めざすもの
(目覚めたか)
ヴァリシオンはミルディーアの腕の中、目を閉じて感じていた。
ヴァリシオンにとって最愛の少女の目覚めを。
けれどもはや少年にはどうでも良いことだ。
彼の愛したフィリシアはいない。
あの跳ねっ返りで、気が強くて、それでも人をやわらかく包み込む慈愛に満ちた少女はもうこの世に存在しないのだ。
「ミルディーア」
そっと髪を撫でてくれるその指をつかむ。
ほっそりとした指。
冷たいのに、触れられるとどうしてこんなにあたたかな気持ちになるのだろう。
「はい?」
優しい海色の瞳が少年を見つめ返す。
フィリシアではない。
なのにこんなに心が満たされているのはなぜだろう。
「フイォラシアが目覚めた」
ヴァリシオンの言葉に初めは驚き、そして次第に喜びが顔を彩る。
この女を自分はたぶん愛しいのだ。
けれどー。
(俺は敵だ)
ミルディーアが本当に待ち望むのはアルドを手に持ち光の王子の名の下に戦うアイツだ。
ならば自分は今度こそ正面から戦おう。
この手で愛しいと思えるものをつかまえるために、それが結果としてミルディーアを哀しませることになろうとも、
ー俺は俺の道をいく。
知らないうちに拳を握りしめる少年の心をミルディーアには知ることができない。
だからこそ少女は願う。この少年のながいながい片思いの結末が悲しい結果だけで終わらぬように。
いつか誰もが笑いあえるそんな世界がくることをー。




