第二十三章 赦しの光、魂の還る場所
視界を埋め尽くした純白の閃光が、ゆっくりと雪が溶けるように引いていく。轟音のあとに訪れたのは静寂だった。
張り詰めていた空気が緩み、洞窟の天井から冷たい水滴が一つ、床の岩肌に落ちて静かに跳ねた。
「あ……、あ……」
掠れた声が暗がりに響き視線を向けると、壁に背を預けたランバードがそこにいた。
彼の身体を覆っていた禍々しい闇の衣は完全に剥ぎ取られ、かつて一族最強と恐れられたその輪郭は、今や驚くほど細く脆く見えた。胸元には私が放った白銀の一撃が残した、淡く輝く光の傷痕が刻まれている。
「なぜ、殺さなかったラグナよ」
ランバードが、力なく首を揺らしながら私を睨みつける。その紅い瞳はもはや怒りに燃えてはおらず、ただ果てしない虚無と、行き場を失った困惑に濡れていた。
私は彼へ歩み寄ろうとするのを止め、そっと隣のセイを抱き寄せた。セイは小さく息を荒くしながらも、その瞳に静かな慈悲を湛えてランバードを見つめている。
「お前を殺しても奪われた灯火は戻らない。お前の孤独も消えない」
私は静かに言葉を紡いだ。
「それにお前はもう知っているはずだ。本当に欲しかったものは、他者をねじ伏せる力などではなかったと」
「黙れ……!お前に、何が分かるのだ!」
「分からないさ。だが、痛みは分かる」
私は自分の胸元に手を当てた。呪いの鎖は消え去り、そこにはただ温かい鼓動だけが刻まれている。
「私もお前も光を求めて彷徨う怪物だった。お前は支配を選び、私は自縛を選んだ。ただそれだけの違いだ」
私の言葉にランバードは自嘲するように低く笑い、ゆっくりと天を仰いで胸元に触れる。
その温もりに触れたのか、ランバードの歪んでいた表情がふっと驚くほど穏やかなものへと変わっていく。
「……光はとても温かいのだな。これほど、冷たい私を、温かく照らしてくれるのか」
彼が呟いた次の瞬間、ランバードの身体は漆黒の霧となって静かに崩れ始めた。役目を終えた影が、夜明けの光に溶けていくように静かに消滅する。彼を繋ぎ止めていた数百年分の増悪が、完全に浄化されたのだと分かった。
セイが微かに手を伸ばすと、私たちを優しく照らす、穏やかな青白い光が舞う。
「終わったんだね、ラグナ」
セイが私の腕の中で、張り詰めていた糸が切れたようにふわりと身体を預けてきた。
セイの胸に宿る灯火は、かつての彼自身の生命を削る暴走の火ではなく守り手と完全に溶け合った、穏やかな光へと落ち着いている。
「ああ終わっなた。これからはもう、お前を縛る運命も私を蝕む呪いもない」
私はセイの細い肩を抱きすくめ、その柔らかな髪に顔を埋めた。吸血鬼としての渇きではなく、ただ愛おしい存在の体温を感じるために。
洞窟の入り口の向こう、長い夜の果てから、黄金色の朝光がゆっくりと差し込み始め、私たちは手を繋ぎ、その光に満ちた外の世界へとゆっくりと歩みを進めていった。




