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婚約破棄された元社畜令嬢は、終わったはずの領地で宝物を見つける  作者: 植早 凛
第2章 追放された元社畜令嬢、街道を再建する

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18/22

第18話 黒狼団

領主館での会議から数日後。

ベルフォード領では、街道の応急復旧工事が始まろうとしていた。


朝早くから、崩れた橋の前には多くの領民が集まっていた。

元鉱夫や元農民、日雇い仕事を探していた若者たちだ。

その表情には緊張と期待が入り混じっていた。


リアは集まった領民たちの前へ立つ。


「今日は集まっていただき、ありがとうございます。」


静まり返る現場。

リアは一人ひとりの顔を見渡した。


「最初から難しい仕事をお願いするつもりはありません。」


近くに立つ職人へ視線を向ける。


「危険な作業や橋の組み立ては職人さんたちが担当します。皆さんには、木材の運搬や整地など、橋づくりを支える仕事をお願いしたいんです。」


領民たちは顔を見合わせた。


「もちろん、働いた分のお給金はお支払いします。」


その一言で空気が変わる。

ざわり、と人々がざわめいた。


「本当に……給金が出るのか?」


1人の若者が、信じられないというように呟いた。

リアはその若者を見つめながら、はっきりと頷いた。


「ええ。」


リアは力強く頷く。


「働いてくださった分は、必ずお支払いします。」


その言葉に、年配の男性が帽子を握り締めた。


「……ありがとうございます。」


その声は震えていた。


◇◇◇


工事が始まる。

職人の指示の下、領民たちは慣れないながらも懸命に働いていた。


「そっちの丸太を運んでくれ!」


「土はこっちだ!」


「気を付けろ! 足元が崩れるぞ!」


現場には、ベルフォード領では久しく失われていた活気が戻っていた。


リアも現場を歩き回る。


汗を流しながら働く若者。

笑顔で木材を運ぶ親子。

休憩中に談笑する元鉱夫たち。


ほんの数日前まで酒場で肩を落としていた人々とは思えなかった。

アルもその様子を見つめながら微笑む。


「皆さん、生き生きしていますね。」


リアも嬉しそうに頷いた。


「やっぱり働きたかったのよ。」


昼過ぎ、作業はいったん休憩となった。

ガレスが小さな袋を持って現れる。


「本日分の賃金です。」


働いた者たちへ、銅貨が一人ずつ手渡されていく。

受け取った若者は、しばらく銅貨を見つめていた。


「……俺、自分で稼いだ金を貰うの、何か月ぶりだろう。」


隣の男が笑う。


「俺は半月ぶりだ。」


「今日は子どもに肉を買って帰れる。」


そんな会話があちこちから聞こえてくる。


リアは少し離れた場所から、その様子を見つめていた。

胸の奥が温かくなる。


これでいい。

これが、私のやりたかったことだ。


ベルフォード領は、確かに変わり始めていた。

そう思った、その時だった。


――ヒュンッ!


風を切る鋭い音と共に、一本の矢が、橋の木材へ深々と突き刺さった。


「……!」


現場が凍り付く。

続いて、森の奥から怒号が響いた。


「襲撃だ!!」


誰かの悲鳴にも似た叫びが響いた。


黒い外套をまとった男たちが、一斉に橋へ向かって駆け下りてくる。


剣を抜く者。

斧を振り上げる者。

弓を構える者。


それぞれ武器を手にし、作業員たちへ襲い掛かった。


「きゃあああ!」


「逃げろ!」


「盗賊だ!」


一瞬で工事現場は大混乱となる。

木材が倒れ、人々が逃げ惑う。

逃げ遅れた若者が棍棒で殴られ、その場へ倒れ込んだ。


「ぐあっ!」


リアは目を見開く。


「負傷者がいるわ!」


アルが叫ぶ。


「リア様! 下がってください!」


しかしリアは逃げなかった。


倒れた青年へ駆け寄ろうとした、その時――。

森の奥から、低く響く男の声が聞こえた。


「橋を作らせるな。」


「全部壊せ。」


男たちの胸元には、黒い狼を模した紋章が刻まれていた。

――ベルフォード領最大の盗賊団、《黒狼団》。


彼らが、一斉に襲い掛かった。

領民たちは逃げ惑い、悲鳴が工事現場に響き渡った。


「た、助けてくれ!」


「逃げろ!」


木材が倒れ、工具が散乱する。

リアは倒れた青年へ駆け寄った。


「しっかりして!」


青年の額から血が流れていた。


「アル! 止血を!」

「はい!」


アルはすぐに布を取り出し、傷口を押さえる。

リアは周囲を見渡した。


「歩ける人は橋から離れて!怪我人はこっちへ運んで!」


突然の指示に領民たちは一瞬戸惑う。

だが、リアの真剣な表情に押されるように動き始めた。


「こっちだ!」


「この人も運べ!」


混乱の中でも、少しずつ避難が始まった。


だが、黒狼団の勢いは凄まじかった。

次々と領民が襲われ、現場には悲鳴が響く。


「やめろっ!」


「誰か……、助けてくれ!」


盗賊が剣を振り上げた、その瞬間――。


キィン!!


「騎士団だ!」


誰かが叫ぶ。


「レオン…!」


先頭を駆けるのはレオンだった。

その後ろには騎士団が続き、馬の蹄が大地を揺らす。


ドドドドドッ――!


砂煙を上げながら、一団の騎馬が街道を駆け抜けてくる。


「全隊、突撃!盗賊どもを橋へ近付けるな!」


「はっ!」


騎士たちが一斉に散開する。

黒狼団も武器を構えた。


「騎士団だ!」


「構うな! 押し切れ!」


次の瞬間。


キィン!!


鋭い金属音が鳴り響く。

レオンの剣が、一人目の盗賊の剣を弾き飛ばした。


「ぐっ!」


怯んだ隙を逃さず、返す刃で腹を打ち据える。

盗賊は悲鳴を上げる間もなく地面へ崩れ落ちた。


間髪入れず二人目。

横薙ぎの斧を紙一重でかわし、柄を踏み付ける。

体勢を崩した盗賊の喉元へ剣先を突き付けた。


「武器を捨てろ。」


盗賊は青ざめ、武器を落とす。


リアは思わず息を呑んだ。


速い……。

無駄が一切ない。

まるで剣術の教本を見るような戦いだった。


レオンの号令に合わせ、騎士団も無駄なく陣形を組み替える。


「逃がすな!左を囲め!」


黒狼団は次第に押され始めた。


「ちっ!引け!」


盗賊の一人が叫ぶ。


しかし、その退路へレオンが立ちはだかる。


「逃がさない。」


一閃。鋼が風を裂いた。

盗賊の剣が宙を舞う。


「まだ続けるか?」


静かな声。

だが、その迫力だけで盗賊は膝をついた。


「ま、参った……。」


次々と縄で拘束されていく黒狼団。

それでも数人は森へ逃げ込んでいった。


「深追いはするな!」


レオンが騎士団へ命じる。


「負傷者を優先しろ! 逃走した者は後で追う!」


「はっ!」


戦闘は終わった。

静けさが戻る。


リアは安堵しながら負傷者のもとへ駆け寄った。


「こちらへ!」


「傷の深い人から運んで!」


騎士たちも救護を手伝い始める。

レオンは拘束された盗賊たちを見つめた。


「人数を確認しろ。」


部下が報告する。


「捕縛6名。逃走4名です。」


レオンは静かに頷いた。


「尋問の準備を。」


縄で縛られた盗賊たちは、悔しそうに俯いていた。


リアはその姿を見つめながら、胸を撫で下ろした。


間に合った……。


もしレオンたちが来るのが少しでも遅れていたら、もっと多くの領民が傷付いていたかもしれない。


リアは改めて思う。


騎士団長レオン。

彼は、この領地を守る剣なのだ。


そして、自分は領地を未来へ導く者でありたい。


黒狼団――。

どうして橋を壊そうとしたの……。

その答えは、まだ誰も知らない。

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