2-10
「ガッハァ!」
意外にも、最初に脱落したのは佐郷であった。
「へ……何だい……大した事……ねぇな」
飛距離では他の追随を許さなかった佐郷であるが、耐久力は及ばなかったらしい。限界まで体を追い込んだ顔は紅潮し、肩で息をしている。
「……クソ!山峯、行けるか!?」
山峯も既に限界を越えており、答える余裕が残されていなかった。
「……おう…」
かろうじて、振り絞るようにそう答えた。
固く食いしばった歯からは軋むような音が漏れ、体は小刻みに震えている。
牧においても同様に限界を迎えていた。
体中の血管が浮き出、人体の限界を越え始めている彼の鼻腔からは、血が滴り落ちている。
「ウ……オオ……俺が……この船で一番なんだ……」
牧は己を鼓舞するかのようにそう声を上げた。
「……俺こそが……テッペンだったのに……テメェらさえ現れなければ……」
極限状態において、牧の正直な心中が吐露されていた。
「……テメェらさえ……ウオオオ!」
牧は最後の力を振り絞り、ラストスパートに賭けた。
迫りくるような気迫に、山峯と佐郷は圧倒された。
「………!」
対象的に、山峯は無我の境地に入っていた。
己を鼓舞することもなく、ただ、無心で己と闘っている。
「……テッペンが欲しいんだったら、くれてやるさ」
こともなげに、佐郷がそう呟いた。
「俺たちは誰が上か下かなんて興味がない。ただ、目指してるのさ。ホンモノの男って奴を」
それは、これまで激しい縦社会を生き抜いてきた牧に取って、青天の霹靂であった。
──テッペンが……いらねえ……だと?
今まさに己と雌雄を決している山峯を向き治る。
──だからコイツらはこんなにも強えのか……?目の前の相手だけじゃなく……もっとデケェものを視てるから……
腕っぷしと、男気だけで生きてきた牧にとって、権力は己の全てであった。
しかしながら、今まさに自分を追い詰めているこの男達は、そんなものに全く価値を見出していないのだという。
「……へ……なあ、それ……俺も…目指して……いいのか?」
山峯は顔の向きを変えず、しかしながら力強く首を縦に振り、肯定の意志を示した。
──牧のビールケースが地面に落とされた。




