リタの感慨
ー決まりだ。
アルトシオの言葉にトーマはリタと視線を 交わし合った。
間違いであって欲しいとの願いは
いとも簡単に崩れ去ってしまった。
それと同時に、なんだか奇妙な感情が心の奥底から染み出してきた。
とうとう同族に、俺は半分しか交じってないけど出会えたんだな。
しかも王子という特大玉手箱のような相手に。
そしてとんでもなく頼りない王子に。
亡き父親が忠誠を貫き通したファン・ファラシス王の忘れ形見に。
ーやっとであえたんだな。
人々が口々に言う悪魔の子に。
(ただこの世に生まれただけで、国を滅ぼした)
馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
なんて言ったって赤子には罪がない。
ただ生まれただけでそんなあだ名をつける人々を馬鹿だとしかトーマは思わない。
実際、現れてみたらこんなぽややんとした奴だ。
こんな奴が悪魔の子のはずがない。
そもそも両親の存在すら知らずに育った奴が
どうして悪魔なんだ?
父親であるファン・ファラシス王は聖王と崇められたのに、
その子供は悪魔の子なんてありえるか?フツー。
悪いのは全部ヴァリシオン率いる『彼の地』なのに。
「ありえねーよな。絶対」
「やっぱりそうだろ。僕がファシル・アルド・バードの王子であるはずがない」
大きく頷くアルトシオにトーマは苦笑した。
「ちげーよ。くやしいけど、お前はファシル・アルド・バードの王子だよ。お前の剣はこの国の眠り姫がもってるさ」
「眠り姫?」
「サリアライン王女様の妹姫様でね。フィリシアの乙女と称される第三王女様のことさ。名前
はフィオラシア様だよ」
「フィリシアの乙女?フィオラシア姫?悪いけど、僕はそんな人達知らないよ」
「お前さっきサリアライン王女を見て知ってる気がしたって言ってなかったか?」
「それはー」
なおも反論を試みようとしたアルトシオにトーマはびっと指をつきさした。
「俺の推理はこうだ。お前は三年前に一度魔の森でフィオラシア姫に逢ってる。その時の記憶は魔の森を出たときの後遺症か、あるいは魔法でわざと消されたかだ。だから見覚えがあったんだろ。姉妹なら似てても不思議はないからな」
トーマはじっとアルトシオの黒い瞳を見つめた。
動揺が隠せずに現れている。
握った拳が小刻みに震えていた。
それはそうだろ。
十五年ぶりに人間界に帰ってみたら滅んだ国の王子なんか言われて、平気な奴の方がどうかしてる。
(古き光の王子、ね)
この子の髪や瞳が息子と同じだったらこれほどぴったりな言葉はないだろうよ。
リタは言葉を交わすトーマとアルトシオを見比べながらぼんやりとそう思った。
はじめて出会ったときからリタはなんて不思議な魅力を称えた子供だろうと思っていた。
そしてそれはそのままの言葉で現れた。この子がアルトシオ。
この子が生まれたせいでファシル・アルド・バードは滅んだ。
そして夫もー。
いや、違う。夫はやるべきことをやっただけだ。
ファン・ファラシス王命の人生だったから最後までおともできて幸せだっただろう。
そして、生まれいでた子は息子のトーマが護る。
(宿命なのかね・・・)
ホーク家の。
夫の家は古き時代より王家につかえてきた一族だ。
息子のトーマもアルトシオにつかえることが生まれながら決まっていたし、なによりも夫は、いやファシル・アルド・バードの民は王子の誕生をよろこんだ。
白魔法という独特の透視能力でサラシアナ王妃の腹の子が男だとわかっていたからだ。
そして、誕生とともに闇王子ヴァリシオンも目覚めた。
アルトシオは伝説の聖王ラディォンの生まれ変わりだ。
息子より華奢な身体。その運命はリタが思うよりずっと重いに違いない。
その運命を思いやった時、ひょっこりとソータが顔をのぞかせた。




