魔女の帰還
そこは死の大地だった。
限りなく続く広大な土地に天馬が優雅に降り立つ。
その背中から飛び降りてヒズは言った。
「よってくかい?」
ーブルルッ。
「そうかい残念だね。まああんたはいつでもあいに来れるんだ。よしとするかね。じゃああの子をよろしく頼んだよ」
空高く飛び行く天馬の姿を見送ってヒズは生まれ故郷の森に足を踏み入れた。
ーオカエリナサイ。
ーオカエリナサイ。
木々が揺らめき彼女の帰郷を喜んでくれる。
至福に満ちた大地。
かつて存在していた世界の生き残り。
ーカーン。
ーコーン。
その静かな森に不吉な音が木霊する。
「ええいっあのもーろく爺めがっ」
罵ると魔女は足をはやめた。
森の中にぽつんとある小さな小屋のまえで、
ーカーン。
ーコーン。
小さな影が自分より大きな斧をふりあげている。
その影目がけてヒズは大声を張り上げる。
「なにしてんだいっ!ネルフィス!」
ーカーン。
ーコーン。
相変わらずどこか呑気な音が森に響く。
ヒズは後ろから近づくと思いっきりそのお尻を蹴り上げた。
ープスッ。
尖ったつま先が妖精の柔らかなお尻に突き刺さり、
「ー§☆◎◇◆!」
声にならない声が森中に響き渡った。
「突然帰ってきたと思えばひどいことをしよる」
ベットの上でおしりに薬を塗りながらネルフィスは愚痴る。
「あんたがあまりに馬鹿なことをしているからじゃないか」
「馬鹿ではない。小屋の増築に木は必要じゃろうが」
「アルトシオがいなくなったいま、そんな必要がどこにあるんだい」
「王子はアルトシオだけではない」
ネルフィスの言葉にヒズはため息をつく。
「フン勝手にするがいい。だがね、ヴァリシオンがこの森にきたことをどうして知らせてくれなかったんだい?」
「知らせてどうなる」
「少なくともあの子があんな目をすることはなかったはずだ」
ヒズはいまでもぞっとするよと肩をすぼめる。
「まるであのときのヴァリシオンを見ておるようじゃった」
そしてつぶやく。
「もしもあのときにヴァリシオンにもフィリシアのような存在がおればこんなことにならなかったかもしれん」
誰かが彼を止めたのならー。
けれど、
「すべてが過ぎ去った時のこと」
ネルフィスはつぶやく。
時の神はいまもせつせつと時を刻んでゆく。
その時の流れをただふたりには見守るしかない。
ー古よりずっと。




