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第十四話 魂の共鳴と、決意の咆哮

「セイ」


私は、震える彼の細い両肩に手を置き、逃げ場を塞ぐように、けれど壊れ物を扱うような慎重さでゆっくりと顔を上げさせると、そこには涙の跡が痛々しく残る瞳があった。ひどく怯え、自分という存在の不確かさに揺れている。それでも、その奥底には、私を見つめることをやめない、まっすぐで強固な光が宿っていた。


「……お前を必要としたのは、呪いのせいじゃない。これは、呪いや本能に支配された結果ではない。私自身の、たった一つの意志だ」

「……!」

「お前を見たとき、私は救われた気がした。理屈も理由もなく、ただ凍てついた胸の奥が温かくなったんだ。数百年という時を彷徨い、死を待つだけだった私にとって、あんな感覚は初めてだった」

「ラグナ……」

「お前が私の前に来てくれたこと。それが、私には何よりの救いだ。血のためではなく、お前という存在そのものが、私に必要なんだ」

その言葉を口にし、自らの心の内を晒した瞬間、胸の奥を締め付けていた鉄の楔が、音を立ててほどけていくのを感じた。私を縛り、絶望へと追い込んでいた呪いの鎖が、ほんのわずかに緩んだ。


セイの目から、堰を切ったように涙があふれ出した。


「なら……僕は……つ!」


何かを言いかけたセイが、突如として激痛に襲われたように自分の胸を強く押さえた。


「セイ!」


私は咄嗟に彼を支え、その小さな身体を強く抱き寄せた。腕の中のセイは熱があるのでは?と思うほど驚くほど熱い。その心臓は壊れかけの時計のように、ひどく速く、激しく脈打っていた。


「だめ……、胸が、熱いっ。ラグナが苦しんだときと……同じ熱さが、中から……!」


(まさか、灯の血が共鳴しているのか……?)


私の内に渦巻く呪いの残滓と、彼の清浄な血が、互いの存在を認め合い、惹かれ合っている。

灯の血は救うべき対象の痛みに反応し、それを分かち合おうとする性質を持つ。


つまり──。


「セイ、お前……私の痛みを感じて、いるのか?」

「そうなの……?分からない、でも……苦しいのに、すごく温かいんだ……」

「灯の血は……守るべき対象を心に決めたとき、その相手と魂ごと共鳴するようになるんだ」

「そうなんだ……。それなら、そうかも。さっき、倒れたラグナを見て……絶対にラグナを守るって、心から思ったから」


セイのその無垢な言葉が、私の脳内に強烈な衝撃を与えた。

その瞬間、固く閉ざされていた記憶の扉が、ついにその重い閂を弾き飛ばして開いた。


──目の前に広がるのは、白銀の地獄。

雪の森。降り積もる純白を汚す、鮮烈な赤。血に染まったその場所で、小さな少年が泣きながら私を抱きしめていた。


『ラグナ、死なないで……。僕が、灯になるから。だから……生きて……』


その少年の顔は、鼻を赤くし、涙と泥でぐしゃぐしゃだった。

だが、確信がある。あれは、セイだ。

震える声、私に触れる手の温度──すべてが今、腕の中にいるセイと同じだった。


(セイ……お前だったのか……)


私は蘇った凄惨で、けれどあまりに愛おしい光景に息を呑んだ。


(セイは、かつて私を救おうとして……一度、その命を落としたのか?)


伝承によれば、灯の血は代々継承されるものだと聞いている。だが、稀に「特別な縁」を持つ魂は、一度救い損ねた相手と巡り会うために、同じ姿、同じ魂を持って再び現世に降り立つという。

セイはかつて、雪の中で私に命を与え死んでいったあの少年の生まれ変わりなのか。

いや、違う。もっと正確に言うなら、彼の魂そのものが、時を超えて再び私の前に現れてくれたのだ。


(だからセイは、私を覚えていたのか。その魂が私を求めてくれていたのだ)


セイが、苦しげに喘ぎながら私の胸に顔を埋めた。その細い指が、私の服を強く掴む。


「ラグナ……僕、怖いんだ。この血のせいで、ラグナを助けたいと思わされているんだとしたら、そんなの嫌だ。僕は、血の使命なんかじゃなく……僕自身の意思で……あなたのそばにいたい!」


その叫びに応えるように、私はセイをさらに強く、己の体内に取り込むかのように抱きしめた。


「セイ……お前は、お前自身の意志で私の隣に立っている。魂の縁だとか、血の運命など、理由にならん。私は、お前という一人の人間に惹かれているんだ」

「っ……」

「呪いがどうであれ、灯の血がどうであれ、お前と一緒にいたいと願ったのは、他の誰でもない私自身の意志だ。運命に言わされているわけではない」


私の言葉を裏付けるように、セイの瞳から大粒の涙が溢れ、彼は泣き声を上げながら私をぎゅっと抱き返した。


「ラグナ、ラグナ……!」


セイの温もりに触れ、私はようやく気づいた。

長い間死を受け入れ、ただ滅びを待つだけだったこの抜け殻のような身体が、今、初めて「生きたい」と渇望していることに。


そのとき──突如として、洞窟の入り口から肌を削ぐような冷たい風が吹き込んできた。

青い光苔の明滅が激しく乱れ、洞窟の奥深くまで、あの忌々しい男の声がこだました。


「やっと見つけたぞ、ラグナ。随分と睦まじいことだな」


私は反射的にセイを背後に庇い、立ち上がる。


(セイを、絶対に……守り抜く)


もはや、それだけが、この呪われた身体を突き動かす唯一の原動力だった。


「どれほどその人間に縋ろうと無駄だ。呪われた吸血鬼の末路は、例外なくひとつ──『死』という名の永劫の孤独だ」


ランバードが暗闇からゆっくりと姿を現す。その影は洞窟の壁を黒く浸食していった。


「違う。私は死なない。ここで終わるわけにはいかないんだ」

「ほう?かつての最強も、ついには現実が見えなくなったか?」

「私はセイと生きたいと思った。いや、違うな。何があろうと、絶対にセイと生きてみせる」


私の強い言葉に、ランバードは一瞬だけ虚を突かれたように沈黙した。そして肺の奥から絞り出すような笑い声を上げた。


「ハハッ!面白い。ならば証明してみせろ。そこまでその人間が大切だというのなら、その脆弱な腕で、最後まで守り抜けるかどうかをな!」


次の瞬間、洞窟を照らしていた青い光が掻き消え、世界が濃密な闇に染まった。

大気が震え、洞窟全体がランバードの殺気に共鳴して鳴動を始める。


私は背後にいるセイの手を、指が痛むほど強く握りしめた。


「セイ、絶対に離すな」

「うん……っ!」


迫りくる闇の奔流向けて、私は剥き出しの牙を剥いた。


(絶対に守る……。魂が消え失せるその瞬間まで、何があっても)

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