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丹後一光は、この街においては典型的な漁師の家に生を受けた。
物心がついた頃より、父に連れ添って漁に出掛けており、海の上は彼にとっては特別な環境ではなかった。
父である丹後実は、周辺では一番の腕利きの漁師であることが知られていた。
この地方では、陰茎に特殊な筒を装着して釣竿を固定し、指先からは得られない微妙な感度の違いでマグロを補足して、文字通り竿の力で一本釣りを行う伝統的漁法が伝わっていた。
丹後実は、周囲の漁船が次々と近代的延縄漁に移行する中、頑なにこの伝統的漁法を守り抜いた。
一光は、そうした一本気な父親の背中に憧れて成長しており、地元の小学校を卒業したあとは当然のように、父の漁船の船員となった。
過酷なマグロ漁業において、一光は父である実を唸らせる程の才能を、幼き頃より覗かせていた。




