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男船  作者: 秋山善律
26/35

2-10

「ガッハァ!」

 意外にも、最初に脱落したのは佐郷であった。

「へ……何だい……大した事……ねぇな」

 飛距離では他の追随を許さなかった佐郷であるが、耐久力は及ばなかったらしい。限界まで体を追い込んだ顔は紅潮し、肩で息をしている。

「……クソ!山峯、行けるか!?」

 山峯も既に限界を越えており、答える余裕が残されていなかった。

「……おう…」

 かろうじて、振り絞るようにそう答えた。

 固く食いしばった歯からは軋むような音が漏れ、体は小刻みに震えている。

 牧においても同様に限界を迎えていた。

 体中の血管が浮き出、人体の限界を越え始めている彼の鼻腔からは、血が滴り落ちている。

「ウ……オオ……俺が……この船で一番なんだ……」

 牧は己を鼓舞するかのようにそう声を上げた。

「……俺こそが……テッペンだったのに……テメェらさえ現れなければ……」

 極限状態において、牧の正直な心中が吐露されていた。

「……テメェらさえ……ウオオオ!」

 牧は最後の力を振り絞り、ラストスパートに賭けた。

 迫りくるような気迫に、山峯と佐郷は圧倒された。

「………!」

 対象的に、山峯は無我の境地に入っていた。

 己を鼓舞することもなく、ただ、無心で己と闘っている。

「……テッペンが欲しいんだったら、くれてやるさ」

 こともなげに、佐郷がそう呟いた。

「俺たちは誰が上か下かなんて興味がない。ただ、目指してるのさ。ホンモノの男って奴を」

 それは、これまで激しい縦社会を生き抜いてきた牧に取って、青天の霹靂であった。

 ──テッペンが……いらねえ……だと?

 今まさに己と雌雄を決している山峯を向き治る。

 ──だからコイツらはこんなにも強えのか……?目の前の相手だけじゃなく……もっとデケェものを視てるから……

 腕っぷしと、男気だけで生きてきた牧にとって、権力は己の全てであった。

 しかしながら、今まさに自分を追い詰めているこの男達は、そんなものに全く価値を見出していないのだという。

「……へ……なあ、それ……俺も…目指して……いいのか?」

 山峯は顔の向きを変えず、しかしながら力強く首を縦に振り、肯定の意志を示した。

 ──牧のビールケースが地面に落とされた。

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