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剣の理由は

サラブレットが大地を駆ける。


早く早く皆のところへ、そう祈る少年の心に同化して、彼は走る。


速く速くあの炎の場所へ、


「頼む、頑張ってくれ」


トーマは汗を流し乾いた大地を疾走するサラブレットに声をかける。


馬は炎が苦手だ。


前方にひろがる炎の海に、圧倒的な熱に、パニックにならないはずはない。


けれど、サラブレットは駆ける。


彼が敬愛すべき天馬の主とその友のために。


突然、飛んできた斧に首が飛ばされたその時まで。


ーズサッ。


バランスを失い、地面に投げ出されたアルトシオが目にしたもの。


それは少女の首をいまにも切り裂こうとしているオークの姿だった。


赤子を失いアルトシオに石を投げつけた少女は、瞳を恐怖で一杯にしてオークを見上げている。そして、


「やめろっ!」


ースパッ!


まるで大根を切るかのように少女の首がアルトシオの目の前に飛んできた。


ー悪魔の子!


そう彼をなじった少女。


混乱の中、必死に赤子を守っていた少女。 


ただ必死で生きようとしていただけなのにー。


「・・・どうして・・・?」


恐怖でひきつった顔。


涙を浮かべて、絶望に満ちた顔。


だけど手にとるとまだ温かくて・・・


たったいままで生きていて・・・。


(どうしてこんなにも人は無力なんだろう)


きっと笑顔は可愛いかったに違いない。


戦争は少女からなにもかもを奪い去った。


夢も希望も、家族も、


ー生きることすらも。


「ぎゃはははは」


殺戮を楽しむオークの笑い声が戦場にあふれていく。


ただ逃げ惑うしかない無力な人々。


駆けつけた兵士たちの剣ではオークの斧にたちうちできずに新たな命が失われてゆく。


(こんな戦いに意味なんかあるのか?)


もはや憎しみさえわかずに呆然とアルトシオは戦場を見つめた。


ー腰にさげたアルドが重い。


「おいっ!」


いきなり腕をつかまれ引き寄せられた。


その鼻先を斧が音をたてて飛んでゆく。


「馬鹿野郎!戦場でぼーっとしてるんじゃねーよっ」


トーマがアルトシオの頬をひっぱたく。


「王子、ご無事ですか?」


アルトシオを守るように兵士たちにより円陣が組まれた。


(ーえっ?)


いま目の前でなにが起こっているのかアルトシオにはわからない。


トーマに負かされた若い騎士隊長が言った。


「我々の命に代えても貴方様をお守りいたします」


そういうとひとりの兵士が猛然と襲いかかってくるオークに立ち向かう。


そして、新たな血が大地を染めた。


「・・・どうして?」


ひとり、またひとりと兵士たちの命が消えてゆく。


命はたったひとつしかないのに。


かなわないことはわかりきっているのに。


ーどうして彼らは戦うの?


最後の兵士が、隊長がオークに向かう前にアルトシオに向かって笑顔を見せた。


「どうか『光の大陸』をお守り下さい。ファシル・アルド・バードの光の王子」


死にゆく者の最後の勇姿。


彼の命と引き換えにオークの斧がふたつに割れた。


「無理だよ」


アルトシオはつぶやく。


「僕に守られる資格なんかない。僕はみんなに何もしてやれないよっ!」


そう叫んだ少年の顔を、トーマは力いっぱい、拳で殴りつけた。


あまりの衝撃にアルトシオの華奢な身体がふっとぶ。


「トーマ?」


大地色の瞳が怒りに満ちてアルトシオを見つめていた。


「間違うな!あいつらはそんなお前を守るために死んだんじゃない!嘆く前に生きて見ろ!自分の力で挑んでみろっ!」


叫ぶように言った少年の手に剣がある。


「俺はお前を守りぬくぞっ!お前が王子だからじゃない。お前が大切だからだっ!」


トーマは猛然とオークにむかって駆け出した。その後ろ姿に迷いはない。


ー無力は無志故に無力なのだ。


強い意志は時としてアルドさえもうわまわる武器となる。


そして、いつかー。


ー無力は無限へと変わる。


ザンッとオークの分厚い毛皮を破り剣が心臓を捕らえる。


片手をあげる少年の持つ力は、憎しみでも怒りでもなく大切な者を守るための力だ。


人は無力で弱い。


自ら起こした戦いにより人々は苦しみさ迷い、けれど時に誰にも負けない無限の力を手に入れる。


ーそうだね・・・。


人はなんて自分勝手で弱い生き物なんだろう。


憎しみが哀しみを呼び、また新たな哀しみが憎しみつくる。


『光の大陸』と『彼の地』の歴史はその繰り返しだ。


気が弱くて虫さえ殺せなかった聖王ラディオン。


けれど彼はたったひとつのために戦った。


ー僕は守るために剣を抜く!


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