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男船  作者: 秋山善律
20/35

2-4

「一光ーーー!!主じゃ!主が現れよったぞー!!」

 今まさに大海に振り落とされんと必死に船体にしがみついていた一光は、操舵室から現れた父の異様な姿を目にした。

 先程から続いている衝撃に加え、時折目にする巨大な魚影を目の当たりにした一光は、ある一つの予兆を感じていたが、父の姿を見た瞬間、それは確信に変わった。

「親父ーー!!やめろー!このままじゃ皆死んじまう!!」

 父の野望よりも、父と、船員の命を優先したい一光は、生存の可能性探るべく父を説き伏せようと試みた。

「ガハハハ!!俺が主の首を取っちゃる!」

 しかしながら、実に息子の声は届いていないようであった。

 思えば、この時実は既に正気を失っていたのかも知れない。

 実は操舵室の外から竿を勢いよく振りかぶり、糸を海に投げ落とした。

 嵐で脈打つ荒波のせいで、どの位置に仕掛けたのかも把握できない。

「親父ーー!!」

 あらんばかりの大声で、父親を引き戻そうとする一光であったが、彼もこの天候で自分の身を守るので精一杯であった。

 ──かかりやがった!

 存外に早く、実は獲物が針に食らいつく感触を得た。

 それは、引っかかったというよりは、まるで勝負を受けると言わんばかりに、あえて土俵に上がりこんで来たかのような印象を受ける。

「……うお……りゃ……グギギ……ガガ」

 両手を頭に回し、股間に装着した竿で決死の力比べを行う実。

 己の限界を超えんばかりに食いしばった歯と、鼻腔からは血が滴っている。

 やがて、あろうことか推定1tはあろうかという怪物魚の体躯が、少しづつ引き寄せられていく。

「うおお!やったぞ!この俺がこの化け物を釣り上げてやる」

 一光も、今まさに生死の境をさまよっていた。

 船体を掴んだ片腕が振り解けたら、彼は海に投げ出されてしまう。

 そんな中、彼は己の身よりも父の身を案じていた。

「親父ーー!!」

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