徴兵へ 命の値段
徴兵された難民たちが乗り込む馬車の前でトーマはひとり別の馬車に移された。
「・・・アルトシオ王子とともにいた者だな」
サリアラインとともによく難民キャンプを訪れていた老騎士が言う。
確かシルヴァギアという名前だったはずだ。
「アルトシオは俺の弟だ」
トーマは胸をはってこたえる。
「ー弟?」
「なんか危なっかしいからそういうことにしたんだよ。そんなことより、アイツ大丈夫なのか?おっさん」
「本当にきみは敬語というものをしらないようだな」
顔をしかめながらも老兵はどこか嬉しかった。
最近はこんなふうに元気の良い?若者が少なくなった。
けれどこたえる内容に彼は表情をひきしめる。
「王子様はずっとフィオラシア様の部屋でふさぎこんでらっしゃる。食事もろくにおとりにならない」
「俺、あってもいいかな?」
「ー頼む」
頭をさげるその姿から事態の深刻さが伝わってくる。
(やっぱ無理やりにでも俺と一緒にいさせるべきだったかな)
けれど彼には母の遺体があったし、難民たちの救助にそれどころじゃなかった。
そしてなによりもあの場所にアルトシオの居場所はない。
シルヴァギアは彼を最初に王間に座するサリアラインの所へ案内した。
「よくいらして下さいました。感謝しますトーマ」
いつみてもこの王女は凛としているとトーマは思う。
ヴァリシオンが去った後、惨劇にアルトシオに対する難民の怒りを静めたのもサリアラインだ。
冷静かつ的確な対応は難民たちの感情和らげてアルトシオを保護する王女を非難する者はいなかった。
(俺と同じ年なんだよな?こいつ・・・)
とうていマネできない。
こういうのを生まれの差とでもいうのか。
そんなことを考えるトーマの前で大人びた少女は瞳を曇らせる。
「お母様のことはなんてお詫びをしたらいいのか・・・。我がルナ・ムーンの兵力が及ばぬばかりにあなたには悲しい思いをさせてしまいましたね」
「なに馬鹿なこと言ってんだ王女様。あんたにはもともと俺らに謝る筋合いはないはずたぜ」
「こら王女様になんて口の利き方をするのだ!」
「あっ、悪い。えっと、ですからーあんたーいや、王女様には俺ーじゃなかった。なんていうんだ?私?僕?うげっ気持ち悪ぃ」
顔をしかめるトーマの姿にサリアラインは苦笑する。
ほんとうによく表情が変わる。
まるで幼い弟たちを見ているようだ。
「敬語は必要ないわトーマ。私もそうさせてもらうから」
「そう?それじゃあそうさせてもらうぜ」
ニッと気さくな笑みを浮かべる。
その少年の姿にシルヴァギアはため息をついた。
けれどそっちの方がサリアラインの気も晴れるかもしないと思い直す。
ここ数年、サリアラインには気軽に言葉をかわせる相手がいなかった。
友人にしては少々がさつすぎる気がしないでもないがサリアラインには同年代の気を許せる相手が必要だった。
「つまりはさ、母ちゃんが死んだのはあんたのせいでも俺のせいでも、ましてやアルトシオのせいでも絶対ねえんだ。ぜんぶ空飛ぶ竜なんかに乗ってやがる馬鹿が悪いんだ」
きっぱりと言い切る。その眼差しにこめられるのは強い意志・・・。
「・・・ありがとう。そう言ってくれると救われるわ」
小さくサリアラインは笑った。
(なんだ。笑うとガキっぽいんだ)
意外なところに接点を見いだしてトーマはほっとする。
「そういやあのバカ馬どこ行ったんだ?」
ーバカ馬。
世界ひろしと言えども天馬シリウスをこう呼ぶ人間はトーマだけに違いない。
サリアラインは半ばあきれながら言った。
「天馬は花園にいるけど・・・。あいたいの?」
問いかけにトーマは心の底から首を縦に振った。
「あのバカ馬の野郎ただの馬のくせに俺を殺そうとしやがったんだ。借りはきっちりと返させてもらう」
「天馬は聖馬よ。そんなことをしたら神々の怒りをかうわ」
「天馬だろうが聖馬だろうが関係ないね。馬は人間のために働くもんだ。安心しろよ。俺もともとグリフォスで牧場やってたから馬の調教にはなれてっから」
けらけら笑う。どこからそういう強さがでてくるのだろう。
王女という立場上、道徳観念にしばられるサリアラインにはとうていまねできない芸当だ。
「王女様、案内してよ」
「ええ・・・。でも天馬は誰も近づけようとはしないわよ」
「いいのいいの好都合」
ー好都合?
ニッシシシと笑うトーマの考えは一生つきあってもわからないだろう。
それにー、
「王子様にはあわないの?」
「ん?ああ、まずは馬にあってからだ。見舞いは重病人からのがいいだろ?」
トーマはそう言うと意味深に笑った。




