9.
かくして大広間。
いくつもの麻雀卓が並び、人で埋まっているのは壮観である。
いや、字面だけならただの雀荘であるが、何しろ上級国民の別荘。
場末のラブホテルと半アミューズメントパーク化したラブホテルくらいの差、
はさすがに例えが悪すぎるか。
とにかく、ただ麻雀を打つだけにしてはラグジュアリー極まる空間なのだが。
卓に着く人々の顔は暗い。
緊張しているのではない。
集まっているのは妃嬪や後宮務めの侍女たち。
『柱1本で庶民の年収』みたいな空間とて、今更気後れすることはない。
ではなぜかと言われれば、当然
(((((こんなときに、殺人鬼もいるメンツで麻雀なんか打っていられるか!!)))))
これしかない。
誰も楽しくないし、嫌に決まっている。
しかしご説明したとおり。
現に人は集まっている。
熱発したタジ以外は全員がこの場にいる。
于妃の説得があったからである。
『とりあえず予定どおり、麻雀大会(特に優勝者とかはない)を開催しよう』
と発表した際。
前述の心の声は、実際に反論として口頭に上った。
それを于妃が粛々と切り返したのである。
『ならばむしろ、やるべきではないのか』
『犯人の狙いが、何も邱妃ひとりと決まったわけではない』
『その場合、個々バラバラでいるのはよくない』
『邱妃は個室で殺害されていた』
『単独行動は狙い目になる』
『あるいは、あなたの相部屋が殺人鬼かもしれないぞ』
『だから麻雀大会をした方がいい』
『ひとつの空間に全員を集めて、相互監視すれば安全が確保される』
内容の正しさや説得力以上に、妃嬪たちは恐慌状態になっている。
ゆえに自身で何か考えることはできず、何より
『自分で判断する』
『それが結果、つまりは自身や他人の生死を分けるかもしれない』
というプレッシャーに耐えかねて。
于妃のそれらしい言葉に乗っかることとなった。
(まぁ、麻雀をする、『飛少女に見せる』だけなら、4人もいれば可能だったがな)
于妃も必死である。
そりゃ当然。犯人なのだから。
という経緯で、麻雀大会がスタートした。
しかし、前述のとおり空気は重苦しく、会話もない。
ひたすら洗牌*の音が響く。 *牌を混ぜる、トランプでいうシャッフル。
ややあっても摸打*に切り替わるだけ。 *山から牌を取り、手牌から1枚捨てる。
副露*の宣言もボソボソと小さい。 *条件によって他人の捨て牌をもらえる。
麻雀には『地獄単騎』なる『待ち』の形があるのだが。
真の地獄*はここであろう。 *『地獄麻雀』だとポルノ映g
全員競技に集中している、ということにしておこう。
そんな雰囲気の中で。
ひとつだけ、会話が盛り上がっている卓がある。
「では基本的なことから覚えていこうか」
「お願いしまーす」
于妃、小鳥、郭妃、欧陽貴妃の卓である。
競技には参加していないが、喜二娘も貴妃の後ろに控えている。
ここだけはゲームではなく『よく分かる! わくわく麻雀初心者講座☆』。
集中してピリピリ競うこともないし、会話しないと始まらない。
「まずは牌の種類から覚えよう」
先生役は于妃が務める。
買って出ると郭妃も譲ってくれた。
イカサマ抜きにしても純粋な雀力は于妃の方が高い。
適任と判断したのだろう。
イカサマといえば、もし邱妃がいたら
『あら? 初心者にイカサマから教えるつもり?』
とかグチャグチャ口を挟んできただろう。
(殺しておいて大正解だ)
于妃の偽らざる本音
というか、彼女は彼女でどこか、倫理観がズレているのだろう。
邱妃みたいな物言いになるが、イカサマや殺人をする人間なのだから。
「まず牌には大別して、
『数牌』
『字牌』
『花牌』
の3種類がある」
ではなぜそんな人間が、わざわざ麻雀教室の講師を買って出たのか。
せめて社会貢献して罪滅ぼし、などではない。
「そうだな、数牌はさらに種類が分かれるし、花牌は処理が特殊だし。
ここは字牌から解説しよう」
于妃の目が、容器に収められた牌の列をなぞる。
東、南、西、北、白板、緑發、紅中
(お嬢さん。『雀の字』から麻雀にたどり着いたのは賞賛に値する。
『麻将』呼びする人の方が多いしな。
しかし、だからこそ、ここから先は麻雀の知識がなければ進めない。
あるいはタジ相手なら、その心配もなかっただろう。
だが)
当の小鳥は、ほへーっと牌を眺めている。
(知らぬとあらば、手ずから導くしかない!
なぁに、それはそれで都合がいい。
私の描いた絵図をなぞるべく、都合よく育てられるというもの!)
イレギュラーが起きたら修正すればいい。
かつ、何事も自然に展開するのを見守るより、自分でやった方が確実。
それだけのことである。何も心配はいらない。
「これらは順番に、東、南、西、北……」
「あ、見て見て郭妃さま。この牌、魚描いてある」
「お、ホントじゃん」
「聞いて」
「そういえば、聞いたことがある」
「知っているのか郭妃さま!」
「こっちじゃ一索は魚が定番だけど。
朝中*あたりじゃ、
鳥が一般的なんだと」
*朝夏の国土において東部、緯度が真ん中あたりの地域。
「鳥!」
「しかもその鳥な?
雀や孔雀が多いらしいぞ?」
「雀!」
「待って」
「じゃあ犯人は、
『一か索が名前に含まれている人』
だ!」
(違あああああう!!!!!!)
于妃はあと少しで、声を上げるか頭を抱えるかするところだった。
(確かにその筋は見落としていたけど! 私が言いたいのはソレじゃない!
というか、せっかく複雑な暗号を作ったんだぞ!
安直にゴールせんでもらいたいんだが!?)
「あるいは竹さん! なんか図柄が竹っぽい!」
(があああああ!!)
やはり、心配しかない。
失敗しかない?




