表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/45

フィリシア


ー月の乙女は願っている。


いつかこの世に『聖霊界』があらわれることを。


ー月の乙女は嘆いている。


憎しみ合う心を。


ー月の乙女は信じてる。


人は愚かでないことを。


ー月の乙女は祈っている。


争うひとつの魂が傷つけ合う子とがないように。


 そう歌ったのは誰だっだろう?ぼんやりとミルディーアは考える。


ずっと小さなころに聞いた歌は、彼女の身近な人物によって確かに歌われた歌だった。


そしてどうして今頃そんな歌を思い出したのかわからない。


(あんな絵をみてしまったから?)


あれからヴァリシオンは何も言わずに彼女の前から姿を消した。


不愉快な思いをさせた自覚はある。


けれどどうしてもミルディーアにはヴァリシオンが望んでラディオンと戦っているように見えない。


ー疲れきったただの少年。


ミルディーアにはヴァリシオンがそう見える。


一体、過去に何があったのだろう。


(調べてみようかしら)


手にはヴァリシオンから貰った鍵の束がある。


きっとこの中に図書室の鍵も入っているはずだ。


 (この部屋だったかしら?)


いくつもの部屋を過ぎてミルディーアは自身に問いかける。


なにしろこの城には図書室の場所をたずねようにも人がいない。


彼女は何度か間違った部屋を開けていた。


ほとんどの部屋が何もない空き部屋だ。


とりあえず開けて見ることにした。


ーカチャッ。


鍵の一つが扉をあける。


重たいドアを押し開けると、そこには一枚の肖像画があった。


「ーフィー?」


「違う。フィリシアだ」


「キャッ!」


突然の声に飛び上がる。


振り返るとヴァリシオンが立っていた。


「早速、探検か?よほどあの部屋では退屈していたらしな」


「申し訳ありません。ただ図書室を探していたら迷い込んでしまってー」


言い訳をするミルディーアの前にヴァリシオンは椅子をさしだした。


(ー?)


「説明してやろう。この絵の人物を」


言われるままミルディーアは椅子に腰掛ける。


ちょうど絵画の正面に座る形になった。


(本当にフィーにそっくりだわ)


月の光を集めて編み込んだような銀の髪に、深く澄んだ海色の瞳。


それはミルディーアと一緒に成長してきた彼女の半身と同じ・・・。


「フィリシア・アクア・ムーン。それが彼女の名前だ」


「この方がフィリシア様・・・」


「そうだ。俺の想い人だ」


きっぱりと言い切るヴァリシオンの言葉にミルディーアの胸が痛む。


ヴァリシオンの言葉に迷いはない。それだけ深い想い・・・。


「俺に手に入らぬものなどなかった。フィリシアに会うまでは・・・」


ヴァリシオンは静かに笑みを浮かべる。


「フィリシアは賢く聡明で、けれど気が強くわがままだった」


「わがまま?」


「そうだ。伝説は時と共に美化されるもだ。実際のフィリシアは跳ねっ返りで月の女神すらも手をやく乙女だった」


彼女は考える。確かに伝説というものはそうかもしれない。けれど、


「フィーは違います。フィオラシアは優しくどちらかと言えばおとなしい姫です」


「それはフィオラシアだからだ」


ヴァリシオンは言った。


ミルディーアにはその言葉の意味がわからない。


ヴァリシオンは続ける。


「いくら時が過ぎてフィリシアの血を引く乙女が生まれようとも、それはやはりフィリシアじゃない。俺のフィリシアはあの時代に死んでいる」


そう理解するまでに随分と長い時を経てしまった。


静かに少年は言葉を続ける。


「八度目の目覚めはない。俺はもう疲れた。今度こそ決着をつける」


どちらに勝敗が転ぶのかそれは彼にもわからない。


けれど、ふたりの大戦が生み出すもの、それが『聖霊界』であることを疑わなかった。


この世をふたつに分けたのが、ほかの誰でもなく彼自身なら、終結も自分の手でつけるまでだ。


「俺のフィリシアはもう死んでいる」


静かに、ヴァリシオンはつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ