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しばらくその場に腰を落ち着け、取り出したタバコに火を付け一服していると、一人の男が近付いてきた。
「へへ、あぁさん、ここは初めてかえ?」
初老の男だった。縮れた頭髪は脂ぎっており、汚れた歯の何本かは失われている。
「……そうだ」
山峯はこともなげに答えた。
男は掠れた声で話を続ける。
「俺はタツってもんだ、よろしくな」
そう言って右手を差し出してきた。
特に同僚と慣れ合う習慣など持ち合わせていない山峯であったが、船員同士の連携が必要になる場面もある。
わざわざ無下にすることもあるまいと、右手を握り返そうとした時、ある事に気付いた。
「あんた……そう言えば今さっき……」
そう、山峯が今しがた目撃した、自慰行為を行っていた男だ。
反射的に右手を引っ込める山峯。
「おっと、悪い悪い……へっへっへ」
そう言って、悪びれる風でもなく、ズボンで手を拭うタツと名乗る男。
「この船じゃあ、一度出港すりゃそっからは一日二時間も眠れりゃいい所さ。へんずりなんかこくヒマもありゃしねえ……」
そう言って、手に持っていた所々変色した雑誌を渡してきた。
一体いつから存在しているのだろう。自分が産まれる前ほどから活動していたような女優のピンナップ、ページ同士は当然のように所々が張り付いており、年季の入りようを主張している。
「あぁさんも、出せるときに出しときなよ」
そう言い残して、へへへと下卑た笑い声を上げながらさっていった。
山峯は大きなお世話だと雑誌を突き変えそうとしたが、既に彼の姿は消えていた。




