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13.

 初日も弔問のあと、夜にタジと会った。


『お役目の帰り』


 と偶然を装っていたが、どうせ探し回っていたのだろう。

 江貴妃のなかではそれが真相と決められている。


 ゆえに彼女には、


『タジは2度来る』


 そんな意識があった。

 そのため昼に追い返したあとも、






「お口に合いませんか?」

「いえ、やっぱり飛貴妃のことを引きずっているのだわ」


 貴妃ともなれば、ダイエットに勤しむことも日常茶飯事。

 なので急に食べる量を減らしても、何も言わないのが侍女のマナー。


 その不文律を破って心配されるほど、食事が進まなかった。






 それだけではない。


 風呂場でも思い悩んで。

 さらには


『部屋に戻ったらまたタジが待ち構えているのではないか』


 というイメージにも囚われて。

 なかなか湯船から出られずの(・)ぼ(・)せ(・)る(・)羽目に。






 極め付けに全然寝付けない。

 昨日より寝付けない。


 より相手が真相へ迫ってきたこともある。

 が、寝室で詰められたのがよくなかった。


 現場となった部屋は、いるだけで昼のことを想起させる。


 しかもタジがベッドに腰掛ける姿を実際に見たため、イメージがしやすい。


『気付けばそこにいるのではないか』


 と思うまで病的に囚われてはいないが。


『そのイメージに囚われ、ベッドの中でもがき苦しむ自分』


 の図は想像できてしまう。

 それが心臓を締め付ける。



 結局江貴妃が寝られたのは真夜中。

 さすがに肉体の限界が勝って、気絶に近いかたちで眠りについた。











「うーん……」


 江貴妃が目覚めたのは昼まえだった。


 本来なら決まった時間に侍女が起こしに来る。

 そしてカーテンと窓が開かれる。


 が、今日はそうなっていない。


『お疲れだったから眠らせておこう』


 そういう配慮があったことを江貴妃は察した。

 起床時間より早く起きた可能性については。

 カーテンの隙間から溢れる光が、早朝のそれではない。






 侍女たちの配慮は正解であるとして。


「お腹空いた」


 昨晩は少食、朝食は抜き。

 何より寝てしまえば落ち着いたか。

 さすがに江貴妃も食欲が湧く。



 彼女は部屋を出て、階段を下り2階へ。


 すると、


「あら、貴妃さま」

「お目覚めになられましたのね」

「おはようございます」

「えぇ、おはよう。お腹が空いたわ。何かすぐ出るものはある?」


 集まっていた侍女たちのなかから、


「貴妃さま」

「何かしら」


 ひとりが寄ってくる。

 もちろんさっきの今で朝昼兼用食を持ってきたのではない。

 かと言って世間話をしに来た顔でもない。


 彼女は緊張した顔で告げる。


「先ほど、皇帝陛下より遣いがいらっしゃいまして」

「なんですって!?」



「『目覚め次第でいいので、祥鳳閣へ来るように』



 と」











 簡単に粥と香の物とゆで玉子で食事を済ませて。

 江貴妃は特に急ぐこともなく、正午過ぎに祥鳳閣へ向かった。


 皇帝のお召しを蔑(ないがし)ろにしたのではない。

 到着すると女官に


「3階へどうぞ」


 と促され、階段を上った先。

 部屋の中央に立っているのは、


「はぁ。



 ま、場所が祥鳳閣の時点で察してはいたわ」



「それはそれは」


 陛下本人でもその遣いでもなく、


「陛下の名を持ち出して騙(かた)るなんて、これは大変な罪よ、



 タジ」



 やはりこの女。


「ご安心ください。許可は取っていますから」


 タジは深々と頭を下げる。


 それより問題は、


『彼女が江貴妃を呼び出すにあたって名を使うのを、皇帝が許可した』


 という点である。

 嫌な予感を潰すように、江貴妃は袖を握る。


「それで? こんなまでして私を呼び出して、今度は何かしら」

「おや、心外ですね。ご自身でおっしゃった。


『自分がやったという証拠を出せ』


 私は答えた。


『次回はそうします』


 と。


 覚えていらっしゃらない?」


 分かっていても、江貴妃の心臓がキュッとなる。

 いっそこのまま止まってくれれば楽なのに、とすら思う。


「自惚(うぬぼ)れないで。

 その価値がないことを覚えているほど暇ではないの」

「左様ですか。でも結構です。大事なのは今から話すことなので」


 江貴妃は近くにあった椅子に座る。

 きっと長くなる。


「ではまず、事件の流れをおさらいしておきましょう」


 それを見てかタジも時間を掛け……

 いや、彼女なら相手が逆さ磔になっていても、自分のペースで話すことだろう。


「まず事件当夜、あなたは飛貴妃に部屋へ招かれます。

 その日は実質面会謝絶状態だった彼女に、こっそりと。


 ここまではよろしいですね?」

「えぇ、事実よ」


「そこであなたは飛貴妃に、


『陛下の子を懐妊した』


 と告げられます。

 自身が最も欲(ほっ)し、かつ決して手に入れられないものを見せ付けられたあなたは、


 嫉妬のあまり、飛貴妃の首を絞めて殺害します。


 使ったのは、この」


 タジは手を挙げ、『少し待って』というようなジェスチャー。

 それから後ろへ下がると、そこには文机が置いてある。

 その上に畳まれているものを彼女は手に取る。


「こちらの帔帛。

 侍女の方に確認しましたが、飛貴妃が事件の日に使っていたもので間違いないそうです」

「で?」


「次にあなたは、偽装工作を試みます。すなわち


『遺体を他殺ではなく自殺に見せ掛ける』


 です」


 タジは立ち方を半身に変えて、文机が江貴妃へ見えやすいようにする。

 帔帛の下には、硯と筆、紙が置いてあったようだ。


「そのためにあなたはまず、遺書を偽造することにした。

 あとで遺体が見つかったとき、自殺の線を補強するための演出です。


 ですがここで、嫉妬心で反抗に及んだあなたは、余計な色気を出してしまった。


『懐妊の事実も貶めてやろう』


 そう考えたのです」

「やりそうな貴妃は、いくらか思い当たるわね」


 タジが頷いたのは相槌か、『オマエだ』というジェスチャーか。


「それであなたは遺書に、


『お腹の子は弟との不義の子』


 と書いた。本当に余計でした」

「私もそう思うわ。書いた人に対してね」


「それからあなたは首吊りに見せ掛ける方へ移ります。

 しかし女性の腕力で、遺体を天井の梁まで持ち上げるのは無理があった」


 ここでタジは文机の横から回廊の方へ部屋を横断する。


「困ったあなたは欄干を使った首吊りに切り替えます。

 あの高さなら、がんばれば遺体を持ち上げられないこともない」


 タジが欄干に触れた位置は、奇(く)しくも江貴妃が飛貴妃を吊るした位置。

 偶然か、それとも。


「あなたはここから飛貴妃を外へ投げ落とし、首吊りのかたちを作った。

 これで工作は完了と、満足してお帰りになるわけですが。


 ひとつ想定外となったのは、翌朝遺体が落下していたことですね。

 ま、女性が震える手で結んだんです。緩かったんでしょう」


 一番の想定外はオマエが現れたこと

 とは、江貴妃も口が裂けても言えない。


「というのが『鷹の目(わたし)』の見立てですが、いかがでしょう」

「『流れのおさらい』ではなくあなたの妄想だったけど。

 お話としてはよくできていたんじゃないかしら?」

「光栄です」


「で、証拠はあるんでしょうね?」


 江貴妃もやられっぱなしではいられない。

 椅子に座り、アゴに手を添えたまま、グッと身を乗り出す。


「ここまで人を中傷しておいて、


『私はそう思っている』


 じゃ話にならないわよ?」


 が、


「ご安心ください」


 タジも受けて立つように頭を下げる。

 というよりは、目線の高さを合わせてきたか。


「ここに、


『遺書を書いたのがあなたである』


 という動かぬ証拠がございます」










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