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──あった。
肩を寄せ合うかのように停泊する漁船の中に、ひっそりと男船は存在していた。
お世辞にも真新しいとは言えない年季の入った船体。
無数の錆や傷が、暗に漁の過酷さを物語っている。
掠れた印刷からかろうじて、第七男魂丸の船名を読み取ることができた。
「オラァ!役立たずのフニャチン共、出港する前に日が暮れちまうぞ!」
唐突に、船上から威勢のいい怒声が響き渡ってきた。
男は荷入れをする船員に激を飛ばし、蹴りや拳骨を用いた暴行を加えている。
上背は山峯に劣るものの、頑健な肉体と、野性味を引き立てるかのように蓄えられた髭。
公平に見て、彼がこの船における絶対権力者であることに疑う余地はなかった。
「テメェ等ゴミクズのせいで魚の鱗の一枚分でも漁獲が下がってみろ!碇をケツにブチ込んでグチャグチャになるまで掻き回してプランクトンの餌にしてやる!」
男はそう言って、収容所の看守のように船員の労働具合を見定め、必要と思しき者に制裁を与えて回っていた。
──間違いない。あの男が船長だ。




