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一光が二十歳を迎えた頃、彼の人生に大きな影を落とすこととなる事件が訪れた。
それは、何度目の漁であっただろうか。
あまりに急激な天候の変化に、船は座標を失い、荒波に翻弄されていた。
この頃、実は現場を退いており、船頭としての役割に専念していた。
また、男船においても時代の波に押され、近代的延縄漁を取り入れ始めている最中であった。
船員の何名かは甲板から海に放り出され、生存を絶望視されている。
男船においては中堅の域に入っていた一光さえも、自分が振り落とされないよう苦心するので精一杯だ。
実は、破損した操舵室の窓から全身に雨水と海水を受けながら、ひたすらに自らの座標を見つけるために海図と格闘している。
──こりゃあ、ちょっとマズイかも知れんな……。
実と、彼の部下たちにとっては、天候や海の荒れなど数ある修羅場の内の一つであったが、今回ばかりは生存を諦めざるを得ない状況である。
彼には、息子と船員の行く末以外にも一つの気がかりがあった。
それは、夜の宿場で真しなやかに語られる漁師の夢物語。
曰く、その海域には全長9m、重さ1tを越える怪物のようなマグロが生息しているという……。
近隣の漁師は、畏敬を持ってそのマグロを海の主と呼んで崇めていた。
実は、それを実際に目撃したという父から寝物語として聞かされ育っており、彼の手で海の主を仕留めることを、男子一生の夢と掲げていた。




