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1.

 夜、大京の街、目抜き通りの中でも1等

 とまではいかないが、1.5等とは言ってもいい。

 そんな立地の大劇場。



 舞台の上で、20人近い数の老若男女が車座で座っている。


 中心には中年の男性がひとり。

 紙を手に持ち立っている。


「えー、いよいよ明日は、待ちに待った宮中での公演ということで」


 その切り出しに、ざわざわする者、真剣な顔で黙る者、さまざま。


 男は静かにさせる合図として、持っている紙をパンパン叩く。


「以前から話しているとおり、今回の公演は午前・午後の二部制になっている」


 この発言と座っている場所から分かるように。


 彼らは大京でも指折りの劇団なのである。

 それも、一般人は一生踏み入ることもない宮中に呼ばれ、劇を披露するほどの。


「ということで今回、団員を『空組』『海組』に分けたわけだが」


 男、座長の声がわずかに低くなる。

 彼自身すら緊張しているのだ。


「今からどちらの組がどちらの部を担当するか、発表する」


 いわゆるダブルキャストで行うらしい。


 というのも、この『銀屏(インピン)劇団』は大きい劇団ながら、メンバーは全員役者。

 美術や黒子の『裏方専門スタッフ』がいないのだ。

 そういうのは全て、そのとき出演しない役者がやっている。


 だがそれでは当然、一部からは不満が出る。

 全員役者なのだから、出演したいのが本音だ。


 ゆえにダブルキャストとすることで、役からあぶれる期間をなくしている。


 それ自体は実力主義の世界にあって、最大限平等を目指した素晴らしいシステムなのだが。



「全員知ってのとおり、午後の部には皇帝陛下ご夫妻がお越しになる予定だ。


 大変栄誉なことであるともに、責任重大でもある。

 心するように」



 実力主義なのは変わらない。

 チャンスは平等でも、得られる栄光は違う。



 キャストたちに緊張が走る。


 歴史に名を刻みたい者

 単に役者として行ける高みまで昇りたい者

 劇団内では下位チームと判定されたくない者

 皇帝の目に止まって玉の輿、を夢見る者もいる。


 座長にとっても、皇帝のお気に入りとなるかで劇団の未来が大きく変わる。

 だからよりクオリティの高い方をぶつけたい。



 また、会場は宮中に用意される。

 というわけで、彼らは本番の日まで立ち入れない。


 真のかたちでのリハーサルはできていないのだ。


 というわけで、舞台の広さ、床材の硬さや滑り。客席の広さと声の響き方。

 そういうものは、やってみなければ分からない。


 彼らがもらった情報はせいぜい、感覚でイメージできない数字での舞台幅と


『屋内劇場』


 ということだけ。


 つまり実質


『午前の部はリハーサル』


 であり、


『感覚を確かめ、共有し、午後のチームに活かす』

『失敗前提』


 の扱いを受けているのだ。


 だからそもそも、皇帝夫妻は午後の部に来る。



 しかし午前の部も。

 御前でなくとも場所は宮中。客は貴族に文武百官、妃嬪たち。

 一世一代の晴れ舞台を、『捨て』にされると思ったら。



 やはり誰だって、午後の部に出たいに決まっている。



 それはダブルキャストで主演の片方を演じる青年、


 薛吉(シュエジー)にとってはひ(・)と(・)し(・)お(・)のことであった。



 車座の、座長から見て左側の弧を形成する『空組』。

 その中心であぐらをかく彼の正面では、


『海組』で同じく主演を務める、

 蔡盛(ツァイション)が膝を抱えて、アゴを乗せている。


「では発表します」


 手を合わせて祈る者

 今からでも圧を掛けようと座長を睨み付ける者

 あえて『オレ興味ないっス』という態度で心に予防線を張る者

 すでに失神しそうな者


 多くの注目、いや、念が注がれるなか、答えは、


「まず午前の部は、



『空組』」



 ほんの一瞬だけ、ヒャッと悲鳴が上がる。


 落選した『空組』のものもあるだろう。

 勝ち取った『海組』のものもあるだろう。


 だがどちらかが多いかというと。


『空組』の多くはショックや現実を受け入れられず、声もない。


『海組』の面々が歓声を上げかけ、ハッと向こうを気遣いやめた結果だろう。


「午後の部は『海組』とします。以上」


 人の心理とはそういうものか。

 自分たちが午前と聞かされた時点で確定しているのに。

 午後が『海組』と正式発表されてから、『空組』の面々がうなだれ始める。


 結果、相手の視界に映らなくなるからだろうか。

『海組』の面々も控えめにハイタッチなどをする。


 その中で当然、蔡盛も隣の男と握手などしているのを、


 薛吉だけはうなだれず、じっと睨むように見つめていた。











 その後、薛吉は仲間とともに飲み屋で管を巻いていた。


「ふっざけんなよなぁマジで!」

「おうおうおうおう!」

「あの座長(クソオヤジ)、ぶん殴ってやろうか!」


 明日は午前番だというのに夜更かし。

 で(・)き(・)あ(・)が(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)者もいる。


 しかし仕方ないのだ。


『自分たちは捨て』

『本命のクオリティを高めるための、死ぬのが仕事のテストパイロット』

『劇の内容にはハナから期待していない』


 と言われた

 わけではないが、彼らの中ではそういう解釈になっているのだから。


 だったら真面目に、クオリティが高いものをやる意味などない。

 二日酔いで行ったらいいのだ。

 むしろ『海組』に情報を渡したくもねぇ。


 そんなスタンスになっている。

 あるいはそんな負け犬根性が、結果を分けたのかもしれないが。



 しかし、不公平とまではいかないが。

 よくない采配があったのも確かで。


「絶対実力で選んでないわよ! あのハゲ!」

「ハゲではないだろ!」

「心がハゲ!」

「うーむ無敵理論」


「自分が『海組』だから、『海組』選んだに決まってるでしょ!」


 実力だとしても、邪推できてしまうポイントはあった。

 そもそもこうなったのも、


「いーや、実力ではある。オレはこうなると思ってた。


 組み分けの時点で座長や蔡盛、育育(ユゥユゥ)があっちだった時点でな!


 すでに1軍2軍は決まっていたのだよ!」


 こういう前提がある。


 そして正直、これは事実だろう。


 劇団としては絶対に失敗できない公演なのだから。

 くじ引きなどして戦力を分散している場合ではない。



 だが、そういう意味でも薛吉には悲劇があった。



「オマエはなぁ、惜しかったなぁ」


 仲間のひとりが彼の肩を叩く。


「善吉(ゼンキチ)役じゃなけりゃ、午後の部に出れてたかもしれねぇのになぁ」

「……よせやい」


 そう。いかに捨ての舞台と言えど。

 あまりに酷くては劇団の名前に差し障る。



『せめて主役だけは立派な演者を立てよう』


 その考えのもと、実力がありながら『空組』に振り分けられた、



 言うなれば生贄が、薛吉なのである。



 蔡盛との主役争いに敗れたために。



 いわゆる野球などで、


『他チームならレギュラーなのに、ポジション被りのレジェンドがいるのでベンチ』


 みたいな状況になっている。


 それだけでも救いがないというのに、


「しかもさぁ、オレ、思うんだよな。


 今回のは絶っっっ対、吉の方が上だ」


「オレもそう思う。名前で言ってるんじゃねぇぜ?


 蔡盛もうまいが、やっぱりアイツはシュッとしすぎてる。

『百姓上がり』『最強のサムライ』ってガラじゃねぇや」


 それは個人の価値観の範疇だが。


「しかも座長も、恨まれたくないからってねぇ。

 先に組を分けちゃって。


 演技見てから選抜したらよかったのよ」



 普段の劇では、組み分けにオーディション方式を採る。

 分けるより先に実力を見ておくのだ。


 その後は実力者を固めず両方に分散させるので、誰もチームによる差など感じない。


『1軍に選ばれた』

『2軍に落とされた』


 という概念がない。



 が、今回は違う。


 それだけに座長も不平不満を恐れ、先にチームを分けて、


『今回午後の部に出られないのは、君個人の実力で落としたわけじゃないよ』

『チーム全体で見て、残念ながら差があっただけだよ』


 と、表向きの言い訳を用意したのだ。



 その結果、今までの演技では蔡盛にやや劣ってきたということで、


 薛吉は正当に評価されることなく、『空組』に入れられたのだ。


 ついに『チャンスは平等』すら奪われたのだ。



 これの何よりの問題は、


「よせって。でもありがとな。少しは気が晴れるぜ」



 薛吉自身もそう思っていること。



 関連して、


(オレの方がいい舞台にできるのに!


 周りの連中の腕が違うから!



 蔡盛! オマエは所詮運だけ、周囲からおんぶに抱っこの男だ!

 実力じゃねぇ!



 オマエが御前に出る資格なんかねぇんだぞ!!


 本当ならそこは、オレの席だったんだぞ!!)



 そんな怒りも渦巻いている。










お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

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よろしくお願いいたします。

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