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第二十二章 最強が焦がれた光

「お前が憎かった」


ランバードがそう言った。


「愛されているお前が。守られているお前が。その呪われた姿で、なお誰かに必要とされているお前が。心の底から、憎かった」


その言葉は、剣のように刺さった。憎しみの裏に、羨ましさがある。羨ましさの裏に、孤独がある。

ランバードもまた、誰かに必要とされたかっただけなのだ。最強という鎧を纏わねば立っていられないほどに、彼の内側は空虚な風が吹き抜けていた。


「……ランバード」

「黙れ。同情するな」

「していない」

「ならば何だ」

「お前の言葉を、聞いていた」


ランバードが、かすかに動きを止めた。壁面に投影された彼の巨大な影が一瞬だけ揺らぎ、その輪郭を崩す。


「灯火が完全覚醒するところを見て、私は耐えられなくなった」


その声は怒りではなく、もっと深いところから絞り出すような声だ。


「あれほどの光が、お前のものになる。お前のためだけに、あの光は輝く。それを見て、私の中の何かが……」


そう言ってランバードは言葉を切った。その先を、言わなかったが、言わなくても、私には分かった。


(砕けたのだろう。何百年もかけて積み上げてきた、力だけが全てだという信念が)


灯火の完全覚醒は、それほどの光だったのだ。力では届かない場所にある何かを、まざまざと見せつける光だった。


「だから消さなければ」


ランバードが、ぼそりと言った。


「あの光が存在する限り、私は自分の惨めさを直視し続けることになる。だから消す。お前ごと、あの光を消せば──」

「消えないぞ、ランバード。──灯火は、力では消せない。お前が何百年もかけて学んだことだろう?」

「……黙れ!!」

「消したいなら消してみろ。だが私は、もうお前を前にして膝をつかない。私はもう、何も恐れない」

「ほう……?」

「私はセイと生きる」

「ラグナ、本当に腑抜けたな。戯言ばかり言いおって。そんな牙を失った吸血鬼に用はない。やはり、灯火もろとも死ね」


次の瞬間、ランバードが全力で闇を解き放った。


それは今まで見たことのない規模だった。洞窟の天井まで届く黒い奔流が、波のように私たちへ押し寄せる。岩壁が軋み、光苔が揺れ、洞窟全体が悲鳴を上げるように震えた。


「ラグナ!」


私はセイの前に立ち、両腕を広げた。ランバードの闇の奔流が直撃し、身体の芯まで叩き割られるような衝撃が走った。だが、私は動かなかった。


(セイだけは、絶対に守らねば。今度こそ──)


「ほう?あの攻撃を受けてもお前は立っているか。愛とやらは随分と丈夫な盾らしい」

「盾ではない。セイが側にいるから、立てる。それだけだ」

「同じことだ」

「違う。盾は失えば意味を失う。だが私の力の根はセイそのものだ。お前がどれだけ闇を重ねようと、セイが傍にいる限り、私は何度でも立ち上がる」


その言葉に、ランバードが歯噛みする気配がした。


「……強がりを」

「お前こそ、一族最強の名が泣くぞ。何百年も前から私一人を追い続けて、まだ仕留められないのか?」

私のその言葉が、ランバードの何かに触れたのだろう。闇が、さらに膨れ上がった。


ランバードの咆哮と共に、彼自身の肉体が闇に溶け、巨大な鎌のような影となって襲いかかってくる。私は解呪された全身の細胞が沸騰するのを感じながら、地を蹴る。身体が驚くほど軽い。かつて私の動きを阻んでいた重苦しい鎖は、もうどこにもない。

背後でセイが放つ灯火の輝きが、私の影を前方に長く伸ばし、進むべき道を白銀に照らし出してくれている。


「死ねぇっ!」


ランバードの爪が空気を切り裂くが、私はそれを首の皮一枚でかわし、カウンターの掌打を彼の胸元へ叩き込んだ。

ドン、という重低音が響き、ランバードの纏う闇の衣が激しく波打ち揺れる。


「お前の攻撃には、もう迷いしかない。ランバード、お前自身がもう気づいているはずだ。その闇では、この光を塗り潰すことはできないと!」

 

ランバードは狂ったように拳を叩きつけてくるが、その軌道は怒りに任せて荒れ、精細さを欠いていた。闇が洞窟の柱を次々と粉砕しては、上空から巨大な岩塊が降り注いでくる。私はセイを片腕で抱き寄せ、降りかかる火の粉をすべて自らの背で受け流しながら、闇の核心へと踏み込んでいく。


今の私には見える。ランバードが振るう闇の奥に、光を拒絶され、誰にも選ばれなかった子供のような、彼の剥き出しの絶望が。


「認めん……認めんぞ、ラグナ! お前のような不完全な存在に、私が、最強の私が屈するなど!」

「最強とは、誰にも頼らぬことではない。守るべきもののために、限界を超えて立ち続けることだ!」


セイの光が私の右手に集い、白銀の剣となって実体化した。私は全力で踏み込み、ランバードの心臓を、いや、彼を縛り付けている()を貫くべく、一閃を放った。


白銀の光と漆黒の闇が真っ向から衝突して、洞窟内に音のない爆発が起き、──私たちの視界は、眩い純白の世界へと呑み込まれていった。

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