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婚約破棄された元社畜令嬢は、終わったはずの領地で宝物を見つける  作者: 植早 凛
第2章 追放された元社畜令嬢、街道を再建する

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24/29

第24話 夕暮れの街道

橋の本格的な修復工事が終わった頃には、ベルフォード領の街道は見違えるほど賑わっていた。

朝になれば商隊が訪れ、昼には領民が荷車を押し、夕方には王都へ向かう馬車が列をなす。


「あっ、また商隊だ!」


子どもたちが街道を駆け回る。


「今日は薬草が全部売れたぞ!」


「羊毛も追加で注文が入った!」


市場には笑い声が絶えなかった。


市場の一角では、焼きたてのパンを頬張る子どもたちが笑い合っている。

鍛冶屋からは規則正しい金槌の音が響き、宿屋の前では主人が新たに到着した商人を笑顔で迎えていた。


「部屋はまだ空いてるよ! 荷馬も預かるから安心してくれ!」


「今夜は久しぶりに賑やかになりそうだ。」


あちこちから聞こえる笑い声が、この街へ活気が戻ってきたことを物語っていた。


リアは少し離れた丘の上から、その景色を静かに眺めていた。

夕日に照らされた街道を、一台、また一台と荷馬車が行き交っていく。


「……ここまで来られたのね。」


思わず零れた言葉だった。

背後から足音が聞こえる。


「――こんなところにいらしたのですね。」


振り返ると、レオンが立っていた。


「巡回は終わったの?」


「はい。」


レオンもリアの隣へ並び、街道へ目を向ける。

しばらく二人は何も話さなかった。


荷馬車が橋を渡る音。

市場から届く笑い声。

そのすべてが、ベルフォード領が生き返った証だった。


やがてレオンが静かに口を開く。


「あなたは、不思議な人ですね。」


リアは小さく首を傾げる。


「そう?」


「ええ。」


レオンは苦笑する。


「盗賊まで働かせる領主など、私は初めて見ました。――正直に申し上げれば、最初はどうせ無理だろうと諦めていました。」


レオンは静かに続けた。


「あの者たちは何度も盗みを繰り返してきた。更生などあり得ないと思っていました。」


レオンは荷馬車へ羊毛を積み込むロイドの姿を見つめた。


「でも、今では違う。街道工事では誰よりも汗を流し、商隊の荷積みも黙々とこなしている。あれほど変わるとは……。私も想像していませんでした。」


リアも思わず笑った。


「仕事があれば、盗賊にならずに済んだ人もいたと思うの。」


レオンは少し驚いたようにリアを見る。


「普通なら、討伐して終わりです。」


「それも一つの方法でしょうね。」


リアは夕日に染まる街道を見つめた。


「でも、それでは何も残らないもの。領民を守ることが私の仕事。だったら、盗賊になる前に戻れるなら、その道も守りたい。」


リアはレオンを見つめる。


「もちろん、すべての人が変われるとは思っていないわ。」


レオンは黙って話を促す。


「でも、最初から見捨ててしまったら、その人は本当に戻る場所を失ってしまう。だから私は、一度だけでも信じてみたかったの。」


リアは賑わう街に視線を戻した。


「それが領主として正しいかどうかは、まだ分からないけれど。」


その横顔は夕日に照らされ、どこか眩しく見えた。

レオンは思わず言葉を失う。


……本当に、不思議な人だ。


初めて会った頃は、か弱い令嬢だと思っていた。

だが違った。

橋を直し、人を動かし、領民を笑顔にした。

目の前に立つ少女は、誰よりも強い心を持っていた。


――気付けば、その姿から目が離せなくなっていた。


「レオン?」


「……い、いえ。」


慌てて視線を逸らす。

リアは首を傾げたものの、それ以上は何も聞かなかった。

夕風が二人の間を静かに吹き抜けていく。


◇◇◇


ベルフォード領は、穏やかな一日を終えようとしていた。

――だが、その日の夜。


「リア様、お手紙です。」


アルから受け取った封筒を見た瞬間、リアは眉をひそめる。

差出人の名前はない。

だが、この癖のある筆跡には見覚えがあった。


「……また?」


静かに封を切る。

中には短い手紙が一枚だけ入っていた。


『近頃、ベルフォード領産の薬草について、王都の薬師たちの間で話題になっております。』


リアの表情が固まる。


「……え?」


部屋の空気が一瞬で冷えたように感じた。

薬草に異変。

それは、ようやく動き始めたベルフォード領を揺るがしかねない知らせだった。

リアは手紙を握りしめ、ゆっくりと顔を上げる。


「どういうことなの……?」


窓の外では、何も知らない街が静かな夜を迎えていた。


しかし、その平穏は長くは続かない。

ベルフォード領を揺るがす新たな事件は、すでに幕を開けていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

これにて第2章は完結となります。

そして次回から、いよいよ第3章が始まります!

これからもリアたちの歩みを、温かく見守っていただけると嬉しいです。


また、投稿についてのお知らせです。

これまで毎日20時に投稿していましたが、第3章からは毎週火曜日と木曜日はお休みし、それ以外の日に投稿予定です。

投稿時間は今まで通り20時の予定です。

少しゆっくりしたペースになりますが、その分、より楽しんでいただける物語を届けられるよう頑張ります。


引き続きよろしくお願いします。

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