第21話 更生は簡単じゃない
翌朝、街道工事が再開された。
領民たちに混じって、元黒狼団の男たちも騎士団の監視のもと作業へ加わる。
手首の縄は解かれている。
だが、逃亡防止のため、数歩離れた場所には常に騎士が立っていた。
領民たちの視線も冷たい。
「あいつら……」
「あれ、昨日まで盗賊だった連中だろ」
「本当に一緒に働かせるのか?」
不安と警戒が現場を包んでいた。
リアは深く息を吸う。
「始めましょう」
職人の号令で作業が始まった。
しかし――。
「おい! もっとしっかり運べ!」
「うるせぇ!」
元盗賊同士が口論を始める。
互いに胸ぐらをつかみ合い、殴り合い寸前になる。
「やめろ!」
騎士が間へ入り、ようやく二人を引き離した。
その騒ぎが収まる間もなく、別の場所では一人の男が木材を放り出す。
「馬鹿らしい……」
男は地面へ座り込み、動こうとしない。
「もう好きにしろ」
職人が困ったように頭を抱える。
さらに昼前、現場の端から叫び声が上がった。
「逃げたぞ!」
一人の元盗賊が森へ向かって駆け出していた。
しかし、数歩も進まないうちに騎士へ取り押さえられる。
「離せ!」
「おい、誰か縄を持ってこい」
暴れる男を騎士たちが押さえ込み、そのまま縄を掛け直した。
現場には重苦しい空気が流れる。
それを見ていた領民が小さく呟いた。
「……やっぱり盗賊じゃないか」
その声に、周囲も頷く。
「だから言わんこっちゃない」
「最初から無理だったんだ」
その言葉はリアの胸へ深く突き刺さる。
リアは唇を噛んだ。
本当に、自分の判断は正しかったのだろうか。
そのとき、隣へレオンが静かに歩み寄った。
「申し上げた通りです。更生とは、口で言うほど容易ではありません」
レオンは淡々と話す。
だが、その一言には重みがあった。
「人は、そう簡単には変わりません」
リアは何も返せなかった。
目の前では職人がため息をつき、領民たちは不安そうな表情で元盗賊たちを見つめている。
理想だけでは、人は動かない。
信じるだけでは、現実は変わらない。
リアはぎゅっと拳を握り締めた。
それでも――。
私は諦めたくない。
◇◇◇
一日の作業が終わる頃には、夕日が街道を赤く染めていた。
領民たちは額の汗をぬぐいながら道具を片付けていく。
少し離れた場所では、元黒狼団の男たちが黙々と木材を運んでいた。
逃走騒動の後、元黒狼団は誰一人として文句を言わなかった。
騎士たちの鋭い視線が、常に彼らを見張っていたからかもしれない。
大きな混乱もなく、一日の作業は終わりを迎えていた。
リアはその様子を静かに見つめていた。
「皆さん、お疲れさまでした」
アルが布袋を抱えて歩み出る。
「本日分の賃金をお渡しします」
領民たちは順番に銅貨を受け取り、それぞれ家路につき始める。
やがて、元盗賊たちの番になった。
アルは布袋から銅貨を取り出し、一人ひとりへ差し出していく。
「本日分です。」
ロイドは差し出された銅貨を見つめたまま動かなかった。
「……俺たちにも、くれるのか?」
信じられないというような声だった。
アルは表情を変えずに答える。
「働いた分です。約束でしたから。」
ロイドは恐る恐る銅貨を受け取る。
掌の上で小さな銅貨が夕日に照らされ、鈍く光った。
しばらく見つめたあと、小さく笑う。
「……働いて金をもらったのは、何年ぶりだろうな。」
ロイドは掌の銅貨をそっと握り締める。
その呟きは誰に向けたものでもなかった。
隣の男も苦く笑う。
「盗んだ金じゃねぇ……。自分で働いて稼いだ金だ。」
誰もが手の中の銅貨を静かに見つめていた。
少し離れた場所で、その様子を見ていたリアは胸の奥が熱くなるのを感じた。
働けば報われる。
本来なら、それは当たり前のことだった。
それなのに、この領地では、その当たり前すら失われていたのだ。
リアはそっと拳を握る。
この当たり前を、ベルフォード領に取り戻したい。
誰もが真面目に働けば、胸を張って家族のもとへ帰れる領地へ。
リアは夕日に染まる街道を見つめながら、静かにそう誓った。




