ソータ
ルナ・ムーンの王城に勇ましい声が響いていた。
シルヴァギアを筆頭とする騎士達の訓練である。
その中にはトーマとアルトシオの姿があった。
「王子っ、もっと踏み込まなければ剣が届きませぬぞ」
シルヴァギアはつきっきりでアルトシオの訓練につきあいながらも少年の実力に感心していた。
妖精族に育てられただけあって少年の動きにはまるでむだがない。
まるで背中に羽でも生えてるような身軽さだった。
(これて聖剣を手にしたら)
シルヴァギアなど相手にならないかもしれない。
「いいぞアルトシオっ!やっちまえ」
そんなふたりの実践訓練を野次を飛ばして見ているものがいた。
言わずと知れたトーマだ。
この少年、あっと言う間に騎士達を倒してしまいやることがないのだ。
どうやら彼の死んだ父親はファシル・アルド・バードの兵士だったらしい。
幼少の頃より遊びと称した訓練をうけていた。
その実力は若い騎士隊長を負かしてしまうほどに。
「いけっ!あっ、バカ! そうじゃない」
拳をふりまわして叫ぶ少年の目に見慣れた黒髪が目に入った。そしてー。
「ソータ?」
片足で杖をついた赤毛の少年が立っていた。
「どうしてもあなたとアルトシオ王子に伝えたいことがあるんですって」
サリアラインが少年の肩を抱いて微笑む。
多くの兵士たちに囲まれて緊張した面持ちのソータはトーマの姿に顔をほころばせた。
「トーマ」
「ソータ。お前もう歩けるようになったのか?」
トーマは駆け寄り少年の身体を抱え上げた。
「うんっ。これもー」
ソータの視線がこちらの様子にも気づかずにただひたすらシルヴァギアに挑むアルトシオに向けられる。
「トーマ、僕を王子様にあわせて」
きゆっと唇をむすぶと少年は言った。
ー強く。強くなりたい。
誰にも負けないように、どんなことにもくじけないように。
ーアルドがこの手に輝くように。
アルトシオは剣をふるう。
その気迫にシルヴァギアが押されたその時、
「アルトシオ!」
トーマの声が耳に響く。
振り返ったアルトシオの動きがとまる。
トーマの腕の中にいるのは、彼があの日守れなかった少年。
「・・・ソータ?」
トーマの腕から地面に降りるとソータは彼を見つめた。
強気なまなざしは片足になっても変わらない。
けれどもう二度と両足で大地を踏みしめることはないのだ。
「・・・ごめん」
ーボカッ!
頭をさげたアルトシオの頭を力いっぱいソータが殴る。
「謝るなっ!」
そう叫んだ少年の瞳から涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
「俺は、俺は・・・・」
くしゃくしゃに顔を歪ませた少年はアルトシオにしがみついて泣き出した。
「ありがとう」
声にならない声で訴える。
アルトシオがいなければ自分は生きていなかったと。
「ソータ」
震える幼い肩を抱きしめてアルトシオは思う。
僕はこの子たちに何をしてあげられるだろう。
強き意志を持つ者たち。
未来を担うこの子たちに僕はー、
「それだけを伝えるために彼はここに来たのよ」
サリアラインが微笑む。
「いまキャンプは新しく生まれ変わっているわ。多くの犠牲をだしたけどみんな生きようと必死に頑張ってる」
王女の言葉にこくんとソータが頷いた。
「みんな頑張ってる。そしてみんなアルトシオ王子を待ってる」
「僕を?」
驚く少年にソータは辛そうに唇を噛んだ。
「俺ね、ずっとトーマに言われた言葉を考えてた。俺には沢山の守りたい人達がいる。だけど実際は俺の力はまだちっぽけでトーマや母ちゃんや、アルトシオにだって守られて、いまこの世に暮らしてる。俺はそんな人達に守られて生きてる。けどさ、アルトシオにはそんな人達もいないんだろ?」
黒い瞳が少年に訴える。
(ああ、そうか。だからこの子たちは強いんだ)
あの死んでしまった赤子を腕に抱いた少女も、目の前の少年も、必死で何かを守ってる。
(僕の守りたい人達)
漠然とした思い。だけど、
「僕はいらない」
「えっ?」
「僕のせいで誰かが犠牲になるのはもう沢山だ。僕は誰の手も借りずに戦うよ」
それは静かな意志。
自分が存在するだけで誰かを巻き込んでしまうなら、
ならばそれなりの実力をつけてただひとり『彼の地』に乗り込もう。
「アルトシオーお前・・・」
「なに?あの煙りは」
トーマの声がサリアラインの言葉にかき消される。
はるか前方に黒々とした煙が立ちのぼっている。
そして空高く舞う黒い影はー。
「ヴァリシオンがキャンプを襲っている!」
ソータの悲鳴が響いた。




