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生きる権利



 「トーマ!」


テントのひとつから声がする。


ふりかえると小さな手が彼にむかって精一杯ふられていた。


ソータのテントだ。


「ソータ。もう起きても大丈夫なのか?」


「うん!魔女様のおかげだよ」


『彼の地』の魔兵士オークの斧に切り落とされた右足には包帯が以前まかれたままだが、出血はしておらず目の前にいる少年の顔色も悪くない。魔女の治療は完璧だった。


「けど、カナもシンも死んじゃった・・・」


くしゃりと人一倍負けん気の強い少年の顔が歪む。


なぐさめの言葉を頭の中で探していたトーマは続く赤毛の少年の言葉に思わずずっこける。


「トーマも死んじゃうんだ」


「おいおい勝手に殺すなよ」


「だってトーマはあの悪魔の子のところに行くんでしょ?みんな言ってる。悪魔の子のそばにいたら死んじゃうって」


しゃくりあげるソータにトーマはため息をついた。


そういうくだらない噂が難民たちはおろか城の兵士たちのなかでも広まっていることはトーマも知ってる。


実際、このキャンプがヴァリシオンの襲来にあったのもそのせいだと彼も思う。


(けど、な)


トーマはソータの前に膝をつきしゃがみこんで少年と同じ目線でその泣きじゃくる肩に両手をのせた。


ーいつか彼の母親がそうしたようにー。


「いいかソータ。アルトシオは悪魔の子なんかじゃない。決して逃げられないと言われてるオークの斧からお前が右足ひとつ失うだけで助かったのはどうしてだ?身体をはって助けてくれたのは誰だ?本当にアルトシオが悪魔の子ならおまえのことなんか放っといて真っ先ににげるはずだろ?」


「でもリタは・・・」


しゃくりあげて声にならない声で一生懸命に訴える。


(トーマだって大好きなリタを、母ちゃんをなくしてしまったのにどうして・・・・?)


すると大地の瞳の少年は優しく笑って自分の胸を指さした。


「母ちゃんは俺のここで生きている」


「そんなの嘘だっ」


「そうさ嘘かもしれねー。でもな、確かに母ちゃんは俺の記憶の中に生きてる。母ちゃんだけじゃなくカナやシンや親父やなくなっちまったグリフォスも全部、俺のここで生きてるんだ。なぜなら俺はそいつらと一緒にこの世界で生きてきたから」


ソータは泣くのをやめて黙ってトーマの話を聞いていた。


トーマは一体なにを言いたいのだろう?


優しく赤毛を撫でてくれながら彼の尊敬する少年は言葉をつづけた。


「けどな、アルトシオは違う。生まれてすぐにすべてのものをなくしちゃったんだ。優しい手で抱き上げてくれるはずの親も、胸をはって名のれる国も、人間としての生活すらなくしてたったひとりで異種族の森の片隅で暮らしてきたんだ。本当にそんなやつが悪魔の子なのか?」


「だって・・・」


「いいかソータ。戦争で自分の大切なひとをなくしちまった人間はお前だけじゃねえ。それが戦争なんだ。確かにその戦争はアルトシオが生まれたから始まったかもしれない。けどな、間違うな。俺たちの敵はヴァリシオンで『光の大陸』に生きる者はすべて味方なんだ。確かにファシル・アルド・バードは滅んじまっていまはないけど、それなら俺たちのグリフォスだってそうだ。でもここに王族の誰かが生き残っていたらお前はどう思う?グリフォスは滅んだと思うか?」


(死んでしまった王族の誰かが生き残っていたらー?)


きっと国はまたつくれる。


王様はたったひとりでグリフォスという国の象徴なのだから。


王族の誰かが生き残っていたらー


きっと自分は、


「・・・うれしい」


「だろ?」


ソータの応えに満足そうに頷きながらトーマは続けた。


「俺はファシル・アルド・バードの血を半分ひいてるからアルトシオを憎いとは思えない。会うまではきっとみんなと同じように悪魔の子って思うんだろうなって思ってたけど、いざ会っちまったらそんなことどうだってよくなった。ソータや母ちゃんを身体をはって守ろうとしたあいつは確かにファシル・アルド・バードの王子なんだよ」


「・・・・・」


唇をかたく結ぶソータの頭をぽんぽんと叩くとトーマは立ち上がった。


「じゃあな元気で暮らせよ」


ズボンについた埃をはらうとテントの奥にいるソータの母親に手に持っていた荷物を渡した。


そこには七日分のパンとスープが入っている。


彼の命の値段だった。


息子の看病に疲れきっていた母親は涙を流して喜ぶと彼にむかって言った。


「どうか光の王子様を守って下さいトーマ」


少なくても彼女は信じている。


息子を命懸けで助けてくれた光の王子を。


「まかせとけって」


トーマは力強く頷くとキャンプを後にした。

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