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タジ 〜後宮娼婦の事件簿〜  作者: 辺理可付加
リビング・メッセージ
71/94

9.

 かくして大広間。


 いくつもの麻雀卓が並び、人で埋まっているのは壮観である。

 いや、字面だけならただの雀荘であるが、何しろ上級国民の別荘。


 場末のラブホテルと半アミューズメントパーク化したラブホテルくらいの差、

 はさすがに例えが悪すぎるか。



 とにかく、ただ麻雀を打つだけにしてはラグジュアリー極まる空間なのだが。


 卓に着く人々の顔は暗い。


 緊張しているのではない。

 集まっているのは妃嬪や後宮務めの侍女たち。

『柱1本で庶民の年収』みたいな空間とて、今更気後(きおく)れすることはない。


 ではなぜかと言われれば、当然



(((((こんなときに、殺人鬼もいるメンツで麻雀なんか打っていられるか!!)))))



 これしかない。

 誰も楽しくないし、嫌に決まっている。



 しかしご説明したとおり。

 現に人は集まっている。

 熱発したタジ以外は全員がこの場にいる。


 于妃の説得があったからである。






『とりあえず予定どおり、麻雀大会(特に優勝者とかはない)を開催しよう』


 と発表した際。

 前述の心の声は、実際に反論として口頭に上った。


 それを于妃が粛々と切り返したのである。



『ならばむしろ、やるべきではないのか』


『犯人の狙いが、何も邱妃ひとりと決まったわけではない』

『その場合、個々バラバラでいるのはよくない』


『邱妃は個室で殺害されていた』

『単独行動は狙い目になる』

『あるいは、あなたの相部屋が殺人鬼かもしれないぞ』


『だから麻雀大会をした方がいい』

『ひとつの空間に全員を集めて、相互監視すれば安全が確保される』



 内容の正しさや説得力以上に、妃嬪たちは恐慌状態になっている。

 ゆえに自身で何か考えることはできず、何より


『自分で判断する』

『それが結果、つまりは自身や他人の生死を分けるかもしれない』


 というプレッシャーに耐えかねて。

 于妃のそれらしい言葉に乗っかることとなった。


(まぁ、麻雀をする、『飛少女に見せる』だけなら、4人もいれば可能だったがな)


 于妃も必死である。

 そりゃ当然。犯人なのだから。






 という経緯で、麻雀大会がスタートした。


 しかし、前述のとおり空気は重苦しく、会話もない。


 ひたすら洗牌(シーパイ)*の音が響く。 *牌を混ぜる、トランプでいうシャッフル。

 ややあっても摸打(モウター)*に切り替わるだけ。 *山から牌を取り、手牌から1枚捨てる。

 副露(フーロ)*の宣言もボソボソと小さい。 *条件によって他人の捨て牌をもらえる。


 麻雀には『地獄単騎』なる『待ち』の形があるのだが。

 真の地獄*はここであろう。 *『地獄麻雀』だとポルノ映g


 全員競技に集中している、ということにしておこう。



 そんな雰囲気の中で。


 ひとつだけ、会話が盛り上がっている卓がある。


「では基本的なことから覚えていこうか」

「お願いしまーす」


 于妃、小鳥、郭妃、欧陽貴妃の卓である。

 競技には参加していないが、喜二娘も貴妃の後ろに控えている。


 ここだけはゲームではなく『よく分かる! わくわく麻雀初心者講座☆』。

 集中してピリピリ競うこともないし、会話しないと始まらない。


「まずは牌の種類から覚えよう」


 先生役は于妃が務める。

 買って出ると郭妃も譲ってくれた。


 イカサマ抜きにしても純粋な雀力は于妃の方が高い。

 適任と判断したのだろう。


 イカサマといえば、もし邱妃がいたら


『あら? 初心者にイカサマから教えるつもり?』


 とかグチャグチャ口を挟んできただろう。


(殺しておいて大正解だ)


 于妃の偽らざる本音

 というか、彼女は彼女でどこか、倫理観がズレているのだろう。

 邱妃みたいな物言いになるが、イカサマや殺人をする人間なのだから。


「まず牌には大別して、


『数牌(シューパイ)』

『字牌(ツーパイ)』

『花牌(ファパイ)』


 の3種類がある」


 ではなぜそんな人間が、わざわざ麻雀教室の講師を買って出たのか。

 せめて社会貢献して罪滅ぼし、などではない。


「そうだな、数牌はさらに種類が分かれるし、花牌は処理が特殊だし。


 ここは字牌から解説しよう」


 于妃の目が、容器に収められた牌の列をなぞる。



 東(トン)、南(ナン)、西(シー)、北(ペイ)、白板(パイパン)、緑發(リューファー)、紅中(ホンチュン)



(お嬢さん。『雀の字』から麻雀にたどり着いたのは賞賛に値する。

『麻将(マーチァン)』呼びする人の方が多いしな。


 しかし、だからこそ、ここから先は麻雀の知識がなければ進めない。

 あるいはタジ相手なら、その心配もなかっただろう。


 だが)


 当の小鳥は、ほへーっと牌を眺めている。



(知らぬとあらば、手ずから導くしかない!



 なぁに、それはそれで都合がいい。

 私の描いた絵図をなぞるべく、都合よく育てられるというもの!)


 イレギュラーが起きたら修正すればいい。

 かつ、何事も自然に展開するのを見守るより、自分でやった方が確実。


 それだけのことである。何も心配はいらない。


「これらは順番に、東、南、西、北……」


「あ、見て見て郭妃さま。この牌、魚描いてある」

「お、ホントじゃん」


「聞いて」


「そういえば、聞いたことがある」

「知っているのか郭妃さま!」

「こっちじゃ一索(イースオ)は魚が定番だけど。

 朝中*あたりじゃ、


 鳥が一般的なんだと」


 *朝夏の国土において東部、緯度が真ん中あたりの地域。


「鳥!」

「しかもその鳥な?



 雀や孔雀が多いらしいぞ?」



「雀!」


「待って」


「じゃあ犯人は、


『一か索が名前に含まれている人』


 だ!」




(違あああああう!!!!!!)




 于妃はあと少しで、声を上げるか頭を抱えるかするところだった。


(確かにその筋は見落としていたけど! 私が言いたいのはソレじゃない!

 というか、せっかく複雑な暗号を作ったんだぞ!

 安直にゴールせんでもらいたいんだが!?)


「あるいは竹(ヂウー)さん! なんか図柄が竹っぽい!」


(があああああ!!)



 やはり、心配しかない。


 失敗しかない?











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