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婚約破棄された元社畜令嬢は、終わったはずの領地で宝物を見つける  作者: 植早 凛
第2章 追放された元社畜令嬢、街道を再建する

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第12話 赤字の中身

本日より第2章がスタートします!

引き続き毎日20時更新です。

よろしくお願いします。

ガレスの件から数日が経った。


領主館の空気は、以前よりもわずかに張り詰めていた。

文官長の交代、帳簿整理の混乱、不正発覚後の後処理。

その影響は館中に広がっている。


その証拠に廊下では文官たちが山のような書類を抱えて行き交っている。


「その資料はこっちです!」


「前任の文官長しか分からない書類が多すぎる……!」


あちこちから悲鳴のような声が聞こえてくる。

リアは苦笑した。


「……1人いなくなるだけでこんなに変わるのね」


そんなリアもまた、執務室で資料と向き合っていた。

机の上には、過去数年分の帳簿が広げられている。

文字と数字がびっしりと並び、視界を埋め尽くしていた。

ページをめくるたび、紙の擦れる音だけが静かに響く。


その横で、アルが静かに資料を整理していた。


「改めて見直すと、興味深いですね」


アルが呟く。


「何が?」


リアは顔を上げた。

アルは一冊の帳簿を指差す。


「ベルフォード領は、何もない領地ではありません」


「……そうね」


リアも同意する。


不毛な土地だと思っていた。

だが違った。

帳簿を追うほどに、それは明らかになっていく。


「小麦、羊毛、木材……。意外と多いのよね。」


リアは指折り数えた。


「はい。」


アルは頷く。


「特産品としては十分すぎるほどです」


「薬草まで作っていたなんて知らなかったわ。」


「領民の皆さんの努力ですよ。」


「私、本当に何も知らなかったのね。」


「それは当然です。」


アルは微笑んだ。


「リア様は王都で暮らしておられましたから。」


「でも今は違うわ。」


リアは帳簿を閉じる。


「これからはちゃんと知っていきたい。」


リアはふと顔を上げた。


「でも、特産品がこれだけあるのに……」


言いかけて、言葉を切る。


違和感があった。

数字上では、領地はそこまで悪くない。

むしろ資源だけ見れば、鉱山業がなくなっても、ここまで赤字になる理由が分からない。


その時、アルが思い出したように言った。


「リア様。そういえば、手紙が届いておりましたよ」


「手紙?」


リアは首を傾げた。

アルが差し出した封筒には、差出人の名前がなかった。


「誰からか分かる?」


「いえ。匿名です」


リアは封を切る。

中には、短い文章が一枚だけ入っていた。


『王都の商人たちが、ベルフォード領の羊毛が手に入らなくなったと嘆いていました』


「……羊毛?」


思わず同じ言葉を繰り返した。


そのままリアは封筒を見つめる。


紙は折り目一つ乱れていない。

癖のない文字。

丁寧すぎるほど整っている。


「誰かがわざわざ知らせてくれた……?」


リアは眉を寄せた。

しばらく動けなかった。


アルが静かに言う。


「羊毛は、この領地の主要な輸出品の一つです。在庫も十分あったはずですが…」


リアは頷く。


商品はある。 需要もある。

それなのに王都へ届かない。


「……どういうことなの。」


思わず口に出す。


リアは机に手をついた。


ただの噂かもしれない。嘘の情報かもしれない。

だが、もし本当なら ―。


「どうにも腑に落ちないわ。また別の問題があるのかしら……」


リアは呟く。

アルがわずかに表情を動かした。


◇◇◇


数日後、再び帳簿が机に積まれていた。


ガレス失脚後の再整理。

そして、領地全体の収支見直し。


アルと補佐としてガレスも同席していた。

3人での確認作業だった。


ガレスは以前と違い、やや硬い表情をしていた。

だが、逃げる様子はない。


「改めて見直すと……」


リアは帳簿をめくる。


「この領地、思っていたより“何もない”わけじゃないのね」


アルが頷く。


「むしろ資源は豊富です」


ガレスも静かに続けた。


「はい。かつては近隣でも有数の交易地でした」


その言葉に、リアはわずかに視線を上げた。

自分が知らなかった領地の“過去”が、急に現実味を持つ。


「かつては?」


その言葉に、ガレスはわずかに目を伏せた。


「ええ」


短い返事だった。

リアは視線を上げる。


「ですが、鉱山業の衰退と共に…」


ガレスは言葉を濁す。

部屋に沈黙が落ちた。


リアは小さく息を吐く。


「無い物ねだりしても仕方ないわ。今あるものを整理して考えましょう」


机の上には数字が並んでいる。

小麦、羊毛、薬草、木材。


それだけ見れば、立派な領地だ。


だが現実は違う。

赤字、流通の停滞。

そして羊毛が王都に届かないという事実。


リアは窓の外を見る。

夕暮れの空。静かな領地。


「商品はあって、需要もあるのに、売れていない……か」


小さく呟く。


その言葉の意味を、この時のリアはまだ完全には掴めていなかった。


だが確かに、領地は“おかしな形”で崩れている。


帳簿には「ある」と書かれている。

王都では「届かない」と言われている。

その間で何が起きているのか。


そしてその原因は、まだ帳簿の外にある。


リアは静かに手紙を折りたたんだ。


「……行って確かめるしかないわね。」


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