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タジ 〜後宮娼婦の事件簿〜  作者: 辺理可付加
リビング・メッセージ
75/93

13.

「うーん、『血で書いた雀』『血で書いた雀』」


 その後、昼食までの時間。

 小鳥たちが何をしていたかと言えば、


「和(フー)。

『全帯么(チャンタイヤオ)』『和絶張(フーチェチャン)』『門風刻(メンフォンク)』『喜相逢(シーシャンフォン)』『老少副(ラオシャオフー)』『缺一門(チェイーメン)』『単釣将(タンティヤオチャン)』『自摸(ツモ)』

 15点」


 大広間での麻雀である。


 今のは郭妃があがったところ。

 他にもあちこちから、牌の音やプレー上必要な宣言が聞こえてくる。


「こんなこと言っちゃいけないのかもしれませんがね。

 遊んでていいのか?」


 西家(シーチャ)の席に座る飛燕がボソボソと溢す。

 不満というより不安だろうか。


 当然の反応ではあろう。

 彼は皇帝直々の命令で捜査に来ているのだ。

 それが遊んでいると知れたら。


 しかし、


「いいんじゃない? 別に」

「殺人事件があったんだぞ? そんな場合かよ」


 小鳥が終わった局の手牌を崩さず眺めている。

 どうやらいい手が組み上がっていたところで先を越されたらしい。


 と、いかにも片手間の適当な相槌感もあるが。


 事実としてこの麻雀大会。

 昨日の時点で娯楽ではなく、相互監視として開催されたのだ。

 一概に


『ただ遊んでいる』


 と切り捨てることもできない。


「ま、いち衛尉官が妃嬪と同じ卓に着く、って方が問題かもな」

「そりゃないですよ! 引き込んどいて!」


 洗牌しながら笑う郭妃に、飛燕が腰を浮かせる。


 実際、相互監視はいいとして。

 参加する意味はない彼が麻雀を打っているのは、



『私と喜二娘は少し外します。

 代わりに侍女たちが室内を周回しておりますれば。

 何かありましたら、遠慮なくお申し付けくださいませ』



 昨日この卓の4人目だった欧陽貴妃がいないからである。

 早速相互監視が崩れているじゃないか、というのはさておき。


 三人麻雀(三麻)というルールもあるが、初心者(小鳥)にはや(・)や(・)こ(・)し(・)い(・)。


 というわけで、


「侍女さんに頼みゃいいのに」

「お仕事の邪魔しちゃダメよ」

「オレも仕事中なんだって」


 飛燕が代打ちに引きずり込まれたのだ。


 ブツクサ言いながら山を組み上げる飛燕。

 彼にとっては都合以前に居心地が悪い状況だが、



(いてくれるなら、それに越したことはないか)



 逆に好ましく捉えている人物がいる。


 于妃である。


 別に『三麻になるところ、面子が揃ってありがたい』とかいうのではない。



(マヌケそうな感は拭えないが。

 それでも


『血で書いた雀』


 の意味にたどり着いた男だ。



 この男も『教育』しておいた方が得かもしれない)



「しかし、気マズいに決まっているね」

「あっ、いえ」


 飛燕はどういう組み立てで行くか配牌に集中していたところ。

 急に面識のない于妃から話し掛けられ、背筋が伸びる。


「当初の予定どおり、紅葉狩りの時間でもあればな。

 自由散策なら、君もこうはならなかったろうに」

「っても今はまだ青紅葉ですよね」


(食い付いたな)


 正直『畏れ多い』とかで


『あっ、はい』

『……ッスー』


 しか会話してくれなかったら、メンドくさいところだった。

 これ幸い、于妃は話を誘導する。


「青紅葉もいいものだよ。

 私たちは屋敷を出られないが、君は暇があったら行ってみるといい。


 特に南へ山を登っていくと、清碧湖(チンビィフー)という湖があってね。

 湖面に紅葉が映って、名のとおりに染まるのは一見の価値が……」


 とまで、早口なくらいにセールスしておいて、


「……于妃さま?」

「そうか、ここは南に湖があるのか」


 意味深に止める。牌を捨てる手も。


「それがどうかしたんスか?」


 食い付いた飛燕に答えたのは、



「『蔵風聚水(ぞうふうじゅすい)』だな」



 郭妃であった。

 すると、


「あー、それ習った! 風水の


『よい都や建てものを造るときの条件』


 みたいなヤツでしょ!?」


 小鳥が人差し指を立てる。


「そんなんあるの」

「うん。


『背山臨水(はいざんりんすい)』とも言ってね?


『前方に水』『後方に山』『左右に砂』


 この『砂』っていうのは後ろのより低めの山ね?

 これが揃っている地形が、


『風を蔵(たくわ)え水を聚(あつ)める』


 として、都を建てるのに最適とされているの」


「へぇー」


 意外や意外、


(ほう。この娘、正直侮っていたが。

 なかなか『少女』なりの知識と教育があるじゃないか)


 于妃のリード抜きで話が進んでいく。


(そこまでの知識があるなら、あとは勝手にたどり着くだろうさ)


 普段会えないこともあるのだろう。

 小鳥は指を振りながらノリノリで話す。


「で、それぞれには『神獣が住まう』とされているの」

「珍獣(ヂェンショウ)?」

「神獣(シェンショウ)」


(妹の知能指数が上がると兄は落ちるの、やめてくれないかな)


 于妃の不満はさておき。

 話の腰を折られるも、小鳥は気を取りなおして続ける。

 ルンルンと拍子を取る指が


「『山』には『玄武(げんぶ)』、『砂』は左が『青龍(せいりゅう)』、右が『白虎(びゃっこ)』で、前方の『水』に


 水に……」


 止まる。


「小鳥?」

「……そうだ」

「え?」



「そうだっ! 『朱雀(すざく)』だーっ!」



 かと思えば、卓に手をついて勢いよく立ち上がる。


「小鳥っ!?」


 飛燕だけでなく、郭妃も呆気に取られているし、


「なになに?」

「びっくりしたぁ」

「誰? 急に大きい声出して」

「88点役でもあがった?」


 他の席の妃嬪たちもザワついている。


「お、おい、小鳥! 急になんなんだよ!?」


 妃嬪たちの集中が集まってしまい、慣れていない飛燕がコソコソ注意する。

 しかし彼女はお構いなし。



「朱雀だよお兄!」


「何が!」



「『血で書かれた雀』の正体!」



「はえ?」


 小鳥はひと息つくように椅子へ座りなおす。


「お兄が言ったんだよ?


『墨と血の違い』


 で、


『色が赤いとかじゃないのか』


 って」

「あ、あー。


 あ、そうか! だから『朱雀』か!」


 これには先ほどまで抑える側だった飛燕も声を上げる。

 郭妃が各方面の卓に向かって、


『すいませんね、へへ』


 とジェスチャーをしている。



 そんな騒がしい卓にて。


 ただひとり、静かに手配を眺めているのが于妃である。

 なお、



(いよおおおおおし! いいぞいいぞいいぞ!

 あともうひと息! えらいっ! 天才!

 いい子いい子いい子! あとでお菓子あげるぞっっっ!!)



 心の中は一番うるさい。











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