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丹後に促された船員達は、再び慌ただしく作業に戻っていった。
山峯、佐郷もその中の二人ではあったが、気持ちはざわめき立っているままである。
「……それにしても……23.8mとはな……」
佐郷の心中を察してか、山峯はそう切り出した。
「一体どうすりゃそんな記録が産まれるんだ……」
佐郷は葛藤しているようだった。
なまじ腕に覚えのあったせいもあり、初めて突きつけられた圧倒的な敗北に戸惑いを隠せないでいる。
「分からねぇ……俺にすりゃお前の記録にも敵わねぇ訳だからな……」
そう、自嘲するように山峯が答えると、佐郷は言った。
「いや、お前のズリを見た限り、俺とお前にそこまでの差はないと思っている。いくつかのフォームの修整を加えるだけで、グッと飛距離は伸びるはずだ」
佐郷は続けた。
「丹後のオッサンは言った。男を磨け……とな。今はまだどうすりゃあのオッサンに近づけるか分からねぇ。だが、俺と同じ実力のライバルと切磋琢磨していれば……いずれは背中くらい見えてくるんじゃないか……と俺は考えている」
佐郷は、己の正直な心中を吐露した。
「佐郷……お前……」
山峯にもその想いは伝わってきた。
佐郷の覚悟を受け止めた山峯は、答えた。
「俺は誰とも馴れ合うつもりはない……だが、ライバルってとこは気に入った」
そう答えてスッと拳を付き出す。
「俺にとってはお前も越えなきゃならねぇ壁の一つだからな?寝首かかれねぇよう用心しとけよ」
それを聞いた佐郷は、不敵な微笑を浮かべ、己の拳を山峯のそれに突き合わせた。
「お前こそ。俺の踏み台になる覚悟を忘れるなよ」
なんとも奇妙な、男達の共同戦線がここに今生まれたのであった。
第一章 完




