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汽笛を上げて、ついに男船は港を離れた。
港には船員の家族や友人が見送りに訪れている。
期間、行き先は丹後船長の気分次第という、恐ろしい船旅が始まった。
甲板では、多くの船員達が慌ただしく各々の持ち場に従事していた。
「海に出たらな、まずはコイツに着替えるんだ」
そう言って牧は、二人に六尺褌を二枚、手渡した。
「ここでの仕事は、とにかく海水を被るから、初めから他に何も着けてない方がいいんだ。洗濯も面倒だしよ」
なるほど、と二人は得心した。
確かに合理的ではある。
二人は着用していたそれぞれの衣服をしまい込み、他の船員達と同様に褌一丁の姿になった。
「次に港に帰るまでは、ずっとこのままだ。失くしたらその後はフルチンのまんまだ。いいな?」
ソイツは御免だな。山峯と佐郷は顔を見合わせ、苦笑する他なかった。
男船で行うのは、主に延縄漁である。仕掛けを投げ入れ、それを回収するというサイクルを交代で繰り返す。
新入りの二人は、釣り上げたマグロを冷凍庫に移動したり、仕掛けの用意を行ったりと、その時々で船員の補助の役割を命じられた。
彼らは牧の計らいによって、一定の敬意を持って船員達に受け入れられていた。
しかしながら、肉体的労働が多くを占め、また睡眠時間の確保も難しい事から、船での生活は過酷を極めた。
「まだまだ楽なモンさ。海が穏やかでさ」
甲板で、釣り上げたマグロの下処理を山峯と行っていた牧は続けた。
「男船ってのは、とにかく誰も寄り付かねぇような危ない所へ向かっちまうのよ」
そう、それが男船での漁が過酷と言われる所以であった。
あの世への定期便、とは誰が言っただろう。
毎回三割程の船員が、命を落とすか再起不能となっている。




