2話 くつとばし
さくらちゃんとのおままごとと言うタスクを完了した徹は、担任の先生と一緒に教室に戻っていた。
(やっべぇぞ、俺の担任めっちゃ可愛いんだけど! しかも手まで握っちゃってるよ!いいの?これ犯罪じゃない?………否、俺は今園児だ。大丈夫逮捕されない………グヘヘヘへ〜)
鼻の下を最大まで伸ばし、そんなスケベ顔をしていると、前方を遮る影があった。
「おーい、とおる〜。ブランコしよーぜ」
(誰だ、俺と担任ちゃんの××タイムを邪魔したク○ガキは!)
名札を確認する。そこには太い文字で『ゆうた』と書かれていた。
徹は某・名探偵風に低音ボイスで答えた。
「ったく、しゃーねーな」
そのままグラウンドへ駆け出すと、ゆうたがルールを説明し始めた。
「じゃあー、くつをとおくに飛ばしたほうがー、かちね」
(まあ子ども相手に本気出さずとも勝てるだろう。だって俺、中身30歳だし)
「じゃあいくよー。せーのっ、、、」
――結果。三十路、5歳児に敗北。
「いーまーのーなーしー!れんしゅうだもん!だって俺、靴飛ばしなんて…グスン…はじめてだし………」
徹は極度の負けず嫌いだった。勝ちたすぎるあまり、自分が30歳だというプライドすら忘れていた。
「もう、しょうがないな~。もう1回だけだよ」
ゆうた君は優しかった。それはもう、聖母マリアのようだった。
(さっきは舐めプしたが、次は本気で行かせてもらうぜ。この風向き……斜め58度の角度で蹴り上げるときが一番飛ぶ。この勝負もらった!)
――結果。三十路、やっぱり敗北!!
徹はガックリと膝をつき、ゆうた君に両手を差し出した。自分が今は園児だということも忘れ、前世のビジネスマンの顔になっていた。
「ゆうたさん。師匠と呼ばせてください」
「おれ……ししょう? よりも『ぶちょー』のほうがいいな! パパとおんなじでカッコイイ!」
「じゃあ、ゆうた部長………グハッ!?」
『部長』という禁句を口にした瞬間、前世の記憶が脳内ビデオで強制再生された。
泥のように働いた日々。何度も理不尽に頼まれてきたサービス残業の山――。
ドサッ……。
「え!とおる?おーい、どおしたの? せんせー!とおるがへ〜ん!」
徹はフラッシュバックの精神的ダメージにより、強烈な睡麻に襲われていた。大人の肉体なら耐えられたかもしれない。だが、今の幼い身体では『気合い』が効かなかったのだ。
その後数日間、彼が園児たちの間で『しらゆき君』と呼ばれるようになったのは、また別のお話。




