第二十四章 黄金の朝へ
洞窟の湿った闇を抜け出した私たちの肌を、生まれたての朝の空気が優しく撫でて、視界いっぱいに広がったのは朝露に濡れてきらきらと輝く深い森の緑と、地平線の彼方から世界を黄金色に染め上げていく日の光だった。
「まぶしいね──ラグナ!」
セイが細い指先をかざし目を細める。その横顔は、夜明けの光を浴びて透き通るように美しかった。
「ああまぶしいな。だが心地よい」
私は繋いだセイの手を、少しだけ強く握りしめた。指先から伝わってくるのは、確かな途切れることのない温もりだ。かつてのように、触れるたびに呪いの鎖が軋み、私の喉を渇きで焼くことはもうない。ただ純粋に、彼がここに生きて存在しているという愛おしさだけが、私の胸を満たしている。
森の奥から、木々を揺らすように鳥たちのさえずりが聞こえて、私たちはどちらからともなく静かに歩みを止めた。目の前にはどこまでも続く穏やかな世界が広がっている。数百年もの間、私がただただ恐れ、拒絶し、暗い深淵の底から見上げていただけの奇跡のような日常がそこにあった。
木々の葉からこぼれ落ちる水滴が、足元の若草を濡らして小さな音を立てる。そのありふれた自然の呼吸が、呪縛から解き放たれた私の胸を満たした。
「ねえラグナ。僕、ずっと怖かったんだ」
セイがぽつりと、心の奥にしまっていた声を漏らした。
「自分が何者なのか分からなくて、自分の身体の中にある熱が、いつか自分を焼き尽くしてしまうんじゃないかって。でも今は違う。僕の中にいる『灯火』は、ラグナを守るためにあるんだって、はっきり分かるよ」
「セイ……」
「だからね、もう怖くないんだ。ラグナが僕の隣にいてくれるなら、僕はどんな運命だって自分の意志で歩いていける」
かつて彼を失った雪の夜、私は世界を呪い自らを呪縛の檻に閉じ込めた。しかし、今こうして時を超えて巡り合い、心を通わせた私たちの選択は、間違っていなかったのだ。
あの日、血に染まった白銀の雪原で止まってしまった時計の針が、今、確かな鼓動を伴ってカチリと音を立て動き出したのだろう。
「私こそ、お前に救われた。ただ永いだけの孤独に、お前が終わりを告げてくれたんだ」
私はセイの前に立ち、彼の両頬をそっと両手で包み込んだ。私の手のひらを通じて伝わる彼の体温は、私の凍てついた心を完全に溶かしていく。
彼の澄んだ瞳に私自身の姿が真っ直ぐに映り込んでいる。
私たちはもう、過去の幻影を追いかけるだけの迷子ではない。今、ここに生きるお互いを見つめ合っているから。
「これからは、お前が望む場所へ行こう。お前が見たいものを見て、お前が望む人生を共に歩もう」
そう私が言うと、セイは嬉しそうに目を細め、こぼれ落ちそうなほどの笑みを浮かべて、静かに頷いたのだ。
その笑顔は、かつて私が心の奥底でずっと夢に見ながらも、決して手に入らないと諦めていた、本当の夜明けそのものだった。




