工房よ!」


リアは、迷いなく歩き出した。


「新しい商品を作るの!」


「リア様……」


セレスが苦笑しながら後を追う。


「……本当に、恋愛より新産業なのね」


こうして、ベルフォード領では傷薬に続く、新たな産業の種が芽を出し始めたのだった。

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