10.
「このように、アガリの形は基本的に
『同じ牌ふたつを並べた対子』
が1と、
『同じ種類の数牌3つで、書かれた数が繋がっている順子』
か
『同じ牌を3つ集めた刻子』
あるいは
『4つ集めた槓子』
が4の組み合わせで構成される」
あれから。
幸いにして、名前に『一』やら『索』やら含まれているメンバーはいなかったが。
不幸にも
「じゃあその雀牌が使われている、朝中出身者が犯人だ!」
と小鳥が言い出したらば。
朝夏中から人を集めたのが後宮の妃嬪たちである。
しかも朝中一帯は大河が流れており、古来から人が栄えてきた土地。
後世の話になるが、世界有数の貿易港となり、租界ができた地域もある。
ここには金持ち、家格の高い人々、金に物を言わせて囲った美人が集まり、
彼女らが産んだ、美しい娘たちも大勢いる。
結果、
「……多くない?」
「多いな」
「これ、犯人を指名する暗号として機能」
「しないな」
「……」
「……」
『朝中出身者もいる』
どころか、
『妃嬪の半数以上が朝中出身者』
という事態に。
独自デザインの牌ができるほどである。
元より麻雀愛好家が多い土地なのかもしれない。
そこの人類文化学はいいとして。
結果、小鳥と郭妃は一度捜査を休憩することに。
結果、今こうして、于妃のターンが回ってきているのだ。
「さらにその中で特定の組み合わせ、『役』を作る」
「うわ、複雑だ」
「役自体はそうでもない。これも一部例外を除けば、
『同じ数字の組み合わせを集める』
とか、
『特定の牌だけ・特定の牌抜きで固める』
とか。同じパターンのものが多いから」
「へぇー」
小鳥の返事はどこか生返事。
話を聞いていない、というより
「でも例外がある」
「それはそう」
別のことが頭に引っ掛かっている様子である。
(いいぞ、食い付いたな)
それが于妃には都合がいい。
「それに、役にはそれぞれ点数が付けられていてね。
その合計が8点を超えないと、あがることはできないんだ」
「えぇ〜?」
「覚えれば簡単だけど、覚えるまでは手間かもしれないな。
だから最初のうちは、これを見ながら打つといい」
于妃は小鳥に、用意していた紙を渡す。
「役と得点の一覧表だ」
用意といっても、麻雀セットに同封されているものだが。
「点数の低い順に載っている。難易度も大体比例しているよ。
逆に後ろに行けば行くほど、高火力だが滅多に揃わない。
もはや麻雀の奥義。
浪漫と呼べる代物だ」
「へぇ〜」
なんて説明をしてやれば。
相手は子ども。
しかもお淑やかな少女かと言われれば、よく言えば活発。
悪い言い方、でもないが。
言い換えれば男子の方に思考回路が近そうなくらいの子である。
当然、
「は、88点役!?」
小鳥は一気にページを捲り、声を上げる。
「そうとも」
少女は
『子どもが見てはいけないものを見ました』
とでも言うかのように、一覧表をそっと閉じる。
「確か、あがるのに必要なのは『合計8点』だったよね?」
「いかにも」
計画とは関係なく、初心者に教えるときはこの瞬間が一番おもしろい。
于妃がニヤリと返せば、小鳥はまた一覧表を開く。
「こんなの一発じゃん! チマチマ1点役8つ並べるのがアホらしいよ!」
「そりゃ、それはそれで難易度高いしな」
郭妃は苦笑いだが。
しかし彼女のコメントはどうでもいい。
郭妃も一応推理に参加はしているようだが、メインはやはり小鳥。
(落とすならこの娘!
好機だ! たたみ掛けさせてもらう!)
バトル漫画みたいなセリフを胸に、于妃は88点役たちを指でなぞる。
「これぞ綺羅星のごとき麻雀の醍醐味たち。
堅実に積み重ねるのが麻雀の真髄だが、誰もが夢見る覇者の一手。
決まれば総得点で負けようとも気分は内容勝ち」
「おおおっほおぉ〜!!」
小鳥の目はキラッキラ。
もうひと押しであろう。
実際、他にも出さねばならないヒントはある。
が、なんといっても最大の山がここ。
ここさえ越えれば、
『ミスリードへリードする』
とかいう、バカみたいな入れ子構造の大部分を消化できるのだ!
なので、
「なかでも私のオススメ、麻雀といえばこれ。
東、南、西、北、風牌をそれぞれ刻子で揃える……」
「いや、『麻雀といえばの役』ったら、やっぱ『十三么』だろ。
絵面も綺麗だし、覚えやすい」
「いえいえ、『国士無双』は基本の『四面子一雀頭』から外れていますわ。
初心者に勧めるものでもないかと。
ここはやはり、より覚えやすく難易度も低い『大三元』を」
(うるせえええええ知らねえええええええ!!!!)
なので、郭妃に欧陽貴妃。外野どもは口を出さないでほしい。
その後于妃たちは、
「では最低限の規則も覚えたことだし。
とりあえずやってみよう。
麻雀は座学で苦しむものじゃない。やって楽しむものだ」
「待ってました!」
普通に麻雀の遊戯に終始した。
前述のように、小鳥へ出すヒントはまだある。
しかし、
(まぁ、一気に叩き込むものでもないだろう。
私も麻雀は1歩ずつ覚えたものだ)
相手は子どもである。
与えたつもりの鍵が、情報の洪水で欠落するかもしれない。
逆に、適確にキャッチできたとしても。
さらに勘がよければ、
『次から次へと適確な水を向けてくるこの女はなんだ?』
『全部知っているんじゃないのか。怪しいぞ』
という方向へも進みかねない。
よって『本日はここまで』とするのが、ちょうどいいペース配分。
そう考えたのだ。
ただ。
(あぁ。愛好会に行かなくなって、しばらく離れていたが)
牌の独特の手触りと重み。
洗牌や打牌の音や手応え。
自らの手牌や相手の捨て牌から最適解を導き出す、頭がフル回転する感覚。
(やはり私には、これが必要だ)
久しぶりの麻雀は、興奮で血液が逆流しそうなほど。
余計なことはあと回し、純粋に楽しみたかったというのもある。
しかし一番の理由はもちろん、
単純にアホどもをミスリードするのに疲れたからである。




