第20話 新しい選択
黒狼団の尋問から二日が経った。
ベルフォード領主館の会議室には、再び重い空気が流れていた。
机を囲むのはリア、レオン、アル、ガレス、そして文官たち。
リアは静かに立ち上がる。
「皆さんに、提案があります」
全員の視線が集まる。
「黒狼団のうち、軽犯罪者には更生の機会を与えたいと思います」
その瞬間――。
「なっ……!」
会議室がどよめいた。
「お待ちください!相手は盗賊ですよ!? 」
一人の文官が立ち上がる。
「領民を襲い、橋の工事まで妨害した者たちです!」
別の文官も続く。
「そんな者たちに仕事を与えるなど前例がありません!」
反対の声が次々と上がる。
リアは静かに耳を傾けている。
そんなリアを見つめながら、アルも話す。
「リア様のお考えは理解できます。ですが、領民の方々が納得してくださるでしょうか。被害に遭われた方もいます。」
やがてガレスが口を開く。
「……私も慎重に進めるべきだと思います」
リアは頷く。
「理由を聞かせて」
「彼らが本当に更生する保証はありません。街道工事には領民も参加しています。もし再び問題を起こせば、領民の命が危険に晒されます」
ガレスらしい冷静な意見だった。
そして、レオンも立ち上がる。
「私も反対です」
会議室が静まり返る。
「盗賊は盗賊です。飢えていたことには同情します。ですが、彼らは剣を持ち、領民へ向けました。その事実だけは消えません」
リアは静かに見つめ返す。
レオンはさらに言葉を続ける。
「法を破った者には罰が必要です。そうでなければ、領民は法を信じなくなります。『困れば盗賊になっても許される』と思う者が現れれば、この領地はさらに乱れるでしょう」
リアは小さく息を吸う。
「みんなの言うことは正しいわ」
レオンが僅かに目を見開く。
「でも、罰を与えるだけでは何も変わらない」
リアは一人ひとりの顔を見渡した。
「黒狼団を捕まえても、仕事がなければ第二、第三の黒狼団が生まれるだけよ」
誰も言葉を返せない。
「私が変えたいのは盗賊じゃないの」
リアは力強く言った。
「盗賊を生み続ける、この悪循環よ」
再び静寂が訪れる。
アルが静かに問い掛けた。
「では、お考えを」
リアは頷く。
「黒狼団全員を許すつもりはありません。人を殺めた者や、罪の重い者は法に従って裁かれるべきです」
文官たちも静かに耳を傾ける。
「ですが、軽犯罪者には更生の機会として、街道工事へ参加してもらいます。」
会議室に再びざわめきが広がる。
「もちろん監視付きです」
リアはレオンを見る。
「監視は騎士団にお願いしようと思います」
レオンは黙ったまま立っていた。
長い沈黙。
やがて静かに口を開く。
「……承服しかねます。」
リアは真っ直ぐレオンを見つめ返した。
「責任は私が取ります。」
その一言に、会議室は静まり返る。
領主代理としての覚悟。
それは誰の目にも明らかだった。
レオンはゆっくりと目を閉じる。
そして小さく息を吐く。
「……承知しました。私は騎士団長として命令に従います。ですが、もし彼らが再び罪を犯せば、その時は容赦なく捕らえます」
リアは静かに頷く。
「ええ。それで構わないわ」
会議は終わった。
夕暮れの廊下を歩きながら、リアは地下牢へ向かう。
鉄格子の前で立ち止まると、ロイドが顔を上げた。
「……何の用だ」
リアは静かに微笑む。
「仕事を用意しました」
ロイドは意味が理解できず、ただ瞬きを繰り返した。
「……は?仕事?」
「街道工事です。もちろん、働いた相応分の賃金もお渡しします。ただし、これは更生のための最後の機会。次はありません」
牢の中は静まり返る。
ロイドは信じられないというようにリアを見つめる。
「……本気なのか」
リアは静かに頷く。
「ええ。私は、人はやり直せると信じています。」
ロイドは何かを言おうとして口を開く。
だが最後まで言葉は出なかった。




